第47話 熱心党

 ハイルランドの湾岸警備隊は、密かに民間人を装った観測員を離島に配置していたらしく、スワロー隊はその情報を基に、何かがいるであろう現場に急行していた。

 ただ、陽動にしろ、二面作戦にしろ、連邦本土からの爆撃機は確かに存在するのだ。

 割ける部隊はスワロー隊と、大戦時の戦闘機、マスタングをほんの少しだけ補強した非軍事組織の飛行隊と、臨検用のヘリだ。ちなみにヘリには噂の兵器が載っていた時の為、フィオナが搭乗している。


「……了解、わかった。

 ビンゴかもしれない、海岸沿いの観測員が見慣れぬ輸送船が通っていると言っている。

 ぱっと見、民間船の見た目をしているらしい」


「どのくらいだ、軽空母ぐらいか?」


「いや、そんなに大きくはない。 中程度、精々護衛艦サイズだ。

 もしかすると、ただ単純に航路を少し離れただけの民間船かもしれない」


(……タンカーに偽装した小型空母かと思ったが、外れだったのか?

 いや、あの海域のたった一隻で向かう必要は無い筈。何かがある)


「見えた、あそこだ! 」


 波打つ海面上にその船がいた。確かに普通に何処にでもいる民間の貨物船のように見える。不審なのはこの先にその積み荷を降ろす場所がないということだ。


「任せてくれ、こういうのは俺達の日常業務だ。


 こちら、ハイルランド……及びパルクフェルメの沿岸警備隊だ。

 航行中の船舶は直ちに、停船し、此方の指示に従え。 従わぬ場合は直ちに攻撃を行うことになる……繰り返す、此方は――」


 もしかすると、民間船かもしれない相手にかなり高圧的な態度をとる沿岸警備隊のベテランパイロット。

 そのお陰で、すぐにあちらの船から返事が返ってきた。

 それは分かりやすいものだった。 船の甲板上に対空ミサイルランチャーが浮き出て来たのだ。


「ふむ、民間船では無いようだな」


「ああ、俺もそう思うぜ……ようし、よくやった! あとは下がってろ、ロートルムスタング共! 俺達がやってやる! 」


「待て、もしも核があったら……」


「恐らく、厳格な信管がある筈。それに起爆したとしても、あの船に乗るサイズならそう大きくはない筈……大丈夫、攻撃をお願いします」 


 沿岸警備隊員、戦闘機パイロット、科学者、それぞれの分野の人間の意見が一致し、対象艦の撃沈が決まった。

 シュワルツは敵艦の兵装を確認した。どうやら連邦陸軍の保有する短距離ミサイルのようだ。これなら撃沈できるとエリシアに一発だけ対艦ミサイルの発射を命じた。

 彼女だけ、一発だけ、そうしたのは、まだ胸騒ぎが収まらないからだ。


 音速に限りなく近い速度で、ミサイルは海面を滑るように飛翔する。 ターゲット艦はミサイル、そして対空砲まで出し必死に迎撃するも、対空レーダーを積んでいない正規軍艦では無いのが致命的だった。

 ミサイルの接近を止められず、あっけなく真ん中から黒煙を上げてへし折れてしまった。


「よし、一艦撃沈! ……だが、あっけない。 本当にあの船に何か載っていたのだろうか? 」


「さぁな、載ってたかもしれないし、載ってなかったのかもな。

 収穫は無かったが……いや、リスクを潰せたというのはでかい。文句なしの作戦成功だ」


 困惑の声を上げるエリシアを、安心させるように軽い調子でそういったジャック。

 だが、その言葉にシュワルツは更に胸騒ぎを感じた。


「載ってたかもしれない……。

 もう既に載っていなかった……?」


「どうしたんだよ? 何を当たり前のことを……。いや、でも、載ってなかっただろ。見ろよ、この大海原! どこにも荷物を置ける場所なんてないぞ」


 そうなのだ、シュワルツは周囲をぐるりと見渡す。

 陸地は無く流氷が漂うだけ、レーダーを見る限り、他に船舶も居なさそうだ。 

 だが、敵は焦っていたように思えた。 あの時、反撃せずに民間船の振りをして、此方の出方を見ることだってできた筈だ。

 まるで、何かから目を逸らさせるためのように。


 ……そこで気付いた。まだ見ていないところがある。


「沿岸警備隊! 適当なところに魚雷を撃ってくれ! 持っているだろう? 」


「は? ……いや持っているが……。

 ああ、言うのを忘れてた。確かにソナーに何か映っているが、潜水艦にしてはでかすぎる。こんなのあり得ない。よくあることだ、きっと氷の塊が映し出されているんだ」


「いいから、撃つんだ! そこに撃つんだ!」


 シュワルツの声に押されたように、彼らは内心首をひねりながらも、プロペラ音を響かせながら魚雷を投下した。


 ……暫く、何も起きなかった。 ただただ滑らかな海が続いていた。


「おいおい、どうした? やっぱり何も居ないじゃないか。気にしすぎだって、核なんてただの噂――」


「いや、待て! 隊長、今、海水が――!」


 一瞬、海面が泡立った気がした。

 次は確実に水しぶきが上がった。そして、海が割れた。


 ――シュワルツは先程の船から物資を受け取った潜水艦がまだこの近くにいると確信して、攻撃を命じた。

 だが、これ程のまでとは思わなかった。


「な、なんだこの化け物は!?」


 海面から出て来たものを見て、エリシアはそう叫んだ。

 出てきたのは確かに潜水艦だった。




 ただし、全長推定300mオーバー、全幅は40mを超しているだろう。

 何よりも目を引くのは、艦中央に伸びたファスナーの様なもの……あれは、航空機発艦用カタパルトだ。




 シュワルツはこれに見覚えがあった。

 現実世界ではない、御伽噺フィクションの世界でだ。



「……潜水空母……!? 」




 ◇




<TVカメラにより視認。 例の赤翼かと>


<成程、例の英雄か。 相手にとって不足はない。

 連邦海軍の唯一の潜水空母にして、唯一の不名誉艦、イスカリオテ、対空戦闘用意!>

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