第87話 教会と大公に対する仕返し
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概ねのところをルディと打ち合わせたタイミングで、レヴンが通路の向こうに見えた。最初に気付いたのは、当然ルディである。
「おっと、どうやらこちらのダンジョンのダンジョンコア様とは、無事に会えたようだな」
「ええ、つつがなく」
ルディが現れた段階でグラと交代していたので、いまここで話しているのは、完全にダンジョン勢である。僕も一応ダンジョン側の存在ではあるが、やはり精神の根底が人間側にあるせいか、この状況を第三者的な視点で俯瞰している。
「うん? ショーン・ハリューはどうした?」
「ああ、ショーンは――」
「ショーンってのは、グラと一緒にいたあのモンスターか?」
グラの言葉を遮るルディの態度に、気分を害する事もなく軽く頭を下げるレヴン。その態度は僕に対するものと違って丁寧なのは、相手がダンジョンコア本体だからだろうか。
「そうです。ゴルディスケイルのダンジョンコア様はご存知ですか?」
「あのモンスターは、グラに叛逆してソッコーで殺されたぞ。まぁ、受肉したモンスターには良くある事だ」
「なるほど……」
「それと、俺サマの事はルディと呼べ。グラが付けた個体名で、これからは対外的にそう名乗る事にした」
「了解しました。個体名を名乗るのは、地上で潜入工作をするつもりですか?」
「いや、流石にそれはない。まぁ、グラみたいにダンジョン外で操作できる傀儡を用意出来たら、やるかも知れないけどな。一応、カバーストーリーってのも用意してもらったぜ!」
自信満々にふんぞり返っているルディだが、そのカバーストーリーを考えた僕の方が、正直不安でしかない。この子、たぶん演技とかできないだろうし、常識知らずで済む範囲ならまだいいが、地上生命として常軌を逸するような言動までしかねないからなぁ。
「ええっと、グラ様? つまり、ショーン・ハリューはグラ様に叛逆したという事でいいですか? それをグラ様自ら手討ちに――」
「違います」
いや、そこはもう変に注釈を入れずとも、勘違いしてくれるならそれでいいって。詳しく説明すると、どうしたって疑似ダンジョンコアの説明をしなきゃいけなくなるでしょ。
だが、僕の忠告も間に合わず、グラが説明をしてしまう。
「あれは単に、依代に宿ったモンスターの自我が暴走した結果です。ショーンは――いまはアルタンの町にいるでしょう」
「な、なるほど……」
淡々とした口調ながら、捲し立てるように告げたグラに若干仰け反りつつ頷くレヴン。そうまでして、僕と仲違いしたという誤解を与えたくないらしい。まぁ、一応は僕がグラと双子である点や、いまもこうして一緒にいる点は誤魔化しているので、大丈夫だろう……。
「グラ様、それは?」
「ああ、それは俺サマも少し気になってたんだぞ」
グラが、大事そうに両手で抱えているのは勿論、肉体を失った疑似ダンジョンコアだ。このコアにいま、僕が宿り直すのは不可能である。内包している生命力が少なすぎて、肉体を構成できるかどうかわからないのだ。できたところで、今度は生命力がほぼ枯渇という、死体も同然の状態で七転八倒する事請け合いだ。
たぶん、バスガルとの戦闘直後みたいに、ほとんど動けないままに昏倒する。下手をすれば、死にたての死体よりも生命力が少ない状態だろうしな……。
「これは、依代を作る為の核です。肉体を吹き飛ばしたので、こちらは再利用できるはずなので持ち帰ります」
「ふぅん。それは便利そうだな。俺サマにも、作り方を教えてくれねーかな?」
「申し訳ありませんが、我がダンジョンの秘匿技術です」
「そっか。なら仕方ねーな」
グラがそう言うと、あっさりとルディは引き下がった。やはり、秘匿技術に対して、無闇矢鱈に興味を示すのは、ダンジョンであってもご法度のようだ。そこら辺は、人間もそう変わらない。
「そういえば、ルディ様とグラ様はお互いの領域については、もう合意が取れたという事でいいですか?」
少しだけピリついた空気を変えるように、レヴンが話題を変える。その言葉に対し、ルディが不思議そうに首を傾げる。
「領域? なんの事だ?」
その、ゴマフアザラシのつぶらな瞳で首を傾げる仕草は、狙ってやっていたとしても、ついつい相好を崩してしまいかねない程に愛らしい。
「あれ? じゃあいままでなにを話し合ってたんです? まさか、名前を付けただけ?」
こちらもまた、心の底から不思議そうな声をあげるレヴンだが、同じ説明を二度するのも手間だな。いやまぁ、ニスティスに伝言を頼むのだから、どのみち説明するしかないのだが……。
ルディから、レヴンが本物のモンスターであり、まず間違いなくニスティス大迷宮からの使者であると確認が取れたいま、これ以上トレジャーボックス計画を彼に秘匿している意味もない。さっさと教えて、この計画に巻き込んでしまおう。
今度の説明は、グラに任せよう。アドリブで変化した部分で、僕とグラとで齟齬が生まれていないか、確認するにも丁度いい。
「じゃあグラ、説明お願い。そしてついでに、レヴンには先の【扇動者】騒動の責任を取ってもらおう」
「責任ですか?」
「そう。ヴェルヴェルデ大公に対する嫌がらせに協力してもらう。まぁ、やる事はいまと同じ、他のダンジョンに対して使者として赴くだけさ」
まぁ、とはいえレヴンには、重要な役割がある。やり過ぎは禁物だ。だからその分、ヴェルヴェルデ大公には目一杯嫌がらせをしてやるつもりだ。教会にも仕返しをしたいが、変にダンジョン側からちょっかいをかけるのは藪蛇になりかねない。だからそちらは、人間として帝国に協力し、ナベニポリス侵攻を幇助するつもりだ。そうすれば、自然と意趣返しになるはずだ。
「なるほど」
グラの応諾の声にも、どこか喜色が滲んでいる。どうやら人間にとってもダンジョンコアにとっても、復讐というものは蜜の味のようだ。これに関しては、散々迷惑をかけてきた向こうに責があるので、良心も痛まない。
グラがレヴン含め、確認の意味も込めてルディに対して先の説明を繰り返している間に、僕は本当に一度アルタンに戻る事にする。一応、安全策はいくつか用意していたが、それでも本体であるダンジョンコアに誰もいない状況というのは、やはりかなり危険だ。
ダンジョンに新たな侵入者がいないかを確認し、トレジャーボックス計画や、帝国用のパティパティアトンネルの準備も進めておこう。ついでに、通信のマジックアイテムの実験もやっておくか。
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