第89話 急用
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諸々の事を終わらせて、グラの依代に戻ってきたら、なんかダンジョン勢の面々で盛り上がっていた……。
「ええ、やはりニスティスの成長の仕方には、いささか憧れるものがありますね。同じような境遇であるからこそ、その困難な道程は他のダンジョンコアの誰よりも、わかっているつもりです」
「おお、そうだよな! 流石に俺サマも、あのニスティス大迷宮に喧嘩を売るような真似はできねーよ。勝てる勝てねー以前に、なんか畏れ多いんだよな。もし戦うにしたって、せめてもっと深くなってからだぜ!」
「わかります。現在の深度で挑む事そのものが、一種の侮辱であるように思えます。いまのままでは、下手をすれば手加減をされたうえで、完敗しかねません。彼のダンジョンと対峙するのに、その体たらくでは恥晒しもいいところでしょう」
主にグラとルディが、ニスティス大迷宮のダンジョンコアに対する見解を述べており、そして二人からすればニスティスはやはり憧れの存在のようだ。ニスティス大迷宮という存在は、人間社会においてもそうだが、およそ社会などというものを形成する気がこれっぽっちもないダンジョンコアらにとっても、大きなものであるらしい。
そんな二人に主を褒められ、レヴンが嬉しそうにしながら照れていた。親を褒められている子供のような仕草であるが、外見はいい歳した男がそれをしているは、少しだけ異質に見えた。
「グラ、盛りあがっているところ悪いけど、ルディとお互いの領分は決めたかい?」
「おかえりなさい。ええ、勿論です。ルディからはゴルディスケイル島の海岸から、約一キロ程度の領域に侵入しないのであれば、自由にダンジョンを広げて構わないという言質をもらいました」
「それは、かなり僕らに有利な条件じゃない? ゴルディスケイル島に近付かなければ、実質スティヴァーレ半島を手中に収めても構わないと言っているようなものじゃん」
「そんなものです。ダンジョンコアにとって、ダンジョンとは横に広げるものではなく、下へと延ばすものです。邪魔にならないのであれば、他所のダンジョンがどういう拡張をしようと、興味すら抱かないのが普通です」
「まぁ、そうだよね」
実際、僕らだって別に、スティヴァーレまで触手を伸ばすつもりはない。そこまでダンジョンを広げるのは、流石にリソースの無駄遣いだ。他のダンジョンに至っては、一定程度以上の広さなど、ただただ管理が面倒になるだけでしかないだろう。
「問題になるのは、一定以上深くなってからでしょうが、我々の計画において、ダンジョンを横に広げるのは、あくまでも地表付近でのみです。深層部においては、アルタン付近の直下へと延ばす方針であると伝えています。こちらは、状況の推移次第で計画の変更もあり、最悪の場合シタタンの付近で深くする可能性もあるという点もまた、通達済みです」
「うん。どうやら完璧だね。レヴンの方は?」
「そちらもつつがなく。トレジャーボックス計画の件は、ニスティス大迷宮のコアの判断待ちですが、もしも了承が得られれば、その後早急に伝令に走ってくれるとの事です」
「重畳だね」
これで大公への嫌がらせに関しては十分だろう。トレジャーボックス計画に関しても、それ程心配はいらないだろう。なにせ、人類が行っている兵糧攻めに関しては、大規模ダンジョンとて辟易しているはずだ。ニスティス大迷宮がこの計画に乗らない手はないだろう。
「おい、グラどうした、急に黙って?」
僕と状況確認をしていたせいで、外部に対する反応がなくなってしまったグラを案じてか、ルディが声をかけてきた。慌てて、僕の方からも報告を入れる。
「グラ、悪いけど早急に地上にあがる必要が生じた」
「ふぅむ? ならばそう伝えましょう。代わりますか?」
「いや、そのままでいいよ。いま代わったら、ルディはともかく、レヴンにとっては不審すぎるだろう?」
別にできなくはないだろうが、グラの真似をして二人に違和感を覚えられると、ちょっと困る。
ルディはショーン・ハリューとしての僕と交流した事はないが、レヴンはがっつり関わっている。グラにとっての僕は、これはもう誰がどう見てもウィークポイントになり得る存在だ。ルディもルディで、先程までの僕らの戦いを観察していただろうし、グラともかなり馴染んでいた。
いくらダンジョン勢だからといって、あまり明け透けに情報を渡し過ぎるのは良くないだろう。グラの弱点となり得る情報は、特にだ。
「いえ、なんでもありません。申し訳ありませんが、早々に地上に戻る用事ができました。名残惜しくはありますが、私はこれで失礼させていただきます」
「む? ホントに急だな。まぁいいか。それじゃあ、宝箱と新しいモンスターの件は了解した。そっちのモンスターは、さっさと戻って、ニスティスのダンジョンコアに了承取ってきてくれよ! この計画は、俺サマも楽しみにしてんだからな!」
「はい。それでは俺も、グラ様に同行する事にいたします」
レヴンも、ルディに対して丁寧に頭を下げてから、退席の旨を告げる。別に、ここに残ってルディとの会談を続けてもいいのだが、どうやらこちらについてくるようだ。まぁ、別にいいけど……。
ルディは手を振りつつ、くるりとこちらに背を向けると、グラでもレヴンでもない存在に対して、声をかける。
「テュカ! ラプー! 帰るぞ!」
ルディがそう宣言すると同時、通路のガラスの向こうから半透明の幽霊のようなモンスターが、通路の奥からは宙を泳ぐようにして人魚のようなモンスターが現れた。どっちがどっちかはわからないが、どうやらそれがゴルディスケイルのダンジョンにおける階層ボスのようだ。
無邪気に見えて、きちんと身を守る為の手札を伏せていたとは、ルディもなかなか侮れないな……。
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