第41話 解放作戦

 大都市とまではいかないが……この国ではそれに値するだけなのだろうとシュワルツは下の風景を見て思った。

 山を切り裂いて幹線道路が引かれている、これはこの都市が主要な輸送都市であることを示している。

 幾つかの都市が重なって構成されるシャッキール工業地帯、それが彼らの次の攻略目標だ。


「ウィンドメイカーより各機、迎撃機が上がってきた。

 それに後方からも増援が来ている……やはり、多いな」


 だからこそ、連邦の抵抗も激しい。

 世間は連邦に厳しい眼を向けているが、だからといって哀れな中小国に援軍を出す国は今のところは無い。メリットがないからだ。

 だが、ジャックは楽観的な声を上げた。


「いや、俺達も負けてはいない。今日はいつもみたく寂しく俺達だけってわけじゃないと思うぞ」


「……何を言ってるんだ?

 私の知らない間に友軍でも見つけたのか?」


 困惑の声をあげるエリシア、同じく疑問を呈そうとしたシュワルツ。だが、その前に聞きなれない声が無線から入り込んでくる。


「俺達も協力するぜ」


「地上からの無線……? 誰だ、貴官らは?

 こちらはハイルランド空軍の空中管制機だ、所属を明らかにせよ」


「所属なんてものは無い、連邦解体戦線……いや、テレビではよくテロリスト集団と呼ばれているな」


「何?」


 シュワルツはその単語に聞き覚えがあった。

 彼らの自己紹介通り、連邦内でテロリストとして知られる団体だった。彼らは連邦からの独立を主張し、軍施設を標的に何度か爆弾をしかけたことがあった。連邦の人々は彼らのことを意味不明で野蛮な連中と認識していた。シュワルツだってそうだ。


 だが、今ならわかる。


「かつて、連邦に吸収された国の人々か」



「……ああ、ずっと昔にな。

 俺によく祖国の話をしてくれた唯一の家族だった爺さんは、ある日、連邦警察に連行された。そして、何日かした後遺骨で帰ってきたんだ。

 "不幸な事故があった、諸君らも不幸に会いたくなければ日々の行いを見直したまえ" 奴らはそう言ったよ。……あの日、式典会場に集まってる群衆共々、皆をトラックでひき殺そうとしたんだ」


「……でも、そうしなかった?」


「ああ、あんなものを見せられたらな、憂鬱な気分も吹き飛ぶってもんだ。

 ゲリラ戦なら得意だ、手を貸す。遥々連邦の片田舎から来たんだ、派手に暴れてやる」


「感謝する、地上戦力は明らかに不足していたんだ。それなら……」


「待て、待て、待て。

 話は聞かせてもらったぞ、いっちょやるとするか! こちらパルクフェルメ戦車大隊、捕虜収容施設から脱獄してきた、ついでにもな!」


 下に視線を向けると、林の中に6両ほどの戦車が身を潜めていた。その乗組員たちは空に向けて敬礼している。


「我々もだ、ハイルランド沿岸警備隊だ、同胞たちもいるようだ、加勢する」


「沿岸警備隊……? 何を考えている、正規戦は無理だ。

 それに、待て、諸君らの航空装備は確か……」


「いつもこれで悪人みつりょうしゃと戦ってきたんだ、同じ悪人と戦うんだ。問題ない」


 近づいて来た機体を見て、ジャックがヒューっと口笛を鳴らす。その機体は世界大戦時の名機、マスタングだった。翼にありったけの爆弾を積んでいるが、早速、編隊から遅れ離されている。


「おいおい、それはロートルが過ぎるってもんだぜ」



「老人に道を譲るのは、若者たちの礼儀だろう? 

 君たちが渡り鳥飛行隊だな。敵機を排除してくれ、奴らに爆弾を落とす。

 何、対空砲ぐらいは躱して見せるさ」


 他にもぽつぽつと現れだした増援達。シュワルツは少しだけ嫌な考えが頭をよぎった。


「……何故、ここにこんなに集まってくる? 俺達の作戦がばれているんじゃないか?」



「心配ご無用!

 此処だけじゃない! 他にも大勢が、いろんな国で戦い始めたんだ!」


「だが、俺達はラッキーだ! 赤翼の英雄と共に行けるだなんてな!」


 いつの間にか中規模の編隊は、幾重の翼が織りなす大編隊へと変わっていた。

 どうも居心地が悪くなり、横に目を向けると、ジャックがからかうようなジェスチャーをしていた。お前も当事者だ、とジャスチャーで返し、深呼吸をする。


「AWACS、ウインドメイカ―、時間だ。始めよう」


「承知した、これよりパルクフェルメを……いや、抑圧されている全てを解放する戦いを始める!」



 ◇




 連邦軍上層部は怒りに満ちていた。当然だ、あんな失態歴史上でも稀な程だ。身の程知らずな中小国共にわからせなければならない、上層部は本国の配属部隊も動員した。




 一方、上層部の内でも上。政府と密接にかかわるような軍の最高上層部は、密かにある計画を作成していた。


 この計画が発動されるというのは、まずありえないのだが、念には念を入れて。




 それは、国家存亡危機時の緊急計画だ。


 連邦の敗北が確定的になった際に発動される計画案、すなわち、敗北だけは回避する案だ。


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