第46話 疑問
パルクフェルメ有数の工業地帯であったシャッキール工業地帯は無事に元の主の元へと帰った。
制空権の奪還により安全な空路が確保され、隠れながらの小規模空輸では無く大型輸送機を使った大規模輸送が展開できるようになった。更に幹線道路も使用可能となった為、トラックでの陸路輸送も可能となった。
パルクフェルメ以外の国々もそれぞれ奮闘し、連邦を押していたが、必然的にここを反抗の一大拠点とした。
いや、それだけが理由ではないのかもしれない。
連邦に反抗する者たちにとって、スワロー隊はすっかり英雄となっていたのだ。
ただ、寡黙な彼の代わりによく喋るのはお喋りな彼の方だったが。
「そうだ、確かに連邦軍にはそういう特殊工作部隊がいた。中々の手練れだったと思うが……俺達の隊長殿が全部落としちまったがな!」
「そうか、あのライトニングⅡはあんたらが墜としたのか!? 他の奴は信じてくれなかったが、俺は確かに見たんだ、暗がりの中から姑息に攻撃するそれらしい機体を見たんだ! 」
「確かに、今思えばあれもだったのか?
……じゃあ、俺たちはあいつらに対立させられるように誘導されたというわけなのか? 」
「わからないが……今ここでこうして戦っているっていう事実があれば十分だ」
「いいことを言うじゃねぇか……えっと、何処の国のパイロットだ? 」
様々な国のワッペン、もう既に連邦に吸収されて消えってしまった国の人間が此処にいて、共に語り合っていた。
だが、その中心にいながらも、ずっと押し黙っていたシュワルツはとある疑問を投げた。
「……待て。
そっちのパイロットは確か西の国で、そっちは東の方だったな。あのライトニングⅡの行動範囲はどれだけ広かったんだ? 」
「確かに……ちょっと待て」
気の利いた誰かが証言をまとめ、地図に例の部隊の行動範囲を描き上げた。
すると、驚くべきことに大陸の、しかも北極海側を自由自在に行き来していたことが判明した。少し前まで連邦が優勢だったとしても、まだ制空権は全て連邦のものではなかった。ということは空中給油機を空に留まらせておくのも困難だ。
たとえ占領地域の最前線基地から発進しても、これは厳しいだろう。
と、なれば……シュワルツは仮説を呟いた。
「空母……か?」
「いや、それはありえん。 連邦の空母艦隊だとすれば北極海側から来る筈だが……流石にそんな大物なら俺達のオンボロ哨戒機で見つけられる」
ライトニングⅡのB型は艦載機だ。空母で裏をついたとなれば納得がいくが、そうでもないようだ。
いや、それ以前にやはりどう考えても連邦がライトニングⅡを保持していることがおかしいのだ。
何かもっと大きなものが動いていた、いや、まだ動いているような。
「隊長、もう撃ち落とした敵のことが何故そんなに気になるんだ? 」
「いや、ただ……」
自身の部下の、自分自身の不安を取り除くために気になっただけだ、と一言で片づけようとしたその時、けたたましいサイレンが鳴り響いた。
◇
奪還したばかりの空港に、緊迫したアナウンスが流れた。
「連邦本土より戦略爆撃機が来襲! 数は6! 」
「戦略爆撃機……ブラックジャックか!?
まさか、あの噂通り、連中は――! 」
「余計なことは言わないで! とにかく迎撃よ! 」
連邦が十数機しか運用していない大型爆撃機の名を聞き、誰かが噂を叫ぼうとし、誰かがそれを制止した。
連邦に関するある噂が立っていたのだ。この戦争を思い通りに進められなくなった連邦は核兵器を使用するのではないか? という噂だ。
殆どの者はこの噂を信じなかった。 連邦だって大国だ。そんなやけを起こした子供のようなことするはずがない。……尤も、これはそうであってほしいという願望だったのかもしれないが。
とにかく、何にしろ迎撃しなければならない。
今稼働できる殆どの機体を出撃させていく。スワロー隊は最後の番、いよいよ離陸の順番が回ってきた。
「スワロー隊、離陸をどうぞ」
いつの間にか、管制塔にいることが当たり前になったフィオナの澄んだ声を聞きながら、シュワルツはスロットルを押し込もうとした。
が、手が動かなかった。
疑問が頭をよぎったのだ。
「……隊長?」
(……あんな茶番じみた式典をやるほど、綺麗ごとにこだわる連邦が真正面から核攻撃じゃないにしても、市街地爆撃なんてするだろうか?
やるとするなら、モグラの様に隠れて……)
頭の中に、ライトニングⅡ、工作部隊、先程の地図の絵図が浮かんでは消えた。
そして。ある憶測が浮かんだ。
「……中止だ、スワロー隊、離陸中止!
地上滑走で速やかに格納庫へ。
フィオナ、この前の沿岸警備隊に出撃要請だ。
それと……対艦兵装への換装を」
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