彼氏側視点

 遂に、この日が来た。

 ひとつだけ、決めていたことがある。

 一度でもいい。喧嘩をして、二人の間にどういう価値観の違いがあるかどうかを確かめてから、結婚を決める。そして、喧嘩が一度も行われなかったら、初めて会ってから5年目に、プロポーズする。

 今日が、5年目だった。彼女とは、喧嘩しなかった。

 こうなりゃもう、しかたない。

 一度目の喧嘩は、きっと二人が別れるきっかけになるだろう。5年待った。それでも、喧嘩は、ない。

 これから数十年、しぬまで、おれは、彼女を怒らせないように生きるしかない。

 それでもいいと、あきらめるまで、そこそこ時間がかかった。彼女が優しすぎる。自分との衝突を避けるように動いている節がたくさんある。家事はおれのほうがうまいのに、最近ほとんど彼女がやりはじめている。

 個人的には、不満がある。ごはんはおれが作るほうが上手い。仕事の帰りもおれのほうが早い。選択も、掃除も、近所付き合いさえも、おれのほうが。

「いや、だめだな」

 彼女のやりたいことに、水を差してはいけない。我慢するんだ。これから数十年、しぬまで。

「よし」

 指輪を買いに行こう。

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