第42話 解放作戦(2)


 冷えた地域の空はとても澄んでいる。

 それは戦場の空でも同じだ。


 澄んだ大空を戦火が花火のように舞い、灰色の鳥たちが轟音を上げて飛ぶ。

 その主戦場より離れた下の高度で、緑生い茂る山脈を擦るように、スワロー隊は空を駆けていた。

 シュワルツはそこから主戦場の空戦の様子を伺い、一気に仕掛けた。



<――メイジ4、3時方向から敵機だ!>


<奇襲か!? ……駄目だ! 被弾した!>


 シュワルツ達の攻撃を受けバラバラと空中で分解し、堕ちていく連邦軍機。

 エリシアの方は仕留めそこなったようだが、ジャックは一機撃墜に成功したようだ。数機の僚機を失った敵編隊は崩れる。好機だが……シュワルツは追撃を仕掛けることなく、離脱を選んだ。


 敵の視界外から一気に奇襲を仕掛け、そのまま離脱、一撃離脱法と呼ばれるベーシックな戦術だ。


 確実な戦法ではあるが、打撃性に欠ける。




 連邦軍もやはり伊達ではない。不足機が出た部隊を素早く再編させる。

 此方が押されているわけでもないが、連邦の護りは強固だ。これではらちが明かない。




 それならばと、シュワルツはいつも見たく、単騎で敵編隊に突入しようとレーダー上で敵の動きを確認しようとする。


 だが、その電子情報に一瞬、違和感を持った。暫く、その違和感の正体に気づくことが出来なかったが、ややあって気付くことが出来た。

 そして、無線を通して隊に指示を出した。


「再度、敵に近づく。今度はそれ程攻撃を意識しなくていい。

 エリシア、敵を観察するんだ。ジャック、彼女を援護してくれ」


「観察……? 一体なぜ、そんなことを?」


「連中の弱点を見出す必要がある。エリシア、君は中々目が良い。君なら出来る筈だ」



「わ、私の眼がいい……? 私ならよく出来る……?

 ふ、ふふ……了解、しかと引き受けた! 」


「ようよう、俺をおだてなくていいのか、隊長さんよ」


「必要なのか? 」



「いや、野郎の声援なんぞ要らねぇ」


 シュワルツが感じた違和感の正体はレーダー上の緑点の数だった。

 今まで細々と、個で戦ってきた。

 しかし、今は違う。味方ならすぐ近くに。大勢いる。


「……成程、あの黄色のエンブレムの隊は爆装している。

 だが、空中戦もしているようだ。爆弾のせいであまりよく動けてないが……」


「優柔不断な奴がいたか、でかした! 隊長、任せるぜ! 」


「了解……接近戦ドッグファイトに移行する、交戦の準備をしろ。

 クレイン隊、援護を要請する。太陽の方角からこの敵集団に一仕掛けるんだ、その後ドックファイトに移行。 アルバス隊は一撃離脱に徹するんだ」


 クレイン隊とアルバス隊、特にハイルランドのエース部隊であるクレイン隊とは憎しみを吐きながら戦った敵だった。

 だが、彼らは嫌悪感を示すことなくすぐさま承諾した。


「よし、10秒後に仕掛ける……今、FOX2」


<クソ、いつの間に囲まれていたんだ!?>

<レーダーに頼るな、奴らは太陽に隠れている!>

<そっちだけじゃない! 後ろにもだ!

 ……あれは調停式の時の――赤翼!? >

<祖国の敵だ、なんとしても撃ち落せ!>


 シュワルツのラファールは羊飼いの犬に追われたように一塊にされた連邦軍機の集団の上へと、機体を飛翔させる。

 以前とは違った。

 かつての憎しみを晴らすように機体に過負荷をかけ、急な旋回で敵を撃墜していく鬼神のような姿は薄れていた。




 そんな赤翼を撃ち落とそうと二機の連邦機が急上昇する。




<駄目だ、追いきれない! >


 だが――シュワルツの高度に届く前に、推力が尽き彼らは重力に引かれふらふらと枯れ葉の様に堕ちていく。 その隙を見逃されるわけもなく、次の瞬間には彼らは空に散っていた。

 そして、爆風をかき分けるようにラファールが現れる。


「上のパイロット達! 誰か聞こえるか!

 こちらはパルクフェルメ歩兵大隊だ。 君らより早く戦って居た部隊だ。

 だが、少しばかり威勢が良すぎたようだ、敵に囲まれてしまった! 


 できれば、助けて欲しい!」


「わかった。空にスペースが出来た。陸軍に対して近接攻撃支援を行う」


「はいよ! 全く、いろんなところから集まってくるのはシネマティックだが、良いことばかりじゃないな! ロートル沿岸部隊、生きてるな、爆弾の準備は出来ているな!?」


「ああ、一刻も早く重りを落として、身軽になりたかったところだ」


 離脱するシュワルツのラファールの背後にスワロー隊の二人、クレイン隊、アルバス隊、その他の戦闘機達も続いていく。

 鬼神の如く敵機を嬲り殺すような機動が鳴りを潜めたからと言って、彼が弱くなったという訳ではない。

 寧ろ、成長しているとも言える。

 恐らく、長い戦いになるであろうこの空でいかに長く飛び続けられるのかを知っている。




 それは、さながら空を知り尽くした渡り鳥のようだった。




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