アメリカから来た帰国子女アイドル 三森カレンの場合

 アイドルに憧れた帰国子女、英語が堪能で様々なイベントで引っ張りだこになった。アニメ好きと言うこともあり海外向けの配信でも重宝され、動画配信サイトでも自身で投稿を始めた。

 アイドルに憧れ、アメリカから帰ってきてアイドルになった彼女は、日本のアイドルに何を見たのだろうか。


「私は、アイドルになりたくて日本に帰ってきました。親には反対をされて期限も決められました。しかし、その期限はたった2年間だけでした。私はそれをはねのけてここに立つことができました。それはみんなのおかげだと思っています。」


 私は、アイドルに憧れた。アメリカに住んでいても日本の文化にはとても興味があって、動画サイトや衛星テレビで彼女たちの活躍を見ていた。

 ある日、私は1人のアイドルの卒業を見た。彼女は思いを託し、想いを残し卒業をしていった。

 そして私は日本でアイドルになることを決意した。それは誰にも賛成されない茨の道だった。親に反対され半ば家出同然で日本に来た。日本では祖父母が住んでいたから祖父母を頼った。


 そして私はオーディションに挑戦する日々が続いた。

何度も何度も受けては落ちてを続けていた。日本語があまり話せず、敬語がしゃべれなくて生意気な小娘と言われたこともあった。試しにと英語で自己紹介をしたら何言ってるかわからないという顔をされたりもした。

 私は何度も何度もくじけそうになった。でも私はアイドルになるという夢を諦めたりはしなかった。

 最終的に私は1つのグループに合格した。

 そのグループはアニメキャラクターの声優も担当するというデジタルアイドルグループだった。

 私が担当することになったキャラクターはアメリカからの帰国子女だった。まさに私にうってつけのキャラクターだった。私は日本語は得意ではない。ある程度は話せるが英語で話せるならその方が楽というレベルだった。だから、英語ではどのアイドルにも負けるつもりはなかった。

 メンバーとレッスンを受けているととても不安そうな顔をしている子がいた。

 その子は西木野和

 誰にも負けないくらいの輝きを持っているけれどいつも自信なさげにいるかわいい女の子だった。


 私は彼女に話しかけた。

「えーと、西木野さんだっけ」

 彼女は驚いた感じで急に振り向くと

「あ、Nice to meet you. 私、三森カレン。アメリカから来たんだ!よろしくね」

そういって私は自己紹介をした。


 これが誰よりもかっこいいアイドル。私が心酔した2人目のアイドルとの出会いだった。

「よ、よろしくお願いします」

 とても固い挨拶だったから私は思わず

「Non, Non これからは仲間なんだからそんなにかしこまらなくてもいいよ!私のことはカレンって呼んでね!私も和って呼んでもいい?」

 そういって距離を縮めようとした。

 しかし、逆効果だったのか

「う、うん」

と委縮させてしまう結果となってしまった。

 その様子を見て失敗したかなと思った。


 それから私たちはレッスンに明け暮れた。もうすぐデビュー記念のステージがあるからだった。私たちは毎日必死でレッスンの先生の言うことに食らいついていた。

 本番を想定した練習をした時も私は何もミスはしなかった。けれど何かアドバイスをもらうことも少なかった。私は不安になった。けれど和を見ていることが楽しかった。和はいつも不安そうな顔をしているけれど一度踊り始めたら顔つきが変わりとてもかっこよく踊っている。私にはないものを持っているそう感じていた。

 そして私たちにとっては運命の日が来た。それはセンターの発表だった。まだフォーメーションが何も決まっておらずプロデューサーにはレッスンの様子を見て決めるとだけ言われていた。その結果が発表されたのだった。

 8人しかいないから2列でしか言われない。私は1列目の上手側の端だった。そして和はセンターに選ばれた。私はやっぱりと思った。和はセンターになるためにアイドルになった、主人公になれる子だと私は感じていたからだ。

 しかし、そこからの日々は彼女はとても窮屈そうで苦しそうだった。まるで海の中にいるようだった。息苦しくていくら藻掻いても全然上がれないそんな中にいるように見えた。

 


 ある日、私は彼女に声をかけた。

「Hi, 和ちゃん。今日もかわいいね。」

 彼女は話しかけるといつも驚いておどおどする。その日もそうだった。

「え、え、えーっと、そんなこと…ないよ」

 そんなことないと心の中では怒っていた。

「和ちゃんはかわいいって。でもダンスの時はめっちゃ窮屈そう。しっかり踊れているし、キレがあってかっこいいのに、楽しく踊らないともったいないよ~」

となんでもない感じで言うことが精いっぱいだった。

 ずっとずっと見ていたいそう思える人なのに、なぜそんなに自信がないのか全く分からなかったからだ。

 彼女はとても驚いた顔をしていた。その顔は今まで見た中で一番衝撃受けている顔だった。

それからの彼女は見違えるように変わっていった。彼女は何かから吹っ切れたような顔をしていた。

 そして迎えたデビューライブ本番。私たちは無名の状態で大きなデパートのステージに立った。

 私たちが最初にもらった曲はとても切ない曲だった。自分の居場所がどこかわからないそんな心を抱えた少年が居場所を見つける。まるで私や和のことを書いたかのような曲だった。

