第53話 平和への反逆者
我が国、アルタイル連邦軍の海外派遣部隊をすべて撤退させます。
一切の例外なく、です。
進攻の是非については……此処では控えさせていただきます。
はい。その進攻先で起こったとされる我が軍の戦争犯罪行為についても現在調査中です。
……これは、私個人的な意見なのですが。
軍の一部が連邦政府の命令を無視し、そういった蛮行に及んでしまったのかもしれません。
そういった行為が発覚したのならば、必ず、法の下に罰することをお約束します。
はい、必ず。
私共はそういった者達の責任を追及します。
――メディアの取材に答えるアルタイル連邦の報道官。
◇
連邦が撤退し、パルクフェルメに平穏が戻った。
世間はどちらかと言えば、連邦の没落に注目したが、当人たちにとってそれは重要なことでは無かった。
娯楽を最後に楽しんだのはいつだろうか、皆、ようやく取り戻した平穏を謳歌したかった。
しかし、未だ人々には実感が湧かなかったのだ。
そこでパルクフェルメを中心とした7カ国は、皮肉なことに連邦がやったような平和式典を開催した。
連邦も国際社会に向けてのパフォーマンスの為か、謝罪を兼ねた特使を派遣しようとしたが全会一致で拒否された。
政治はもう御免だ。
彼らは自由を祝いたいのだ。
当然、主役は彼らだ。
雲一つない青空。曲芸飛行にはうってつけの空だった。
「こちらウィンドメイカー、暫くぶりだな……また会えて嬉しいよ、諸君」
「良く聞こえているよ、大分、声色が良くなったじゃないか。
それにしても……せっかくみんなで此処まで来たんだから、国境なんてとっぱらちまえばいいのに」
「馬鹿を言うんじゃない。それでは連邦のやった事と変わらない。
全て同調することが、平和では無いさ。
おっと、私としたことが……空の気象状況を」
「了解した。
パルクフェルメ国際スタジアム上空は見ての通り青空だ。視界も良好……下から見上げる人々もよく見えることだろう。数万人はいるらしい。
いや、大したことではないか。諸君らは国際中継の前で飛んできた渡り鳥なのだからな。
念の為、通達すると会場周辺の警備は万全だ。
諸君らも一応の武装はしているが……。
まぁ、あれだけ大々的には敗北宣言をしたんだ。余程余裕がなかったのだろう。連邦軍が来ることはまずありえない」
実際あり得ないだろうとシュワルツも確信していた。
前の自分達の展示飛行はある種の賭けだった。下手をすれば、本当に平和への反逆者として世界中に名を知らしめることになるかもしれなかった。
だが、今連邦が同じことをしても、最早理解不能だ。既にかの国の真用は地に堕ちている。
正直、シュワルツにとって此処から祖国が持ち直そうが、堕ちていこうがあまり関心のないことだった。
先の作戦では教官は見当たらなかった。彼がやすやすと撃墜されるとは思えないので、あれが戦闘機パイロットとしてのラストフライトだったのかもしれない。とにかく彼と血で血を争うなどしたくは無かったのでよかった。
アルフレッドに関しては、彼はもう堕ちていくだけだろうという確信があった。
それを見届けたいとは思っていない。
今見ていたいのは、この大空なのだ。
此処から彼の夢が始まるのだ。
「……行こうか、スワロー隊、スモークチェック。
これより会場に突入――」
だが、しかし。
「これは……!?
待て! ミッションキャンセル!」
「……どうした事故でも起きたのか?
レーダー警報、なんだこれは?」
「信じられない、どうして……連邦領からのミサイルの発射を確認した!
何を考えているんだ、ミサイルは式典会場に向けて発射された模様! 」
「何……どういうことだ!?
スタジアムの中にいるのは数万人の民間人だぞ! 」
混乱に陥っているのは、彼らだけでは無かった。
警戒に当たっていた他の部隊からも驚愕の声が上がる。
意味不明。
下には海外メディアも大勢いる。
それらが犠牲となれば、世界は連邦を二度と赦すことは無いだろう。
何が目的なのか、一切理解できない。
しかし、シュワルツは瞬時に頭を切り替えた。
「スワロー1より各機、任務を迎撃に切り替える。
とにかく情報をくれ、なんでもいい! 」
「これは……!?
連邦の国営放送を傍受した、そちらに転送する! 」
やや間があって、多目的ディスプレイにその映像が送られてきた。
主画面には黒煙立ち上る連邦の首都と被害状況を示す地図……ほぼ全土で被害が発生しているようだ。
右下のワイプの中には緊張の面持ちのアナウンサーが必死に言葉を紡いでいた。
<――繰り返しお伝えします。
国内で大規模なクーデターが発生しています。国民の皆様は、屋外に出ずにこの放送を付けたまま屋内に待機してください。
続報が入るまでは、兵士が住人の保護を目的に尋ねて来た場合も絶対に戸を開かないでください。
新しい情報が入ってきました。
クーデターの主犯とみられる人物の氏名が公表されました>
映し出された白背景に、黒文字という無機質な画面に切り替わる。
多い、50人はいる。現在判明している主犯だけでこの数となると……全貌はどうなのだろうか?
が、その中の一つに彼がよく知る名があった。
アルフレッド・ブライアント。
忘れられる筈のない因縁の名だ。
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