第34話 チンピラ注意報
「…………」
石の机に突っ伏す僕。
幻術の勉強段階を一段あげたら、こうなった。いやもう、わけわかんないよ。
文字や図形を用いて描く、所謂魔法陣的なものを見せられて、魔力の理とはどういうものなのかを説明された。
こういう魔法陣や、ゲームでお馴染みなポーション、提灯鮟鱇のようなマジックアイテムを作るのは、【魔術】の一種である魔導術の範疇らしい。
いやもう、ホント、そっちまで頭に詰め込んでいる余裕はないよ。魔力の理のなかで、とりわけ【魔術】は種類が多すぎるのだ。流石、人間もダンジョンも、その技術の向上に血道をあげている分野だと関心する。
そんなわけで、意気込みも新たに幻術に取り組んだ僕は、早々に挫折したのだった。まぁ、挫折しようと骨折しようと、スパルタ教師はおかまいなく授業を続けるので、僕もヒーヒー言いながら勉強を続ける。
「——うん? 侵入者?」
「そのようですね。今日は、ショーンが囮役を務めたわけでもないというのに、珍しい事です」
「たしかに。じゃ、ちょっと迎撃の準備をば」
といっても、机についたまま居住まいを正し、机をポンポンと二回叩くだけだ。これだけで【
いずれはこれも、パターン化したいくつかの幻影を投影する事で、僕らの操作を必要としなくなる予定だ。
「じゃあ、そうだね。今回は、居眠りしている態でやろうか。敵が幻影に触れたら、落とし穴発動! ってパターンを記録しときたい」
「了解です。そうなると、ボタンが押せませんね。そこはどうします?」
「あ、そっか。手元にボタンとか作れないかな?」
「そうですね。侵入者が【
「あーい」
自らの体を動かすように、ダンジョンを改変していく。今回は、それ程大規模に変えるわけではない。スイッチの位置を変える程度、作業時間は数秒もかからない。
そうだな。足踏み式のスイッチにしよう。寝たフリしながら踏める仕様だ。
「って! 吊天井で全滅したぞ!?」
侵入者たちの違和感が、廊下で全部消えた。全滅だ。
「どうも、そうとうに迂闊な連中だったようです。外見も、浮浪者や人攫いというよりも、ゴロツキやチンピラといった印象の連中でした」
「そうだったの? しまったなぁ、罠の改変に気を取られて、確認してなかったよ」
「まぁ、構わないでしょう。本来、侵入者のいちいちにダンジョンコアが対応する必要などありません。その為の免疫機能なのですから」
「まぁ、そういわれればそうなんだけど」
しかしだからといって、自ら手を下しもせず、殺す相手を認識すらもせず、ただ人を殺すというのには、なんというか……、強い罪悪感のようなものを覚える。死者に対する、最低限の礼儀にすら欠けているのではないだろうか。
殺人そのものには、もうそこまで葛藤はない。それはそれで嫌な慣れではあるのだが、それとはまた別にして、あまりにもおざなりではないか?
当然、そんな自問自答に答えてくれる声はなく、中断していたお勉強を再開するグラ。僕もまた、消えない罪悪感を押し殺しつつ勉強に戻る。
「——って、あれ? また侵入者?」
「どうやらそのようです。ショーン、今日の分の拡張は終えてますよね?」
「うん? まぁ、午前のうちにね」
僕らは予定通り、一日一部屋のペースで、ダンジョンの領域を広げていっていた。現在、階段と物置と廊下以外に、四部屋ある。うち一つが【
正確にいうと【
「それでは、この侵入者たちを撃退したら、住処をもう少し奥に移しましょう。なにやら、不穏な予感がします」
「なるほど。そうだね」
グラの言葉に、僕は気を引き締め直す。もしかしたら、この連続侵入はなにかの前兆なのかも知れない。さっきが呆気なかったせいで、少々気を抜きすぎていたようだ。
どうせなら【
意識を飛ばして確認してみたが、たしかにチンピラっぽい侵入者だ。特になにかを装備しているわけでもなく、普段着のような姿で剣だけ持っているという有り様だ。
ダンジョン舐めてるとしか思えないが、そもそも彼らに、ダンジョンに潜っているという意識はないのだろう。民家に押し入るつもりなら、手にした剣で十分という判断なのかも知れない。
そしてチンピラたちは、またも吊天井に大打撃を受けた。だが、今回はきちんと生き残りもいた。三人の生き残りが、物置で吊天井をあげ、ついでに鍵を開き、一人が電気で感電死した。
だからさ、なんで触るのさ。丁寧に、レバーの上に【天井】【鍵】【
つーかそもそも、泥棒が家の電気を点けようとするなって話だよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます