第50話 愛機
とある兵器群の描写をカットしました。
一時停止を取り消し、活動報告も削除させて頂きました。ですが、頂いた意見は全て把握しています。
皆様に多大な迷惑をおかけしたことをお詫びします。
◇
「……成程、言いたいことは分かった」
数日前、シャッキール市を護りきったシュワルツはとある機体を前にして、独り言を吐いた。
彼の目に前にあるのは、新品同様のイーグルだ。
とある国が、是非とも英雄にこれをプレゼントしたいと言ってきたのだ。
祖国からは機体も何もかも取り上げられてしまった彼だが、此処に来てからはいろんなものを渡されている。
彼等の国の技術者から、渡された資料を目にしながら些か舌を巻く。ジャックのイーグルとは違い、純正かつ近代化された最新鋭機のようだ。その国でも製造国からこの一機が引き渡されたのみ、シュワルツへの期待がうかがえる。
だが、彼女にとってそれは吉報では無かった。
「マルチロール製ならまだしも……空戦なら、ラファールよりも高性能みたいね。……悔しいけど」
「フィオナか。多目的機と制空機だ。比べるのは分が悪すぎる。
待て、悔しい? どういう意味だ?」
「それは、だって……私が最初にあなたに戦闘機を渡したのに……これじゃあ盗られたみたいで……!」
「何を言ってるのか、よくわからないが……大丈夫か?」
よくわからない感情で嫉妬するフィオナと、よくわからないと困惑するシュワルツ。
その時、外野からおちょくるような声を掛けられた。
「女と同じように、機体もバンバン乗り換えていこうぜ、英雄さんよ!」
「……貴官は?」
「このイーグルをわざわざ持ってきたパイロットだよ。あんたのことは聞いてるが……俺は機体性能のお陰だと確信してるよ。いいじゃないか、こいつにはヘルメットロックオン機能もあるんだ、もっと強い機体で無双できるぞ」
「ちょっと、あなた失礼でしょう!」
「いや、ちょうどいい。これのパイロットか。
新しいエンジンの感触も試しておきたい。模擬戦を頼みたい」
「……は、おもしれえ」
その後、二人は空に向かった。
イーグルのパイロットも大口を叩くだけはあって、中々の腕だった。しかし、中々で勝てる相手では無いのだ、シュワルツは。
撃墜までの所要時間、69秒、49秒、33秒、勝率3/3……シュワルツのラファールの完勝だった。
模擬戦後、イーグルのパイロットは膝に手を突くほど疲れ切っていたが、シュワルツの方は極めて普通だった。そして、敗北した彼に対し、優れた技術をさらに高めるべき、もっと機体への理解を深めるべきだという助言を行い。相手も素直に負けを認めた。
その上で、シュワルツはイーグルの受け取りを断った。
「悪いな、フィオナ。
まだ、ラファ―ルのことは君に任せることになりそうだ」
「……いえ、それは全然いいのだけど……。
どうしてあんなに簡単に勝てるの? エンジンや電子系だってあっちの方が……」
「皆、紙に書かれたスペックが全てだって信じる。
だが、技巧気に飛ばされるのがパイロットじゃない、操るのがパイロットだ。
上手く出来なければ、振り回されるし、持て余す。最悪殺される。
俺だって、全ての機体を上手く操るなんてできない。
空を飛ぶ為には愛機が必要なんだ」
「……愛機、私の機体が?
そう……そうなのね」
夕日に照らし出されたラファールを見上げるシュワルツを、横目で伺いながら、フィオナは柔らかな笑みを浮かべた。
◇
一方、アルタイル連邦、パルクフェルメ駐屯部隊前線基地にて。
彼との激闘を終えた数日後、グランニッヒは自身の飛行隊に当てられた寂れた部屋で、夕陽を眺めながらタバコを吸っていた。
彼の飛行隊、シルバーアローの戦果はそこまで多くない。彼らの任務が友軍の殿であるということも大きい。
だが、数字しか見ないもの達は過去の英雄を嘲笑った。過去の栄光に縋ったものの末路だと。
ただ、それでも彼を敬愛する部下達はいる。誰にも称賛されるわけでもない友軍の殿を彼らなりに全力でやり、評価よりも友軍の命が大事と胸を張って言える若者達が彼の下には確かにいるのだ。
「少尉、君に家族はいるのか? 」
「……は? ああ、い、居ます!
実は今度、待望の息子が生まれるのです!
自分も故郷に帰った際には立派な軍人として息子に顔を合わせたいと思っています! 」
「……そうか」
事務作業をしていた部下の屈託のない笑みに、努めて無表情でやり過ごす。
若い将兵たちは上層部のこの後退は一時的なもの、尚も連邦の絶対的有利は続いているという発表を信じ切っている。
自分たち連邦が既に世界から悪と見られ、そして負けているという事実に未だ気づけていないのだ。
だから、グランニッヒは誰にも聞こえないように呟いた。
「連邦の歴史も終わり、か」
突如、グランニッヒは強い胸の痛みを覚えた。
だが、彼が取り乱すことはない。どんなに優れたGスーツを着てようが、老体に戦闘機乗りは務まらない。そんなことは彼が誰よりもよく知っていた。
連邦の英雄として名を馳せた自分が最期に何をすべきか、彼には薄々わかっていた。
「……それはそうと、隊長殿。
あの機体は……?」
「ん? ああ」
部下がおずおずと指を指した先には、ブルーシートを掛けられた見慣れない形状の機体がけん引されていた。
「本国の博物館に倉庫に眠っていた機体だ。
どうせ、使わないし、誰も見向きもしないでいたようなのでな。昔のつてを使い持ってきてもらった。
歴史の中で消えていった機体、私にお似合いの機体だ」
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