魔獣魔導士の冒険譚〜姉が魔王を目指してるらしいので全力で止めようと思います〜
あさひ
始まりの襲撃
第1話 出会い
薄暗い森の中、梟の鳴き声が夜の始まりを告げる。奇怪な形状をした爬虫類や、獰猛な獣達が腹を満たす為に行動しだす。
それに対し身を守る為に罠を仕掛けるもの、身を隠すもの達も行動を起こす。
そしてここにもひっそりと身を潜めるものが1匹・・・いや1人。
「ハアッハアッ・・・早く隠れ家に・・・」
息を切らしながら懸命に走る少女がいた。
獣に気付かれぬよう出来るだけ土を服につけ匂いを誤魔化し、音を立てないよう足元に注意しながら歩を進める。
「見えてきたっ・・・!!」
掠れた声で思わず目的地に近付いてきた喜びが零れる。
ーーしかし
「ッ!!」
突然少女の前に動物が荒々しく駆けてきて止まった。兎のような形をしたそれは藍色の瞳を光らせながらジリジリと近寄ってくる。
見た目は兎といえども大きさは成熟した虎と変わらないそれは見た目に似合わない鋭い牙と殺意を剥き出している。
「最悪・・・さっきの独り言が聴こえたのかな・・・」
一瞬の気の緩みから生まれた状況。後悔と絶望に埋め尽くされながらこの状況から抜け出す考えを導くべく思考を必死に巡らせる。
「キャオオオオッ...」
だが現実は非情。
大した力も技も武器も持っていないこの少女には捕食される未来しか残されていない。
死の恐怖を前に少女はただただ涙を零し、身を震わすことしか出来なかった。
「キャオッ・・・!!!」
しかし目の前の兎もどきはなにかの衝撃を受け大きく怯む。
その巨体が地面に倒れそうになるのを堪えようとし、僅かな隙が生じる。
一瞬、何が起きたのか整理ができず頭が真っ白になった。しかし生きる本能がその隙を見逃さず即座に足を強く地面に踏みしめ走り出した。
後方で先程の鳴き声が聞こえるが、なりふり構わず、生きる為だけに走る。ただひたすらに。
無事に隠れ家についた少女は混乱と安堵の中気持ちを落ち着けようとする。
「なんでこんなことになっちゃたんだろう・・・」
ふと零れた言葉。
大きな大木の樹洞の中で布を敷き、隠れ家としている。その中でさっきまでの恐怖がフラッシュバックし、身体の震えと涙が再び止まらなくなる。
少女は先程取ってきた木の実をかじりながら徐々に落ち着きを取り戻していき、空腹を満たしていった。
気が付くと取ってきた木の実は残り僅かになっていた。
空腹の余り食べることに没頭していたようだ。
残りの木の実は明日の朝の食料しようか、そう少女は考えながら身体を休める支度を始めようとした。
ーー「おい、あんた」
「!?」
突然の声に身体が硬直する。
「後を追ったけどこんなとこにいたのか...助けたのに礼もなしに逃げるのは酷いだろ...」
辺りの暗さから顔がよく見えなかったが、よく見るとその人は少女より背が高くフードを被った青年のようだった。
「え・・・あ、あの、どなたですか・・・」
突然の事に困惑を隠せない少女。
そんな少女にすこし呆れた様子を見せながら青年は説明を始める。
「あのな・・・あんたさっき魔獣に襲われてたろ、アレぶっ飛ばして倒したの俺なんだぞ」
「え・・・あっ・・・え、あの魔獣を・・・?」
「ああ、あのままだったらアンタ食われてたろ」
少女の中で先程何が起こったのか徐々に理解しだす。
つまり魔獣が衝撃を受けて怯んだように見えたものは、この青年が魔獣の不意を衝き攻撃して助けてくれたのだ。
「あ、ありがとうございます!私怖くてどうしようもできなかったので本当に・・・」
「いや、礼は正直いいんだ、てか礼として少し貰いたいもんがあってな」
「貰いたいものですか・・・?ごめんなさい・・・私大したものは何も持ってなくて・・・」
「いや、その持ってる木の実を少し分けてくれたらそれでいいんだ・・・腹が減りすぎて何も食べてなくてな・・・」
そう言い少年は涎を微量に垂らしながら少女の持っている木の実を指差す。
「・・・あ!お、お腹が空いてたんですね!ど、どうぞ!良かったらあなたもこの中に入って休まれてください!」
「それじゃお言葉に甘えて」
青年は樹洞の中に入り少女から貰った木の実を次から次へ頬張り空腹を満たしていく。
あまりの勢いの食事に少女は呆気を取られ口を開けて眺めていた。
「うまかった、ごちそうさん・・・自己紹介がまだだったな、俺はジグって言って訳ありで最近旅をしだしたんだ。で、あんたこんな時間のこんな所になにしてんだ」
