第44話 中級冒険者の細かい違い
〈10〉
あのあと、冒険者ギルドには使いをだして、話を通しておいた。いくら中級冒険者の資格を有しているとはいえ、この状況では七級冒険者のダンジョン侵入は許されないかも知れないと、フェイヴとフォーンさんに指摘を受けたからだ。
勿論、ただ入りたいと言ったわけじゃない。小規模ダンジョンとしては、下水道を取り込むという異例の行動。一層ダンジョンとの類似。小規模ダンジョンではないかも知れない危惧と、その場合にいま採られているダンジョン対策に対する悪影響について。とまぁ、グラにしたような説明と同じようなものを書き連ねて、ギルドでダンジョンの情報をまとめている立場から、探索の必要性を説いたわけだ。
ギルドとしても、下水道にできたダンジョンが普通の小規模ダンジョンでない可能性というものには、危機感を覚えたのだろう。特級冒険者であるフェイヴと、三級冒険者のフォーンさんの同行を条件に、昨日のうちに許可がでていた。
お役所仕事っぽい組織の割に、今回の判断はかなり早かった。まぁ、それだけ重大事だと思われているという事なのだろう。
そんなわけで、依頼から一日という短時間で、僕とフォーンさんとフェイヴの一行は、完全武装で下水道の前に立っていた。僕の装備は、今日の為にグラが新調してくれた、ピカピカの新品だ。
既に下水道の入り口は、ギルドの職員が封鎖しており、中級以上の冒険者でなければ侵入を制限されていた。その中級冒険者も、装備が整っていない者や
「やっぱり、ダンジョンって儲かるんでしょうか?」
「うん? まぁ、ぼちぼちだねぇ。魔石はたしかに儲けにはなるし、ダンジョンだとわざわざ解体する手間も省ける。モンスターの数も多いから、地上みたいにモンスターを探してうろつく必要もない。ときたま、魔力の籠った素材も残すから、下級や中の下って連中にとっちゃ、書き入れどきではあるんだろうねえ」
だからこの盛況ぶりという事だ。冒険者の中で、一番のボリュームゾーンが七級らしいし、効率的に魔石を集め、経験を積み、六級を目指すには、ダンジョンは格好の働き口なのだろう。
「普通の中級にとっては?」
「まぁ、五、六級の連中は、パーティ単位で動くのが普通さ。そうなれば、多少の魔石だの素材だのじゃ、物の足しにもなんないし、不安定だからね。中級連中は、きちんとギルドを通した依頼を請けて、お上が力を削ぎたいダンジョンで働いて、依頼料をもらうのさ」
「なるほど……」
同じ中級冒険者といっても、六級と七級の間は結構大きいらしい。いわば七級はセミプロ、六級からがプロの冒険者という事だ。官営のプロジェクトは、プロにしかオファーがこない。だからこそ、とりあえず七級になった連中以外は、積極的にダンジョンにもぐって稼ぎつつ、いい装備を整えて六級に至る為の実績を積みたがっているというわけだ。
「まぁ、いっても所詮は数を揃えてなんぼのもんだよ。魔石だの素材だので財を成すなんてのは、夢のまた夢さ」
おっと、なんだかこういう点は、フォーンさんとは気が合いそうだ。とはいえ、気になる事もある。
「ドラゴンの素材とか、莫大な富になったりはしないんですか?」
「ドラゴン? んー、まぁそこそこ値は付くだろうねえ。でも結局、素材は所詮素材だよ。こう言っちゃなんだけどさ、ただのドラゴンの素材なんて、ダンジョン以外で討伐したって、総計は精々金貨一〇〇〇枚とか二〇〇〇枚くらいだよ。そこからなにかを作るとなれば、当然素材から加工する手間賃だのなんだので、誰かの手元に届くころには十倍、二〇倍にもなってんだ。言ってしまえば、畑から採れた野菜と、レストランの料理の値段の違いみたいなもんさね。いくら高級な野菜って言ったって、値段はたかが知れているだろう?」
「なるほど……」
もしも、素材だけで一財産築けるような値段になるなら、その素材の末端価格も相応のものになる。それが、社会において必要不可欠な代物ならまだしも、富貴層とはいえ、個人や一つの家の為につぎ込めるものの値段には限りがあるだろう。
例えば、ドラゴンの血が万病に効く薬に加工できるとして、その血が一リットルで金貨一〇〇枚だったとしたら、加工後に消費者の手元に届く頃には金貨一万枚になるかも知れない。だが、そんな資金を投じてまで、誰かを生き永らえさせようとする家が、どれだけあるだろう。むしろ、さっさと代替わりさせてしまった方が安上がりだし、大抵の家はそんなスペアの要員を用意しているはずだ。
結局、高すぎる薬に需要がなくなってしまい、需要がないという事は値が下がるという事だ。まぁ、一リットルの血で、一〇〇人分の薬が用意できるなら、十二分に需要の見込める値段設定にもできるだろうし、そうなったらむしろ需要が高まって高騰しかねないだろうが。
ともあれ、結果的にどれだけ貴重なモンスターの素材であろうとも、売値の上限というものはある程度決まっているという事だろう。
「つまり、冒険者ドリームなんてものはないんですね」
「いやいや、貴重なモンスターの素材を売った資金を元手に、別の商売を始めて成功するもんもいるよ。結局はさ、頭のでき次第ってことさね」
僕の身も蓋もない台詞に、フォーンさんは皮肉気に笑いつつ、アイロニーで返してくる。絶対に、冒険者ドリームなんて信じてないクチだろうに。
「おーい、お二人さん。ご歓談中のところ申し訳ねえっすけど、そろそろダンジョンに向かうっすよ?」
僕らのやり取りに呆れつつ、フェイヴが投げやりに促してくる。
そうだな。いつまでも人ごみを眺めてたって始まらない。
「それじゃ、行きましょうか!」
僕が気合を入れてそう言うと、フォーンさんもパシリと手を打ち合わせて応える。
「おうさ。未発売の【鉄幻爪】の値段に見合った仕事は約束するよ!!」
……【鉄幻爪】の製作コストを考えたら、ちょっとだけ不安になった。うん、末端価格は十倍、二〇倍になっていると信じよう。
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