ガラスが割れる瞬間

春嵐

彼女側視点

 歩け。歩け。

 速くもなく、遅くもない速度で。

 このまま仕事を、いつも通りに終わらせるんだ。

 このまま。このまま。

 仕事が終われば、課長に言われた通り準備して、決行する。

 課長に言われた言葉が、胸で暖かく鼓動する。

 恋人との関係が進展せず、同棲以上結婚未満が数年続いていた。割れそうなガラスの同棲生活。ヒビの入るのがこわくて、喧嘩もできない。

 なんとなく仕事場で愚痴ったら、家族勤労10年目に差し掛かる課長がさらっと凄いこと言った。

「え、それ、告白待たないで自分から指輪買って渡せばよくね?」

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