木の実をあっという間に全て食べ終えた少年、ジグは自らの疑問を少女に投げかけた。
「あ・・・えと・・・私はニマって言います・・・
実は私今日自分の集落から追い出されちゃって・・・
ほんとに何も旅の準備とかもさせてもらえないまま追い出されたから食料も道具もほぼ少なくて、集落から少し離れたこの森はよく来たことがあるのでとりあえずここで休もうと思ったんですけど・・・夜ってこんなにも危ない魔獣が蔓延っていることを知らなくて・・・」
「はあ・・・???」
ジグは困惑と苛立ちの意が混ざった声が漏れる。
それもそうだろう。
目の前にいるニマと言う少女は自分より年下か同年代であり、そんな少女をなんの支度もなくいきなり集落から放り出し結果的に先程のような危ない目に合わせているのだ。
一体集落の人間は何を考えているのか。
「あんた・・・じゃなくて、ニマさ、なんで追い出されたんだ?そんなに酷いことやらかしたのか??」
急に集落から追い出すぐらいならそれ相応の理由があるはず、しかしそんなジグの考えとは違う理由を聞かされジグは驚愕する。
「あの・・・私の集落ちょっと特殊な魔導の集落なんですけど、その・・・私と同年代の子達は次々に独り立ちに充分な技術を身につけて街に旅立っていったんですけど私だけ長い時間ノルマを達成できなくて・・・それで私は破門って形で追い出されちゃったんですよね・・・」
「は?要するにノルマ達成できないから追い出されたってのか?しかも最低限の準備も知識もさせて貰えずに急に・・・?」
「ま、まあそうなりますね・・・」
アハハと苦笑いをして誤魔化そうとするニマを見てジグは苛立ちを現す。
「有り得ねえだろ・・・いくらなんでもそんな理由でアンタを危険に晒す可能性が高いこんなことをしたのかよ・・・」
本当にアンタのことをなんとも思わない人間達なんだな、出しかけようとしたその言葉を呑み込む。
このニマという少女にとってはその人間達に囲まれて生きてきたんだ。
恨んでる様子も見られないことからある程度親しみはあったのだろう。
その人間達を否定してしまったら余計ニマは悲しむだろう。
「ま、まあアンタも大変だったな・・・これから先のことは考えてるのか・・・?」
「い、いえ、まだなにも・・・ジ、ジグさんこそこんな森にどうされたんですか・・・?」
ニマの言葉によって心配そうな眼差しをしていたジグは急に神妙な顔つきに変わる。
「俺は・・・ここから少し距離があるところにある集落の出身でな、信じられないかもしれないが・・・木属性の大規模な変質魔法と思うんだが、簡単に言ったら集落全体が家族や仲間達ごと木に変化してしまった・・・
どうしたらいいかも分からずとりあえず使えそうなものだけを持って手掛かりを探しに旅に出たって感じだ。」
眉間にしわを寄せ困惑した顔で話を聞いていたニマが口を開く。
「あの、私魔道の集落なのである程度の知識はあるんですけど、木属性でそれも変質魔法ってだけでも相当希少なのにそれが大規模な地域、人ごと変化させられたってちょっと信じ難いです・・・疑ってるわけじゃないんですけど・・・」
「まあ、そうだよな、魔法に疎い俺でも相当特殊なことが起こったって理解してる。じゃあ、その証拠を見せなきゃな」
「証拠・・・?」
ジグはそう言うと右顔面に巻いていた包帯を解いていく。ニマは次から次へと驚くことが繰り返され気が動転しているからか顔に包帯が巻いてあったことに今気づく。そして――
「ほらよ」
まるで木の幹が埋まっているようにジグの右顔面には樹木が覆われていた。
「えっ・・・本当にそんなことが・・・」
目の前の奇妙な光景に驚きを隠せないニマ。その反応を見てジグは当然か、という表情で話し出す。
「まあ、無理もないよな、俺自身違和感でしか無いし、触っても何も感じ無い・・・なにがなんだかって感じだ。そうだ、あんたなにか木属性の変質魔法についてなにか知らないか?知ってることがあったらなんでもいいから教えて欲しい・・・」
そう懇願するジグを見て気まずそうにニマが答える。
「あ、あの・・・言いづらいんですが・・・私のお姉ちゃん、実は木属性の変質魔法の使い手なんです・・・」
「ーー・・・は??」
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