第11話 ミーアキャットの自涜
案の定、ベッドシーツの上には隊長さんのニオイがまだたっぷりと残っていた。フレンズからは決して発せられることのない、発酵した、本物の発情したオスのニオイ。ミーアキャットは、その上で浅ましく腰を振ることを止められないでいた。
あの夜、目を真っ赤に泣きはらしながら隊長さんの部屋を出ていくドールと一瞬だけ目が合ってしまった。見たこともない、全部の色の絵の具をぐちゃぐちゃにぶちまけたようなドールの顔。なぜ隊長はドールを抱かなかったのだろう。お互いあれだけ想いあって、妨げるものなど何もないはずなのに。
思わず隊長さんに詰め寄った。義憤に駆られた。獲物を横取りするチャンスだとさえ思わなかった。みっともないほど発情し、淫らな臭いをまき散らす隊長さんは、それでも自分の手を跳ねのけ、フレンズと交わることを選ばなかった。フレンズと交わることは出来ない。ヒトにはヒトの掟があるのだと。
「どうして――っ!」
枕に股間をこすりつけながら、ミーアキャットは鼻の奥の方がツンと痛んだ。ドールが駄目なら、まして自分などにチャンスがあるはずもない。隊長さんのちんぽが欲しい。腰と腰をばちばちと打ちつけ合いたい。甘ったるいまがい物なんかじゃない、本当の、子孫を、子種を残すための交尾を。
「素晴らしい…ですわっ ――隊長さんっ! はなまるを…差し上げますの…っっ!」
布団の中で、隊長と自分のニオイが混ざり合う。
「――――っっ❤❤ っっ!!」
ミーアキャットの身体がひときわビクビクと跳ね、空気の抜けたようにしぼんでゆく。自分は、いまどんな顔をしているのだろう。
枕に鼻を押し当て、もう一度だけ隊長さんと自分の混ざったにおいのする空気を深く吸い込んでから、シーツの乱れを片付ける。ヒトは獣の中でも特に鼻が悪い方だという。今日自分がここで何をしていたか、あるいは隊長さんには気づかれないかもしれない。…だが、ドールには隠し通せるはずもないだろう。
「やっちゃった…かな。」
ドアの外から漂ってくる夕餉の匂い。指に絡んだ自分のしずくを舐めとりながら、ミーアキャットはこれからの平穏とはほど遠い日々の事を思っていた。
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