第52話 二度目の終戦
<わ、私はパルクフェルメ外務大臣、サンロマだ!
聞こえないのか!? 繰り返す、諸君らの指揮権はこの私が!
ええい、そこの連邦兵! 私を安全な所へ――!>
「よし、突入! 突入! そこの売国奴を捕らえろ!」
<――状況は? どうなっている!?>
「焦るなよ、市街地に爆撃したら元も子もないからな」
<わかりません! 状況は混乱しています! >
<あ、あれは……ラファールだ!
パルクフェルメの赤翼の!……クソ、被弾した、イジェクト!>
「スワロー1、一機撃墜」
連邦の防衛線は押されていた。
混乱し、敵味方混線する無線の断末魔に気を取られることなく、シュワルツは機体を反転させ、逆さまになりながらパルクフェルメの町並みを見下ろした。
伝統的な木組みの町並み。だが、それの景観は台無しになっている。
低空飛行するジェット機、幾多の対空砲の砲撃に、大通りにたむろす連邦の装甲車たち。
と、シュワルツの視界はその中に一つだけ異端なものを捉えた。
若干の疑問を抱きつつも、それの元へと急降下した。正確にはそれを追いかけている装甲車の元へ、爆弾を持って急降下した。
<止まれ! クソ、逃が――しまった、爆撃だ!>
「うわぁ!? 何が起きたんだ!?
あれは、TVで見た……助けてくれたのか、凄い、実在していたなんて!
……聞こえますか、私達はパルクフェルメ中央病院の者です!」
彼の見た異質なものとは救急車だった。
爆風たちのぼる市街地の中を、サイレンを鳴らして爆走していたのだ。
「何をしているんだ?
空爆は始まっているんだ。早く安全なところへ――」
「いいえ、そう言うわけにはいかないのです。
この救急車の中には、重い病気を患っている子供がいます。
残念ながら、私の病院では医療物資不足で手に負えませんでした。人道目的での他国への搬送依頼も連邦占領部隊にも聞き入れてもらえずに……他の病院で治療しなければ、手遅れになってしまいます。
今、このチャンスしかないと――」
「わかった。
そのまま直進して5個目の角を左に、そこに陸軍の部隊がいる」
「何から何まで……感謝します。
……この子は病気に加えて、この戦争で親を亡くし完全にふさぎ込んでいたのですが、TVに映ったあなた方の曲芸飛行を見てから、自分はあんな戦闘機パイロットになりたいと、まだ生きて居たいと、希望を持ち始めたのです。
失礼、話し過ぎました。
貴方方が私達を救ってくださったように、私もこの子を必ず救います。
幸運を!」
「……ああ、任せた」
シュワルツは遠ざかる救急車を見送ると、強いまなざしで眼前を睨んだ。
正面から、フランカー近代改修型F1 数は6。
それらが彼の元へと飛来してきたのだ。
<居たぞ、奴だ! 奴を消せば、流れを変えられる!>
<挟み撃ちにしろ、今だ!>
いや、それだけでは無かった。
上空の雲の中から、また別のフランカーが彼の後ろを奪うように飛び出て来た。
<パルクフェルメの赤翼が何だ! 俺がやってやる!
背後はもらっ――! >
シュワルツは背後に対して反応しなかった。
恐らく、雲から奇襲を仕掛けたパイロットは、この迂闊な英雄を確かに仕留めたと確信しただろう。
いや、確信する前にもう意識は消えていたかもしれない。
「はいよ、もらい。スワロー2、二機撃墜。
どうよ、なかなかのものだろう」
「無駄口を叩いている場合か、どんなに大事な作戦かどうかわかっているのか?」
雲の中から出てくるのは、当然、彼の僚機達だ。
彼らと合流し、僚機に挟まれる形となった赤翼のラファール。
連邦から見れば、シュワルツは爆風や、誰かの断末魔に怯えることなく、ただただ悠然と飛んでくる地獄の炎の翼をもつラファール。
<……っ>
連邦の誰かが息を呑んだ。
彼等の熱くなっていた頭が冷やされる、冷静になって考えてみれば、こんな相手に勝てる筈がない。
だって、そうだろう?
たった三機で連邦本土を侵犯し、連邦が誇る精鋭をいともたやすく撃墜し、それほどまで英雄に成り上がり、数多くの兵にターゲットにされたのにも関わらず……こんなに堂々と飛んでいる。
そう、これは証明だ。
このラファールは、空を飛ぶことを邪魔してきた全てを堕としてきたのだと。
連邦兵にとって、それは恐ろしいことこの上なかった。
<か、勝てない……!
援軍は!? 本国からの援軍はまだなのか!?>
<――命令を繰り返す、防衛線を維持しつつ、臨機応変に反撃を続行せよ>
<クソ、前線なんてとっくに崩壊してるんだよッ――!>
◇
パルクフェルメ全土に、パルクフェルメの旗が立った。
当たり前のことを書いているように見えるが、これの意味するところは――連邦が敗北したというとこだ。
そして、首都が解放されると同時にあることが起きた。
連邦が占領軍の即時撤退並びに、軍事行動の即時停止を申し出た。
要するに、連邦政府が負けを認めたのだ。
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