新種発見

asai

新種発見

新種の人類が見つかった。

ジャングルの奥地や、未踏の山奥にいる部族ではなく、

日本のコンクリートジャングルにサラリーマンとして働いている35歳の個体であった。


彼が友人と遊びのつもりで、自身のDNAを調べたところ

その配列が現生人類(Homo sapiens sapiens)のものと少しばかり違う、少数種であることがわかった。

”Homo sapiens infirmi”

彼につけられた学名はすぐさまレッドリスト入りした。


発見されるや否や、種の保存の名目のもと特別扱いが始まった。

数日前まで、うだつの上がらない一般企業の平社員だった彼は、

保護種として出社退社に送迎がつき、家政婦が家事を行い、

玄関には警備員が配置されるなど、上級国民として丁重にあつかわれるようになった。


メディアが騒ぎ立てる中、

彼は身に覚えのない綺麗な女性がたくさん近づいてくることに困惑した。

彼はそのすべてがハニートラップであることをなんとなくわかっていたため、

一度も誘いにのらなかった。彼自身、性的な欲求などほとんどなく、

愛のない性行為に何の意味もないと思っていたからだ。


チンパンジーやオラウータンを彷彿するヒトの近縁が新たに見つかり、

それが普通に日本で生活しているという話題性により、世間の喧騒は止まなかった。

彼の父親や、母親、妹にも保護種給付金目当てに様々なヒトが近づくようになった。

家族を守る彼は精神をすり減らし、次第に精神を病んでいった。

彼の姿をずっと見ていた家政婦は彼を懸命に支え、二人で乗り越えていった。

そしていつのまにか、二人の間に特別な関係が芽生えていった。


彼と家政婦は、結婚し、子供を授かり幸せな家庭を築いた。

新種判明から十数年がたち、世間もすっかり忘れ,彼は平穏な生活を手にしていた。

ある夜、ベッドで寝ている妻の手を強く握り、これからも一生共に暮らしていこうと彼は誓った。


翌朝彼が目を覚ますと、息子たちや妻の姿もなくなっていた。

必死で家中を探し回るものの、家族が生活していた気配すらすらなくなっていた。


彼は探し疲れ、無意識にテレビをつけると、自分の顔写真が映し出されている事に驚いた。

見出しは、「レッドリスト除外 補助金廃止の方向へ」。

よくよくニュースを見てみると、

種の保存という建前で多くの税金を投入していた国家予算は

国民の反発と、機関のトップの失脚により廃止され、

それに伴い、彼の身の回りのライフサポート員の派遣もストップしたとのことだった。


めまいで倒れそうな頭を必死にたたき起こし、ネットで詳細を検索すると週刊誌の記事に目が行った。

そこには、テレビでは放送されなかった詳細が事細かに書かれていた。

終了した真実として、彼の子供(クローン)が精通を迎えたこと、

妻との性行為で採取された精液が十分量に達したことから

種の保存という観点である程度の成功という結論をもってプロジェクトは終了したとのことだった。


長く連れ添った彼女の顔写真の下には

彼女の役職”特別保護種専任飼育員”とかかれていた。


勝手な理由で保護され、勝手な理由で放り出される。


彼は力なく笑った。

翌朝、彼は姿を消した。

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新種発見 asai @asai3

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