第七話 白装束の女

 長野に棲んでいる東上さんの話である。

 諏訪湖で行われる大きな花火大会を友人と一緒に見に行った帰りのことだ。

 日本有数の花火大会には多くの人が訪れ、普段は閑散とした道路も、その日ばかりは大渋滞となっていた。

 花火大会自体は夜の十時に終わったものの、渋滞を抜けたのは夜中の2時を回った頃だった。

 それでも友人とあれこれ談笑しながら、自宅のある集落への山道を走っていると、前方に人の姿が見えた。

 白装束を着て、白い頭巾を被った女だった。

 東上さんも3人いた友人も、驚いて声も出せなかった。

 女とすれ違って、しばらくしてから運転手が車を停めて、

「なあ、今、見た?」

 と聞いた。

 東上さんも他の二人も、

「見た。白い服の女だろ」

 全員が同じものを見ていたことに同意した。

 それであの女は実在するものなんだ、ということになった。

 すると一人が、

「だったら、送って行ってやった方がいいんじゃないか? こんな時間だし」

 と提案した。

 確かに、町の方へ出るにも、自分たちが住む集落へ向かうにも、そこは半端な位置にあり、徒歩だと一時間以上はかかる。夜遅く女性一人というのはいくら田舎とはいえ怖いだろう。

 東上さんはなるほどと思ったが、ふと、女の姿を思い出し、あることを考えてしまった。

 女のいた辺りには、古い、誰も管理する人もいない社があった。

「なあ、あれってさ。丑の刻参りなんじゃないか?」

 友人たちは、あっ、というような顔をして黙ってしまった。

 丑の刻参りは人に見られてはいけない。見られたなら、その相手を殺さなければならない。そんな決まりがあるという。

 生きている人間でも、そうでなかったとしても、乗せない方がいい。

 東上さんたちは、そう結論付けて帰路を急いだ。

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