生まれて初めて大規模に喧嘩する二人

「あっ」

「えっ」

「なんで、ここに」

「そっちこそ。どうしたの」

「指輪を、買いに」

「誰に渡すの?」

「そりゃあ、もちろん」

「え、私?」

「他に誰がおるんですか?」

「あ、ごめんなさい。浮気を疑ってしまった」

「ひどい」

「そういうつもりじゃ、ごめんなさい、あの」

「一緒に5年過ごしたのに、浮気て」

「ごめんなさい。ああ、えっと、めんどうになっちゃった」

「面倒?」

「ああ、えっと、んもう」

「おれも言わせてもらいますけどね」

「うっ」

「ごはんはおれが作るからね?」

「えっ」

「家事はおれがやる。君よりもおれのほうが家事が上手いから」

「あ、え?」

「ん?」

「いや、私も浮気って言われるかと思った。あれ、いや、なんかおかしいな」

「いや年頃の女性がジュエリーショップ来るのは普通でしょ」

「あ、そか。そうだよね。ごめん」

「そうそれ」

「え、ごめん」

「謝らないでよ」

「え、ごめ、あ、えと、すいませんでした?」

「ああもう」

「どうしよう、えっと、その」

「いやごめん。おれがわるい。こんなところで。しかも家事について言っちゃった。いや、ごめんなさい。そうだよね」

「え?」

「明日も君が家にいてくれる保証なんてどこにもないのに、家事はおれがやるなんて、おかしな話だ」

「えいっ」

「うぐっ」

「そういう、その、私がいついなくなってもいいみたいなの、やめてください。いやです」

「うっ、うう」

「あ」

「いたい」

「ごっ、ごめ、あ、あやまっ、謝っても、いいですか」

「どうぞ」

「殴ってごめんなさい」

「はい。いたかったです。とても」

「ごめんなさい。本当に。私、その、ずっと、あなたといたいです」

「殴った直後に言う?」

「あ、うえ、えと、もう一回謝ってもいいですか」

「だめです」

「えええ」

「おれも言わせてもらいますけどね。あなたといたいです。ずっと」

「はい。え?」

「でもなんか最近、喧嘩しないようにみたいな雰囲気があって、喧嘩して仲直りしたりしてお互いの距離が縮まればみたいなのをおれは期待してたん、ですけど」

「はい」

「もう二度とあなたを怒らせないようにします」

「うん?」

「はい。この話は終わり。なにか言いたいことはありますか?」

「あ、あの」

「どうぞ」

「結局あなたは、何しにここへ?」

「あなたにプロポーズするための指輪を買いに」

「き、奇遇ですね。私もです」

「え?」



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