第3話

おばあちゃんが目を覚ましてからも変わらず病院へ通い続けた

なんとなくおばあちゃんといられる時間は残されていないような気がしたからだ

学校の話や進路の話、家のこと、勉強のこと、部活のこと等できるだけたくさんたくさん話をしておきたかった

おばあちゃんとの思い出を心に刻んでおきたかったし今のうちに聞けることはたくさん聞いておかなきゃって思っていたから

そんな中おばあちゃんはいつも楽しそうに笑っているけど、時々悲しいような寂しいような、そんな顔をする

そんな寂しそうな顔を見たくなくて私は必死におばあちゃんに語りかけてたくさん笑顔を見られるようにいろんな時間を過ごした


いつものように楽しくお話をしているとおばあちゃんは突拍子もないことを言い出した

「ねぇ幸、もしこの世に人ではない存在がいるかもしれないと言ったら幸はどう思う?」

私は戸惑っていたけれど、おばあちゃんは至って真剣な表情で聞いているのだ

「なんで突然そんなこと言うのかわからないけれど、もし本当にそういう存在がいたとしたら一度くらいは話をしてみたいなぁって思うかなぁ」というとおばあちゃんは小さく「そう…」と言って微笑んだ

それからおばあちゃんはその時のことを懐かしむように語りだした

「おばあちゃんは小さい頃、今の幸よりも若いときに家族で旅行に行っていてね、山でキャンプをしていたことがあってね。

そこが広い花畑になっていてね、花を積んで遊んでいるとき小さな蝶々に目が行って、その蝶がどうしても気になるから捕まえようと必死に追いかけていて気づいたら迷子になっていてねぇ。

みんなのところへ戻ろうとしたとき目の前を小さな妖精が横切ったんだ。

その妖精は緑色の草花で体を覆っていて、綺麗な金色の髪を一つに束ねてピンクの花を髪飾りにして一本の白い花を持ってフワフワ飛んでいたんだよ。

私はびっくりしたのと同時に興味が湧いてその妖精に可愛い!と目を輝かせながら声をかけたんだ。

そしたらその妖精はびっくりして飛び上がってこっちを見たかと思うと一目散に草むらの中へ逃げて行ってしまってね。

くまなく探したけれど見つからなくて、結局探し回った家族につれられてキャンプに戻ってしまったんだ。

その妖精を何度か探しに行こうと試したんだけど両親がずっと見張っていたせいで探しに行けずに終わってしまったんだ。

おばあちゃんはあの妖精がとても綺麗で華やかで可愛くて、今でも忘れられないんだよ」と話してくれた。

あまりに非現実的な話だけど、なんでか私にはそれが本当にあったことなんだと心の底から感じて「そんな可愛い妖精さんがいるなら、私も会って話してみたいなぁ」とき言うとおばあちゃんは「幸なら会えるかもしれないね、妖精は心優しい人に近寄ってくると言っていたからね。幸は心優しいかわいい女の子だからきっと来てくれるよ」と言ってくれた。

おばあちゃんの小さい頃の話を聞けてとても嬉しかった。


毎日おばあちゃんと他愛ない話をいつまでもいつまでも出来ると何度も心で願っていた

でもその幸せは長くは続かなかった

私が学校で授業を受けていると突然担任の先生が私に早く荷物をまとめて病院に行くように言ってきた

その言葉を聞いた瞬間から悪寒が止まらず血の気が引いたような感覚がした

体の芯から冷えて行く感覚を感じながらも私は真っ白な頭のまま荷物をまとめ教室から飛び出し、おばあちゃんの入院する病院へ走った

病院に着きそのまま病室へ向かった

病室に入るとおばあちゃんの担当のお医者さんとカナさん、その他おばあちゃんと仲良く話していた看護婦さんたちがベッドを囲んでいる

看護婦さんの中には目元をハンカチで覆って肩を震わせていた

担当のお医者さんは息を切らして呆然とその光景を見ている私に一言、こう言った


「ご臨終です」


私はその言葉を聞いても尚立ち尽くすことしかできなかった

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