第8話「後輩の圧力」
あかりに腕を掴まれつつ、校内を歩き回った。
先生に怒られているのだから、美咲は職員室にいるだろうと思っていたが、
あかりは僕の話に耳を貸そうとしてくれなかった。
結局、いるはずもない体育館や図書室を引きずられるように徘徊させられた。
やっぱり、僕を連れ回したいだけじゃないのかな、この子は。
嬉々とした様子で「いないですねぇ」と呟くあかりを見ていると、そんなことを考えてしまう。
あかりは入学早々に生徒会への参加を希望し、今年の5月に晴れて生徒会役員の一員となった。夏休みを入れて約4ヶ月しか過ごしていないというのに、持ち前の明るさと人懐っこさで今や生徒会のムードーメーカー的存在だ。うるさいけど。
マジメで冷静沈着と言われる僕とは正反対の性格。
本当はこういう人の方が生徒会向きなのかもしれないと、あかりを見ていると考えてしまう。僕も友達が多い方だし、色々と相談を受けることもある。
でも、マジメなトーンで返す人間より、底無しに明るい人間の反応を見ていた方がその人の為になるんじゃないだろうか。
「……そうでもないか」
掴まれている自分の腕を見て、ぽつりと呟く。
あかりは勝手に人の考えを決めつけて、強引にそっちへ向けようとしているだけだ。
人の為というより、自分の面白さを一番に考えているだけかもしれない。
「先輩、今すっごく失礼なこと考えていませんか?」
「よくわかったね」
「あっ、そこは否定してくださいよ!」
あかりは頬を膨らませて僕の腕を更に強く引っ張った。
「こうしてやります!」
そしてそのまま、僕を強引に引き寄せる。
その行き先は……。
「やめろって!」
「生徒会長が女子トイレに潜入してましたー!って周りに言いふらしちゃいますよ!いいですか、その覚悟を持ってあかりちゃんに反論してくださいね!」
「ああもう、面倒くさい」
何がしたいのか分からないが、とりあえず僕を困らせたいということだけは分かる。
僕は必死に抵抗するが、あかりも意外と力が強い。
細身のモデル体型をしているというのに、一体どこからこんなパワーが引き出せるんだ。
「やめろ、意味がない」
「意味がないことに意味があります!」
そんな訳の分からない応酬が、また1分近く続いた。
そろそろこの不毛な応酬をどうにか終わらせたいと思い始めていた頃、
「えーっと……」
後方から声が聞こえた。
その声を聞いて、僕とあかりの動きが止まる。
「あ……」
声を漏らしたのはあかりの方だった。
その瞬間、僕はあかりの手を振り解く。
よかった。助かった。
「おはようございます、美咲先輩……」
いや、助かってない。
女子トイレ前で一悶着揉めていた僕らの前に現れたのは、
他でもない、安城美咲だった。
「えっと、なんというか」
美咲は戸惑った様子で苦笑いを浮かべていたが、
やがて状況を一通り整理したのか、天使のような微笑みで言った。
「私も混ぜてもらっていいかな!」
ダメだ。この子も手に負えない。
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