第10話 Beast Wars

フレンズたちの間で腕相撲大会が開催されることになった。優勝賞品は破格のジャパまん(大)100個である。腕に覚えのあるフレンズたちは色めき立ち、自信のないも者たちもまあそれなりに、部門賞の木の実や果物を目当てに集まってきた。


エキシビジョンとしてなんと人間の隊長さんも袖をまくり、浅黒く精悍な力こぶを見せ周囲を沸かせたりもしたが、結局フレンズの中でも一番非力なマイルカやアルマジロと何とかいい勝負になったぐらいで、やはり人間の腕力ではそうそうフレンズには敵わないことが確認できただけだった。普段の力比べではまるでいいところのないミナミコアリクイなどはここぞとばかり得意な顔をしている。とまあ、上位に食い込むあてのない普通のフレンズたちにとっては、日常のちょっとしたレクリエーションとして楽しい時間が過ぎた。風向きが変わったのは、昼食を挟んでのことである。


「地上最強のフレンズを見たいかーーーーッッ!!」

マイクを唾でびちゃびちゃに濡らしながらマーゲイが叫ぶ。

「お~~~~ッ!!」

手を挙げそれに応えるフレンズたち。破顔するマーゲイ。

「ワシもじゃ ワシもじゃみんな!! さあ! 全選手入場です!!」


「虎殺しは生きていた!! 更なる研鑚を積みフレンズ凶器が甦った!! 武神・ブラックジャガー!!」

「真の護身はすでに我々が完成させているッッッ どうぶつ流忍術・アイアイだ!!」

「何でもアリならこいつが怖い!! ピーチパンサー!!」

「でかあああああい説明不要ッ ヘラジカ!!」


歴戦のフレンズたちが名乗りを上げるたびに空気が震え、場がヒートアップしてゆく。しかし、やはり一番の本命と目されているのは。

「ライオンの登場だーーーーッッ!!」

「おおおおお~~~!!」

貫禄たっぷり、丸くぐるりとフレンズに囲まれた草原のど真ん中に悠々と歩を進めるライオン。


予選3回戦でライオンに敗れた警備隊隊員・ハシビロコウは語る…。

「あれは闘争などではなかった…。体重ッ 腕力ッ おおよそすべてが規格外の存在ッ!! そうッ! フレンズ同士と言えど重火器の使用を認めるべきだったのだッッ!!」

意外とハシビロコウのノリのいい一面が確認できたところで話を戻す。


並居る強豪たちを押しのけ、遂に決勝の舞台に上り詰めたライオン。「青龍」とショドーされた幟はためく入場門で腕組みをして対戦相手を待つ。そしてその反対側、白虎の方角から現れたのは。

「ほわああ~、これで勝てばジャパまん100個もらえるんですねえ~?」

「ホワイト…ライオン…!?」


「ぬう…あれはあれはまさしくホワイトライオン…!!」

「知っているでゴザルか!? キンシコウ殿!?」

「滅多にちからくらべに現れる事はないが…。その実力たるやライオンにも勝るとも劣らぬと言う…! 我々は今日伝説を目撃するのやもしれぬ…!」

「ゴクリ…!!」


金色と白銀、二頭のライオンが歩み寄る。

「へーぇ? 珍しいじゃん? 君がこんなところに来るなんてさ。」

「えへへぇ、ライオンちゃんこそ、あんまりちからくらべは好きじゃないんじゃないの?」

「ま、みんなに求められちゃね。でも、手加減はしないよ。」

「わたしも、そのつもりだよ。」


物見雄山のやじ馬たちも、腕自慢のつわもの達も固唾を飲む。がっしりと組み合わせられた二人の腕に、この場にいる全員の視線が集中する。

「それでは…ッ!」

何とか声がかすれぬよう、下腹にぐっと力を込めたマーゲイがマイクを振り上げる。

「どうぶつファイトッッ! レディー! ゴーーーッ!!!」


「おおおッッ!!」

雄たけび一閃! ライオンは一瞬で勝負を決めに行くつもりのようだ。すでに体格のいい彼女の上半身がさらに2まわり、3まわりと信じられない大きさに盛り上がり、バツンバツンと恐ろしい音を立てて白いワイシャツが引き千切られてゆく。


だが、ホワイトライオンはピクリとも動かない。ライオンが額に青筋を浮かべ、腕の力こぶは丸太もかくやという太さになっているというのに、反対側のホワイトライオンはニコニコとまるで涼しい顔をしている。

「うわあ。力持ちだねえ。ライオンちゃん。」

「まっ…! まだまだ…あッ!」

首筋に脂汗が垂れる。


10秒。20秒。ライオンは顔を真っ赤にするが、垂直に立てられた両者の腕は全く傾く気配もない。

「うーん、このままじゃ、引き分けになっちゃうね。それじゃあつまんないよね。」

「~~~~~~~ッッ!!!」

ホワイトライオンが、唾に濡れた牙を剥く。

「壊れちゃったら、ごめんねえ。」


ゆっくりと、天秤はライオンの側に傾きだした。じりじりとした動きではあるが、どうやら、どちらが優勢かは明白であるようだった。苦悶の表情を浮かべるライオン。ホワイトライオンの表情は変わらない。みしり…みしり…。空気そのものがきしんだ音を立てて、ライオンの身体全体を押し潰してゆく。


床板まで、ライオンの手の甲があと7センチ、5センチ、3センチ…! いよいよ万事休すかというところだが、ライオンにも意地がある。最後の力を振り絞り、何とかこの絶望的な状況を押し返そうとする。しかしそれも、もはや風前の灯だ。ライオンの手が、今まさに地面に触れるというの刹那。


「ぐぎゅるううううう~~~っっ☆」

空いっぱいに響き渡る、ガマガエルを引き絞るようなすさまじい音。

「はわわ、力入れてたらお腹空いちゃいましたあ。ああ、体に力が入らない…。」

へたり込むホワイトライオン。にわかにライオンが息を吹き返す。

「う…おおおおおっ!!!」

少しずつ、少しずつライオンの拳が持ち上がってゆく…!


「ライ…オン…! 勝者…ッ! ライオン!! 勝者ッッ!! ライオン!! 勝負ありっ!! 勝者、ライオンん~~~!!!」

大歓声の中、マーゲイがマイクを振り回しライオンに代わって勝ち名乗りを上げる。全身の力を使い果たしたライオンは、ぐったりと地面に這いつくばり立ち上がる余裕さえない。


「おめでとう、ライオンちゃん。強くなったねえ。」

勝者に、敗者が手を差し伸べる。

「はは、まだまだ、だね。わたしも。」

「ううん。やっぱり、勝ったのはライオンちゃんだよ。パークいちのフレンズは、ライオンちゃん。」

ホワイトライオンがライオンの身体を支え立ち上がると、草原には一層フレンズたちの雄たけびが沸き上がった。

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