第60話 一瞬

ご協力のお願いについて。

近常ノートにて、とある戦闘機作品のサンプルを展示しています。

意見が欲しいのです、よろしくお願いします。




「ヒーハー! 頼もしい奴らのお出ましだ!」


 要塞には傷一つないが、空はあらかた片付いたとき、誰かが大声でそう叫んだ。

 平原の向こう側で、大きな土煙が立っている。頼もしい奴らというのはあれの事らしい。

 この戦いにどうにか間に合う為に、道なき道を突き進み、遂に国境を越えて地上部隊が到着した。

 戦車や装甲車……様々な種類の軍用車両が隊列を組んでいる。空と同じく、彼らも同じ目的の為に集まった部隊のようだ。

 しかし、彼らの声は勇ましくはなく、切羽詰まった物だった。


「こちらタスクフォース141、ただいま到着した――!」


「こちら

 よく来てくれた、これで押し込め――!」


「――聞いてくれ、一刻を争うんだ!

 いいか、落ち着いて聞いてくれ。

 さっき、電子戦部隊が要塞内部の無線の傍受に成功した。

 核ミサイルの発射フェーズはもう始まっている!」


「……まさか、そんな筈は無い。

 空路で運んできた形跡もないし、鉄道ではこんなに早くは……」



「道を作ったんだよ。

 連中、邪魔な自国民を排除して最短距離で来たのさ。

 とにかく、ミサイルは発射フェーズに入ってる。何か撃破する手段は?」


「……」


 連邦の突然の蛮行に対する阻止作戦ということもあって、詰めが甘かった。

 要塞再戦力化48時間以内という予測は正しかった。

 ただ、それは連邦がルールに従った場合での時間だった。

 クーデター軍は全てを尽くした。主要幹線道路、並びに線路を占領。邪魔な国民の排除、挙句には同志である連邦軍を騙して核兵器を奪い去ったりなど。

 ある意味、彼らも全力なのだ。

 ここに来て、連邦の狂気が彼らの団結を上回った。


「……当初の予定では、制空権の奪取並びにこの要塞に電力を供給している外部発電所の無力化を行い、その後、地上部隊の突入による要塞の制圧を予定していた」


「間に合わないと言ってるんだ!」


「わかってる! ……現状、制空権の奪取と、外部発電所からの電力供給ケーブルの破壊には成功した。

 要塞の各部の能力は確実に低下している……しかし、肝心の中央にかかったあの防衛システムは一切の弱体化を見していない。

 やはり、あの塔を倒さなければ……」


 重い沈黙。

 空中管制機を含む作戦を指揮した指揮官達もここまでは上手くやってきた。

 戦闘機部隊も全力を尽くした。

 地上部隊も予定よりもかなり早い到着だ。


 それでも、赤い膜は平然と要塞を覆っている。


 誰も悪くはない。

 強すぎるのだ、かつて世界が恐れた連邦の化け物が。


 その時だった。

 空と陸、此処にいる全ての者に伝わる無線帯に何者かが割り込んできた。


<……聞こえるかね? >


「これは……連邦空軍の周波数帯か!?」


「クソ、俺達を笑いに来たんだ! 切っちまえ!」


「いや、待て!」


 余程遠距離からのオープン回線のようだ、音質が酷すぎて誰の声かは分からない。だが、シュワルツはこの声をどこかで確実に聞いた事がある気がした。

 そして、この声は自分を導いてくれるという確信があった。


<訳あって、その地に私はいない。

 こちらからはそちらの声を聞くことは出来ない。

 私の言葉がそちらに伝わっていることを切に願う。

 ……恐らく、諸君らはその要塞を攻略できずにいる筈だ。

 それもその筈だ。その要塞は核戦争発生時に連邦最後の砦となる筈だった要塞なのだからな。

 制御塔から供給される電力をフルに使うことで、アルテミスはどんな攻撃も防ぐことが出来るのだ>


「んなこと知ってんだよ! やっぱりこいつは俺達を――!」


「ジャック、頼む」


 シュワルツの制止には誰も逆らうことが出来ず、誰もが口を噤む。


<そう、その防衛システムアルテミスは核攻撃すらも防ぐのだ。

 しかし、その機構には弱点が指摘されてきた。

 点の攻撃には驚異的な強さを誇るが、面の攻撃には弱い。

 当時の技術で作られたコンピュータでは迎撃のコントロールが追い付かなくなるのだ。


 一時的に、本当に一時的だが、アルテミスは諸君らに隙を見せるのだ>


「……面の攻撃だと?

 確かに、今まで攻撃は控えさせてきたが……」


<これは連邦の……いや、一人の男からの願いでもある。

 アルテミスを破り、制御塔の内部へ突入し崩すのだ。

 マールスを堕とせ。

 それらは連邦の守護神として産まれたのであって、全てを焼き尽くす死神ではない。

 諸君らなら出来る筈だ。 


 最強の盾を貫ける矛にならそこにある筈……幸運を、赤翼の英雄>


 通信が切れて数秒後、奇妙な程の静寂が続いた。

 やがて、誰かが口を開いた。


「今のは誰なんだ?」 


「いや、騙されるな、今のは連邦の欺瞞作戦だ」


「じゃあ、このままミサイルの発射を眺めているだけなのかよ!」


「だが――!

 ええい、やつらカウントダウンを始めた!」


「――行こう、俺が行く」


 迷いだらけの人生だったが、シュワルツは今までの人生で最も芯がある言葉を口に出した。


「隊長、しかし……」


「やらなきゃ何も始まらない。

 ……全機、いや、此処にいる全員に頼む。

 俺に道を開けてくれ」


「……わかった。

 ウインドメイカ―より、作戦行動中の総員へ!

 要塞に対して同時攻撃を仕掛ける! 彼一人だけでいい、彼を通せ!


 時間がない、総攻撃まで30! あらゆる角度から仕掛けろ!

 残弾を気にするな、全部の弾を使え!」


 シュワルツに道を開ける為に、要塞を取り囲むように幾多の国籍マークを付けた戦闘機達が集まる。

 防衛システムアルテミスは余裕を失ったかのように、薄い赤色を血の色のようにどす黒い赤色へと変わった。


「わかった!」 「了解、HE装填!」 「2000ポンドを用意しろ、外すなよ!」

「ライフルマンは構えろ! もしかするとこの一発で変わるかもしれないだろう!」

「マーベリックロック、タイミング外すなよ!」


「マールス要塞一斉攻撃まで、5、4、3、2、1……撃て!」


 戦場に爆音が響いた。


 大型爆弾、対地ミサイル、ノーロックの対空ミサイルから、戦車の砲弾、迫撃弾、5.56mm弾が一斉に要塞へと向かっていった。

 要塞を護るアルテミスは顔を青ざめたかのように、赤色の膜を一瞬青く光らせた。

 膨大な負荷が掛かり防御機能が弱まったのだ。

 しかし、それも一瞬の事だった。

 すぐにアルテミスは再び機能を取り戻し、再び空を赤くした。


 だが、その一瞬は致命的なものだった。


 シュワルツはその1秒にも満たない一瞬のうちに、赤い膜が飽和したそのたった一か所を擦り抜けて、アルテミスの内側へと滑り込んでいった。


 一瞬、倒すべき巨大な塔を見上げた。


 そして、そのまま一切の躊躇も無く、大型車両向けの地上連絡用ハッチから要塞の内部へと飛び込んだ。


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