第45話 提案
赤の翼と銀の翼が黒雲を切り裂く。
アクロバットな戦闘機動、そして教本のような洗練された無駄のない基本に忠実な機動。
決着のつかぬ闘い、永遠に続くかと思われたその空戦。
だが、永遠には続かなかった。
<よし、よし、隊長殿の言う通り、敵機の撃墜を考えるな。数はこちらが上だが、あちらは渡り鳥だ。
時間を稼げばいいんだ、逃げ回れ。
いいぞ、友軍機の空域離脱を確認! 隊長、任務成功です!>
<……そうか、分かった>
「こちらクレイン隊、スワロー隊の援護をしに来た。まもなく到着する」
「……了解、感謝する」
赤と銀の翼をもつ二機は、何処か名残惜しさを感じさせつつも、ゆっくりと列機を連れて離れていった。
グランニッヒの率いる部隊、シルバーアロー隊は友軍機の撤退の援護に成功。
一方、シュワルツ率いるスワロー隊は、友軍を奇襲で失いつつ、更には圧倒的数的不利に陥るも、誰一人かけることは無かった。
隊同士で言えば、互角の戦いだったと言えるだろう。
「……隊長でも倒せなかった機体、か。
い、いや、決して隊長が劣っていると言いたいわけじゃない! ただ、そう言う敵もいるのかって思っただけで……! 」
「……ああ、確かに居るさ」
エリシアの失言に対し、シュワルツは何故か自分の事のように少しだけ嬉しそうにそう言った。
彼もまた同じだった。
<グランニッヒ隊長でも、あの赤翼は堕とせないのか……>
<ば、馬鹿! お前、英雄の少将殿を疑う気か! きっと――!>
<いや……光栄なことだ、これは。
今も尚、私は空を飛ぶことが出来た。そして、奴に食いつくことが出来た。
何度も言わすな、少尉……今の私は英雄でもない、少将でもない、ただの一航空兵だ>
だが、彼らは再び対峙する。
恐らく、その時は歴史が大きく変わる時だ。
◇
「見てくれ! 昨日やられたばかりなんだ。
警察を呼んでも中々来てくれなかったんだ。全く信じられなーー」
「撮影禁止だ! 撮影を止めろ! 」
連邦に取材に来ていたカメラマンの撮影は、突如憲兵によって遮られた。
先程まで映し出されたのは、窓ガラスが破られた商店。店の主人曰く警察が来るのが遅かったのが原因のようだが……根本的な原因は治安の悪化だ。
あの式典でのハプニングにより、世界中から厳しい目で見られることとなったアルタイル連邦。
たかが恥を晒しただけ、こんな大国が落ちぶれる筈が無いと、大体の国民がたかを括っていたのだが、そう上手くはいかなかった。
連邦のやり方に意を唱えた国々からの経済制裁。連邦の焦りに気づき不信感を持った複数の国が共同事業を中止。かつて吸収した国の独立運動。
そして、さらに多くの国から見放される負のスパイラル。
信用というものは重い言葉なのだ。
幾つかの企業は傾き始め、政治家たちの不祥事スキャンダルが相次いだ。
平穏と繁栄を当たり前だと感じていた人々は、大きな不安と不満にかられ始めた。
ある者は自分に都合のいい情報だけを信じ、ある者は悲嘆にくれて他の人々も一緒に不幸に巻き込んでやろうと考えた。
給料が少ない、税金を減らせ、政治家を引きずり回せ、あの国を侵略しろ。
何処かの人々を文字通り犠牲にすることでその豊かさを享受しておきながら、今じゃ少しばかりの不幸で暴動まで発展するようになった連邦の人々をみる世界の目は冷ややかだった。
結果的にそれは連邦に対する反逆者を増やすことにしかならなかったのだ。
かつて彼をあどけない笑みで嗤った子供達は、今は不仲になった両親の口喧嘩に泣いてしまう日々を送っている。
彼らが大人になる頃、連邦は元通りになっているのだろうか?
そんなことは今は誰にもわからない。
◇
連邦政府では少数の専門家たちを集めてある会議が行われていた。
その内容は、この戦争の終わらせ方だ。
外務大臣主導による平和協定は不発に終わった。彼らはパルクフェルメらをより対等な条件で同盟国ににするなどの妥協気味な融和策を主張したが、一度失敗したお陰で、軍上層部の過激派が発言権を握っていた。
現状ですら前線の維持が困難になっている。このまま戦争が長引けば、連邦の敵国は増えるばかりだ。弱みを見せてしまえば敗北もありうると彼らは主張した。
その上で、彼らはこれを提案した。
戦況を一変させることの出来る強力な兵器の使用を提案したのだ。
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