 「君の手を握り返したんだ~♪」

 

 ライブは成功したといえるだろう。見に来ていたお客さんの反応はとても良かったと感じている。

 私はとても感動した。自分たちは人の心を動かす力を持っている。そう感じた出来事だった。

 デビューからは大忙しだった。仕事が増えたのだった。デジタルアイドルということが目新しく話題となり、様々な番組に呼ばれることとなったのだった。私は帰国子女ということが注目され英語を話す機会が増えた。また、海外に向けた配信をする時のアシスタントMCとして呼ばれることが増えた。

 私の日々はとても充実していた。


 あの日が来るまでは。

 活動を始めてもうすぐ2年という日にアメリカから手紙が届いた。それは両親からの強制帰還が書かれていた。私は猛反発をした。毎日電話をして、説得をしていた。しかし、両親の考えは覆ることはなかった。

 私はこのことをマネージャーに伝えた。とても怒られた。なぜそのことを伝えなかったのかと。両親と話がしたいから会えないか聞いてほしいと。そして、私はどうしたいのかと言われた。

 私は何も答えられなかった。答えはご両親と話すときに出してとだけ伝えられた。

 その晩、両親に電話をした。いつも通り喧嘩しかしなかったけどマネージャーが話をしたいということだけは伝えることができた。

 次の日、私たちはテレビ電話を通して話合う時間を設けてもらった。

 両親の話は帰って来いということの一点張りだった。

「私は、まだ帰らない。少しづつ仕事も増えてきてこれからなんだから」

 その決意を私は伝えることを何度も躊躇した。それは両親の期待を裏切ることに違いはないのだから。

 両親はとても怒った。当然だった。元々の約束と違うのだから。

「でも私は決めたから。たとえパパやママの援助が無くても日本でまだ頑張るから」

 そういって部屋を出ようとした。

 するとマネージャーに手を掴まれた。そして、

「まだ、ここにいなさい」

そういうと英語で交渉を始めた。

 内容をまとめると、

 いきなりやめられるということは事務所としても受け入れいられないということ。

 それは社会人としてもどうかということ。

 今ある役の新しい人の決定、今後の方針を決定するということもある。

 すでに契約している仕事もあり、契約違反になるためその賠償等の責任を私がおわなければならなくなるということ。

 そして、最後に私がまだ大学生であり、両立出来ていることから大学を卒業するまでではだめなのだろうか


ということだった。

 私は、驚いた。マネージャーが英語で交渉をしていることもだけど、私のことをよく見ていてくれたことだ。

 私はアイドル活動をしながら確かに大学にも通っている。講義も仕事以外では休んだことが無く、課題もこなし、成績もとても優秀で過ごしている。負けたくなくて、今まで逃げてきた自分が嫌で逃げたくなくて頑張ってきた。

 誰にも理解されないと思っていた努力をマネージャーが見てくれていた。そのことに私はとてもうれしくなった。

 幸い、両親も私の努力を認めてくれていたことと先日の配信を見ていたことで納得をしてくれたようで日本の残るということを私は勝ち取れた。

「あの、ありがとうございます」

「いいよ、これくらい。でも今回だけだから。私が助けられるのは。次は自分で勝ち取ってね」

 私はその言葉で我慢していたものがあふれ出た。私は自分で自分のことが出来ていたと思っていたけれど何もできない、ただの少女と言うことに気が付いたのだった。


それから私は卒業を決めた日が来た。


「私は日本に来た時、何もできない子供でした。たまたまこのグループが拾ってくれて、でもそれが私にとって成長できる環境でした。私のことを見てくれて守ってくれた人がたくさんいました。多分ここじゃなかったら私は今ここにはいません。すでにアメリカに帰っていると思います。だからこそ、ここで出会えた仲間が大好きです。だから私はここを飛び立ちます。新しい舞台にたって今度はみんなを大切な仲間を連れて行けるくらい強くなります。いつか、またみんなで笑いあって会うために。私はここに居られて本当に幸せでした。これからも応援よろしくお願いします。本当にありがとうございました!」



 そういって彼女はグループを去った。そしてアメリカに帰り、日本のアニメの吹き替えを担当する声優になっていた。それは間違いなく大きな成長であり、日本ではとても大きなニュースになった。誰もが予想もしない形で彼女は帰ってきた。

 彼女の存在は誰の記憶にも残らなかったが、新たな彼女のことを知らない人はもういないだろう。

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