第6話 アライさんのまぶたの裏
しとしとと降る雨の音を聴きながら、アライさんはまだ自分があまり眠くならないのを感じていた。今日はずっと一日雨ふりだったから、あまり遊べなくて身体がまだ疲れてないのだ。こんな夜は、アライさんはいろんなことを考えてしまうのだ。
アライさんは、こんな時いつもこうして色んなことを考えている。ほかのフレンズからは、アライさんはいつも何も考えてないよね、と言われることもあるけれど、そうでないことをフェネックもよく知っている。アライさんは、本当はとってもとっても賢いフレンズなのだ。
そう。フレンズによって、得意なことは違っている。アライさんは順序だてて伝わりやすくお話をすることがちょっと得意でないフレンズだったから、周りのフレンズといざこざを起こしたり、ほんのちょっとだったけど意地悪をされたこともあった。そんな時は、心の中を爪でつままれるようなギュっとした気持ちになるのだった。
でもフェネックと出会って、そんなフレンズたちもみな優しい心を持っていることを知った。アライさんがお話をすることが得意でないように、優しさを表すことが苦手なフレンズもたくさんいることに気づけた。フェネックは、そんなフレンズたちを繋ぐことが得意なフレンズだった。
優しさの得意なフレンズ。アライさんがいままで出会ったフレンズの中に、優しさが得意でないフレンズは一人もいなかった。だから、アライさんもフェネックもみんな楽しいし、幸せになれた。
…でも。
ほんとうは、優しさの得意じゃないフレンズも、どこかにいるんじゃないだろうか。
フレンズは、生まれてすぐは何も覚えていない。自分が何のフレンズかもわからない。みんな優しいから、そんな生まれたてのフレンズにはすぐに皆が集まってきて手助けしてくれる。でもその中に、ものすごく乱暴者で、ほんとうに意地悪な心しか持たないフレンズが生まれてきたら。
その子はどうするのだろう。誰とも仲良く出来ずに、誰も近寄らずに、自分が何のフレンズかもわからずに生きていくのか。できない。食べるところも、寝るところも、誰かの手助けがなければ生きてはいけない。誰もいない森の奥で、優しさの得意でないフレンズは、サンドスターを得られることもなく。
「いじわるなフレンズは、みんな死んでしまったのだ。いなくなってしまったのだ。」
声に出てしまった。目を開けると、星のまたたく空に大きな木の影が暗く覆いかぶさっている。雨はいつの間にか止んでいたようだ。
「ん…。どうしたんだーい…? アライさん? …怖い夢でも見たのかな…?」
「…フェネックは、やさしいのだ」
「…? そーだよ。だいじょうぶだよ。私たちはみんな優しさの得意なフレンズなのさー。」
フェネックはアライさんに木の葉の布団をかけて、またすぐに寝入ってしまった。フェネックの寝息に、自分の呼吸を合わせる。
私たちは、優しい。そう淘汰されたから。
優しさの苦手なフレンズ。まだ出会ったこともないそのフレンズが、皆から嫌われ、草原を追われ、森の中でたった一人、誰とも言葉を交わさずお腹を空かせている。アライさんはそのことを思って、ずっとずっと眠れないまま、ただ目をつぶっていた。鳥たちが目覚め、朝日が空を薄くあかく照らすまで。
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