第48話 勝利と共にある艦

申し訳ありません、また遅れてしまいました。

この辺から、どんどん読んでくれる人が居なくなったので少し躊躇しました。

面白くない場合は、なんなりとお申し付けください。 



艦橋以外は真っ平ら……確かに潜水艦特有の特異形状だ。だが、大きいのだ。とにかく異常なほど大きい。

 シュワルツは直ぐに撃沈を命令しようとした。こんな超兵器は核の有無に関わらず、撃沈しなければならない。


「……ちっ」


 しかし、その潜水艦の上部ハッチが開き、中から対空装備が出て来るのを見て一旦攻撃を断念した。これも通常の潜水艦には無い装備だ。


<……封印文書を艦長権限で開封する。

 副艦長と内容を共に確認する>


<了解、読み上げます。

 我が祖国は敵性勢力の武力攻撃により存亡危機の状態にあり、致し方なく我が艦は敵主要都市に対し、特別弾頭を用いた遠距離攻撃を実施する>


「遠距離攻撃だってよ、投石器でも積んでるのかな ……クソ、何が存亡危機だ、ちょっとばかり国が傾いたぐらいでよ!」


「本当に撃つ気か!? どうかしてる、本当に連邦は国家として機能しているのか!?

 いや、それ以前に……冷静過ぎる!」


「完璧な国家を目指しすぎたんだ、連邦は……連邦に誰かの痛みなんてわからないさ」


 正当性・利便性だけを求めてきた結果、連邦は多くの者を傷つけてきた。そのことは痛い程シュワルツが分かっていた。

 別にハッチが開き、中から艦載機ライトニングⅡが現れ、エレベータからも攻撃ヘリが現れた。

 最早SFの世界だ。

 その時、あちら側から自信に満ち溢れた声で無線に割り込んできた。


<赤翼、聞こえるかね? こちらはイスカリオテ艦長だ。前回はよくも我々の艦載機を堕としてくれたな。

 どうかね、壮観だろう? これが連邦の正体だ>


「確かに、連邦そのものだ……無様だな、こそこそと」


<私もそう思う。だが、こんな不名誉艦に幾つもの国が滅ぼされてきたのだ。

 戦争に英雄など要らん、私は勝利だけを求める。この艦は常に勝利と共にあって来たのだ。

 正しい戦争のやり方だと思わんかね、恐らく元連邦の航空兵よ。


 それに、我らの名誉は祖国が保障してくれる>


 イスカリオテ、裏切り者ユダの故郷の地と言われる名前。彼らの故郷は海底にあったのだ。

 流石に潜水艦だ、数こそは多くないが連邦製ではないライトニングⅡやアパッチなどの航空機が上空にシュワルツらの前に立ちはだかるように展開し始めた。

 彼らの言う通り、幾つもの国が彼らのそういった外道的な装備・戦術に翻弄され疑心暗鬼になり、そして滅んでいったのだろう。

 だが、シュワルツは彼らの主張に賛同することは出来なかった。


「勝利したものが勝つだけだ、外道だろうが何だろうが。

 だが、英雄は確かに実在する。

 俺はそういう人の背中を見て育ってきた、そして、そうなりたい。


 ……敵艦の対空兵装はそこまで無い、船体にダメージもあるようだ。あれでは海の中には潜れない。

 これより、敵艦イスカリオテを撃沈する」


「了解、やってやろうぜ! 」


<特別弾頭、装填まで5分。発射まではそれ以上――>


<5分で全て終わらせろ、敵は紛い者だろうが何だろうがエースだ。

 主砲攻撃はじめ! 撃ち方始め――! >


 ◇


 三分経った。しかし、スワロー隊はまだ一度も攻撃を仕掛けられてない。

 個別の攻撃では駄目なのだ、容易く迎撃されてしまうからだ。

 焦らず隙を探る、シュワルツにはそれでだけの冷静さとそれだけ信頼できる仲間がいた。



<母艦を護れ! 奴の道を阻め! >


<弾幕を張れ、目標ラファール、コールチク用意、撃て!>



 海面を滑るようにして艦に接近するシュワルツのラファールを追いかけようとしたライトニングⅡ、そして、艦の対空砲が狙いを定めようとした瞬間、ラファールは翼を海面に擦る寸前の低さで横転ロールをやってのけた。


<何ッ――?>


<弾幕待て、撃ち方待てッ! 撃ち方待て!>


 不運にも対空砲の弾は、艦を護る為に懸命に戦っていたパイロットの元へと向かっていた。

 そして、動揺の為か、それとも艦の対空システムが同士討ちを認識したのか、突如として弾幕が消え去った。


 シュワルツはそこを逃さなかった。


「スワロー隊、全機へ。全ての火力を以って敵艦を攻撃せよ! 」


「了解……発射、死にやがれ! 」


 アクロバット飛行隊のように、一気に編隊を再編した彼らを誰も止めることは出来なかった。

 3機から発射された大型ミサイルは一気に海面まで下がると、そのまま加速していく。

 ややあって、イスカリオテからの迎撃が始まった。が――遅すぎた。


 ミサイルをシュワルツ達が追い越した後、黒い巨体から真っ赤な火柱が上がったのを背中越しに確認した。


「やった! これでお終いだ! 」


「派手にやるじゃないか、いい絵が取れた!

 湾岸警備隊の記念博物館に写真を収めるとしよう! 」


 ゆっくりと沈んでいく潜水艦、まるで沈み行く祖国を表しているようだ。シュワルツがなんとなくそう思った矢先だった。



<艦長、本艦は沈みます! 退艦指示――! >




<まだだ。まだだッ!

 ――バラストタンク注水! バランスを保て、撃つぞ! その為なら喜んで死ねッ! これは名誉の戦死だ! 


 一瞬でいいから、射角をとるんだ! とれ!>



「まさか!? ――いや、出来る筈がない!」


 

 黒煙を上げている黒い巨体は藻掻くようにして、溺れるのを堪えた。

 そして。


<艦長、射角が――!>


<撃て! 撃て、撃て、撃てッ!

 ……ク、ハハハハハハハハハハハァ! 喜べ、水兵諸君! 我々はまた勝ったぞ!>


 黒い巨体から、鋼鉄の塊が撃ちあがった。




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