第59話 最強の盾と矛
この話において、核兵器が登場しています。
しかしながら、本作品はフィクションであり、また核兵器の保有、使用を主張する意図は一切ないということを此処に記させて頂きます。
◇
<僚機を失った! 誰か、援護してくれ! 誰か――>
パニックになり逃げ惑う連邦軍機だったが、一瞬、通りすがった赤い翼に切り刻まれ散っていった。
シュワルツは立て続けに敵機を堕としていった。
「こっちも一機堕とした!」
「慌てるな、連携を意識しろ」
「背中は任せろ、行け!」
作戦空域上空は大混戦の様相を見せていた。
この空は飛行機雲とミサイルスモークで描かれたキャンパスとなっている。
見るものを圧倒させる壮大さと、そしてどうしようもない程の死の恐怖で充満している。
<もう嫌だ! り、離脱する! >
<待て、逃げるな! マールスがあれば我らに負け無しだ!>
その空気に耐えられず、逃げ出そうとする連邦軍機も現れだした。当然、連邦軍のことを想った結果、この戦いに正義を見出した人間もいるが、周りの空気に流されただけ、その程度の士気のものも多かったのだったのだろう。
一方、同じく赤い翼を付けた友軍機は一歩も引かずに戦っている。
彼らは勇敢過ぎて怖くないという訳ではない。
一度、国を失いかけ、帰る場所も失いかけた彼らは逃げる方が怖いのだ。
だからこそ――シュワルツは向こうの空で、ファントムが一機孤立しているのを発見すると、すぐさまラファールをその場所に駆った。
ファントムに機銃の魔の手が襲い掛かる寸前、逆にそれを狙っていた戦闘機がシュワルツの機銃の餌食となる。
逆にそのシュワルツの隙を狙おうとした敵機は彼の列機に堕とされた。
しかし、ながらシュワルツの救ったファントムのパイロットが発した声は不服なものだった。
「……何だよ。
生き残っちまった。 部下に俺が囮になるって言ったのに。
アンタが本物なんだな。
やっぱりエースにはなれんのかなぁ、俺じゃあ」
「部下を救っただけではエースなんかじゃない。
帰還出来てこそがエースだ」
「……そうだったな、教本にも書いてあった。すまない、帰還する。反省文は後々提出するから下で会おう」
黒煙を吐きながら飛んでいくファントムを見送ると、一度安全圏へと昇り、下へと見下ろす。
この激戦の真下にも関わらず、うっすらと赤い幕を張っているマールス要塞が無傷で佇んでいる。
一本の巨大な柱、あれが電力を供給しているのだろうか。
それから根の様に、放射線状に大地にを覆い隠す鋼鉄の要塞の地上部分。
SF映画の機械都市のようだ。
「でかいだけだ。うちのばあちゃんにも敵わないさ」
「……冗談を言っている場合か。
でも、私はこの部隊になら出来ると思うんだ。隊長」
「確信でもあるのか、エリシア?」
「ああ、だって、私達に出来なかった作戦が一度でもあったか?」
得意げな口調で話すエリシアと、一本取られたなと大笑いするジャック。
最初に来た時、この二人にどういう印象を持っていたのか、今ではよく思い出せない。利用しようとしていた気もするが……。
「そうだ、不可能なんてない。
早く終わらせて帰ろう」
と、その時、シュワルツの眼は要塞の防衛システムの中の遠隔式カメラがこちらを見ていることに気が付いた。
◇
「第三飛行中隊、通信途絶! 」
「第七対空戦車大隊からの応答が途絶えて10分経過、防空エリアCを放棄します」
要塞の中、高官達のいる一室では次々と友軍の被害報告が入ってきていた。
寄せ集めのクーデター軍とは言え、地の利もある筈だからまだ持つと楽観的に予想していたのだが……脆い。
だが、この部屋は生と死がぎりなく接近している外とは違い、未だ何の影響も受けず良く効く空調も、満足な飲食物もある快適極まりない空間だ。
しかし、それを楽しめる雰囲気ではない。
一人の禿げ頭の将校が若干を声を震わせながらこう言った。
「少し、冷房がきつくは無いか?
……だ、大丈夫なんだろうな」
「落ち着け、この要塞のアクティブ防衛システムアルテミスは最強の盾だ。
あり得ないが、もしも電力の供給がストップしたとしても要塞は強固だ。
ミズーリ級の主砲でも、かのヤマト型の主砲でも破壊は出来まい。
出来るとしたら、内部から攻撃を加えることのみだが……制御塔は完全に無人。スパイが入り込む余地も無ければ、一人の人間が持てる爆薬で壊せるほどのやわなものでも無いさ」
要塞の中央部でもあり、シンボルでもある高い塔。
鉄壁の護りである防衛システムの発電を担っている場所だ。見た目と反し、中は冷却の為、殆どが空洞ではあるが。
因みに彼らの部屋はその真下にあった。
「おお、そうか……はは、それは頼もしいな」
しかし、そのことを聞いてもどうも落ち着かない。
彼らの正面にあるモニターに映し出されている、空を自由自在に飛び回っている深紅の翼をもつ戦闘機ならばその鉄壁すらも破ってしまうのではないか。
そんな悪寒が止まらないのだ。
その時、そんなやや臆病な彼らを勇気づけることが起きた。
「報告します! 特殊弾頭7発が到着しました!」
「おお、本当か!」
カメラの映像は切り替わり、要塞地下の駅が映し出された。
たった、今停車した列車には放射性物質を示すマークが。
要塞として作られたものの、あまりのコストに放置されていたこのマールス要塞には最強の盾はあっても、肝心の最強の矛が無かったのだ。
それが今やってきた。
「随分、早かったじゃないか。
やはり、我らの栄光に道を開けてくれた我が国の国民の愛国意識は高いようだ」
「ふん、邪魔者を片っ端から戦車砲で吹き飛ばしたくせに……良く言う。
まぁいい。すぐに装填を始めろ」
届いたものは連邦が誇る最新鋭の弾道ミサイル……では無く、旧式で射程の短いものだった。
しかし、愛すべき隣人の所までならこれでも十二分だ。
「攻撃座標はパルクフェルメの首都だ。急げよ!」
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