第八話 落ちてきた
その山道は、町へ向かうには絶対に通らなければならないのだが、東上さんはほかにも奇妙な出来事を体験したことがあるという。
友人と他県まで遊びに行って、帰りが0時を回ってしまった日のことだ。
何の前触れもなく突然、
ドン。
と車に何かがぶつかったような音と軽い衝撃があった。
東上さんも友人も、小さな動物を轢いたと思ったという。
だが、車を停め、懐中電灯片手に道を引き返してみたが、死骸は見当たらなかった。バンパーにもヘコミや血の痕跡はない。
運転手も道路には何も居なかったという。
虫の可能性もなくはなかったが、それにしては音が重い。
シカやイノシシのほど大きくはない、せいぜいタヌキかウサギのような小動物と衝突した、そんな音だったという。
「気のせいじゃないの」
「いや、音もしたし、ぶつかった感じもあったじゃん」
再び走り出した車の中で、あれこれと話していると、
ドン。
また音がした。
だが、今度はぶつかったという感じの音ではなかった。
ボンネットの上に、何かが落ちてきた。
そんな音だった。
また車を停めて、確認してみたがやはり何の痕跡も認められなかった。
運転手もたまたま落ちてきた瞬間、目を離していたという。
流石に2度も立て続けにそんなことがあって、東上さんも友人も気味が悪くなってきた。誰からいうともなく、さっさと車を出し、帰路を急いだ。
するとまた、
ドン。
今度は、ルーフの上に何かが落ちてきた。
ちょうど両手で抱えられる、猫くらいの大きさのものが落ちてきたように感じたという。
誰も車を停めて確認しようとは言いださなかった。
けれど、東上さんは嫌な予感がして、けれども好奇心もあり、振り返って車の後ろの窓に視線を向けた。
次は、後ろに落ちてくるんじゃないだろうか。
そう考えたのである。
友人たちも同じように後ろの窓をじっとみていた。
運転手も、不安げにチラチラとバックミラーを確認していた。
しばらくすると、
ドン。
音と共にトランクの上に何かが落ちてきた。
髭の生えた男の生首だった。
「わっ!」
車内の誰もが一斉に声を上げた。
すると、生首はにやっと笑い、コロンと車の上から転げ落ちた。
「あれ、首だよね」
東上さんが言うと、ああ、うん、といまだに自分の見たものを信じられないというような調子で友人たちが返事をした。
山道を抜けるまで、それ以上は口を利かなかったという。
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