第15話 下水道のダンジョン化
冒険者ギルドをあとにした僕らは、軽く下水道を確認してから、ダンジョンに戻ってきた。その間、依代には特に問題が生じる事はなかった。下水道に関しても、特に変化なし。
日付が変わったあと、だいたい深夜二時くらいの、下水道から完全にない頃合いに、ダンジョンに取り込む算段を付けた。
そんなわけで、僕らはダンジョンへと戻ってきていた。
「見付かった不具合は、依代の運動能力が低いという点だけか。筋トレすればいい?」
正直、運動部をドロップアウトしたような僕には、地道な筋トレは続けられる自信がない。どちらかといえば、幻術のお勉強の方に力を入れたい。
「できれば、一度依代を作り直したいですね。作成の段階で依代の運動能力を高めておければ、問題はないでしょう。いまのままでは、その依代では危険に対処する能力が不足しています。なんとかして、精神をこちらに戻す方法を見付け、依代をオーバーホールするのが最適かと」
「っていってもなぁ……」
どうやったら精神が戻れるのか、そもそもそんな方法があるのかって話からになるんだよなぁ。正直、雲を掴むような話だ。
「依代の活動限界の際に、ショーンの精神がどうなるのかが不明瞭である以上、いずれは精神をダンジョンコアに戻す必要があります。であれば、差し迫った危機がないいまのうちに、方法を模索しておくべきでしょう」
グラの言い分には、一理も二理もある。ただし、それに同意できるかどうかは別だ。
「依代からダンジョンコアに戻る方法の模索ね。なにをどうすればいいのか、まったく見当も付かないけど、やってみるよ。それはそれとして、生命力の理で作った肉体なら、同じく生命力の理で作り変える事って可能なんじゃない?」
「そうですね。不可能ではないでしょう。ですが、場合によっては肉体機能の維持ができない形に変えてしまう恐れもあります。それはおそらく、とてもひどい苦痛を伴うでしょう」
なるほど。たしかに、自分の好き勝手に肉体改造ができるからといって、戸○呂弟の一〇〇%中の一〇〇%みたいな体になったら、たぶん内臓とかクシャってなっちゃう。さらに最悪なのは、たぶん僕、その状態でも死なない可能性が高い。
僕の本体は、あのパール質の擬似ダンジョンコアだからなぁ。内臓は必要だけど、潰れても即死しないだろう。生命力が五割を切ったときみたいに、死ぬ程苦しいだろうけど……。
「慎重にやっていこう……」
「それがよろしいかと」
うん。そんな死に方はごめんだ。
「それと、できれば早急に、ダンジョンツールの複合幻術を僕にも教えて欲しい。こっちの体になってから、保有しているDPが感じられないから、ちょっと不安なんだ」
このままの状態で、僕がダンジョンの掘削や改変なんかを、やりたくはない。DPを消費しすぎたりなんかしたら、目も当てられない。
だが、ダンジョンの仕事から完全にオミットされてしまうと、僕はただの役立たずだ。それは勘弁して欲しい……。
「なるほど、たしかにそうですね。では、幻術の勉強は、しばらくは至心法の習得を課題としましょう。幻術の習熟にも、きっと役立ちます」
「うん、そうしよう。お願いします、先生」
「はい。がんばりましょう」
依代に肉体としての活動限界がある以上、これまで通りの勉強時間の確保は難しい。とはいえ、やりたい事、やるべき事、やっておいた方がいい事が減ったわけでもない。
使える時間が減った分、忙しくなりそうだ。
草木も眠る丑三つどき。僕らはまだ活動を続けていた。
早速、依代の活動限界という名の眠気を無視した稼働だが、まぁ今日だけは仕方がない。下水道をダンジョンに取り込むという、一大事があるのだ。なにか問題が起こった際には、及ばずながら僕も助力する所存だ。
「それでは、ダンジョンを延伸させます。掘削の必要がない分、消費DPが少なくて助かりますね」
「まぁ、あそこまで浅い場所なら、掘削そのものにかかるDPは少なくてすむだろうけどね。問題は……」
「ええ、問題は想定外の事態が起こらないか、です」
モンスターに吸収されるDPは許容範囲内。下水道内で戦闘する、人間とモンスターから吸収できるとみられるDPは、現在のダンジョンの維持DPを十分に補えると想定されている。
そう、現時点で問題は予想されていない。まず、なにもないはずだ。
本当なら、僕が依代に乗り移ってしまったあの日にも、ダンジョンに取り込む段取りだったものが、二日間もずれ込んだ事でダンジョンのDP事情は以前にもまして逼迫している。
今日取り込めなければ、適当に攫ったならず者を、ダンジョンに放り込まないといけなくなる。胸糞悪くなる話だが、グラを生き残らせる為なら、僕はそれを行う覚悟がある。
「では、行きましょうか」
「うん」
僕らのダンジョンは、花のない衣裳部屋から下水道に繋がっている。といっても、子供一人が通れる程度の、通風孔に偽装した通路が一本あるだけだ。そこを、グラが先頭になって匍匐前進のまま進む。
……僕の身を気遣って先に進んでくれたのだろうが、今度からは僕が先に行こう。もしくは、グラにパンツを履かせよう。
そうかからず、僕らは下水道へと降り立った。僕は大樽廻を装備しているし、グラは自前で結界を張る為、下水道特有の臭気は感じられない。
「それでは、生命力を浸透させます」
「あい。僕は周囲を警戒してるよ。なにか異変を感じたら、すぐに伝える」
「はい」
こちらを見て頷いたグラ。この状況に、特に緊張してはいないらしい。まぁ、僕もなにもないとは思っている。昼間見たときも、下水道の様子は普通だったし……。
そう、思うんだけど……、余計なフラグを立てすぎた気が……。
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