第40話 作戦開始
此処はパルクフェルメ共和国軍、ガルム基地。
作戦成功から数日後、皆がミーティングルームへと集められていた。
「先日の作戦は成功した……と、俺は思っている。
でも、この作戦は正式なパルクフェルメ軍が指揮する作戦では無かった。
これからやろうとすることもだ。
……異論はないか?」
シュワルツに異を唱えるものは居なかった。
彼は頷くと、ジャックに指揮棒を譲った。
「へっ、俺がやるのかよ。まぁいい。
これを見ろ」
ジャックはTVを操作する。
画面に映し出されていたのは、既に連邦に占領されていたパルクフェルメの都市だ。
そこでは、市民達が解放を訴え行進を行い、それを連邦の兵が制圧しようとしていた。連邦兵の何人かは小銃を市民達に向けようとするが、此方をとらえているカメラに気づき、ややあって銃口を空に向け威嚇射撃でお茶を濁した。
逆に市民達は非武装だ……まぁ、武装できる物なんて精々鉄パイプくらいだろうが、実弾こそ撃ち込まれないものの、連邦の制圧部隊の放水銃、催涙ガス、それに警棒の滅多打ちを喰らいながらも、彼らは旗を掲げ続けた。その旗にはデフォルメされた翼の端が赤く塗られた燕の姿が描かれていた。
スワロー隊のエンブレムだ。
リボンの絵を掲げているもの達もいる。
「連邦はわしの家をブルトーザーで平らにしてしまったんだ!」
「ここを映してくれ! この爆撃跡だ!
連邦は白旗を上げて降伏交渉をしに来た俺達の軍隊の装甲車を問答無用で焼き払ったんだ!」
「連邦のマスコミが取材に来たけど、後ろから兵士に銃を突き付けられた状態でのインタビューだったわ!
連邦の報道は全部でたらめよ!」
カメラに向かって必死に主張を続ける人々。
パルクフェルメだけではない。連邦の侵攻を受けているもの、すでに連邦の一つの地域にされてしまったかつて国だった土地の人々が争っていた。
「イエス、停戦は完全に取り消しだ!」
「終わっちゃいないぜ、俺達は!」
そして、ニュースの画面に映し出されたのは、彼らの描いたリボンだった。
シュワルツは下から見たその写真に、何かこみ上げてくるものがあった。
今まで積み上げて来たものは全て無駄ではなかった。
「……良いもんだよなぁ、我ながら。とにかく流れはこっちに来ている。
だが、このまま連邦がごめんなさいって退がる筈が無い。それどころか、恥を晒されたんだ、本気で来るかもしれない。
正念場だ、やれるな?」
応答というより、雄たけびのような賛同の声を上げる人々の中、もちろん、とシュワルツは小さく応える。
希望を見せるだけ見せて、何もしないだなんて考えもしなかった。
祖国のとあるパイロットを思い出す。
多くの空を駆け、多くのパイロット達を導いて来たパイロット。
願わくば、彼を越えたい。
「OK、なら作戦を……いや、俺達のこれからを語ろう。
……パルクフェルメ全土解放作戦を開始する」
◇
連邦軍のパルクフェルメ駐留軍の基地は、騒然としていた。
この基地の兵達は酒を煽りながら、先日の式典で戦争が終わる瞬間をさながら年越しパーティのように楽しんでいた。
だが、とんでもない乱入者が現れ、そのカウントダウンは中止させられた。
給料こそ悪くはないが、こんな何もない中小国から祖国へ帰れる筈だったのに、たった今言い渡された至急防衛線を張られたしという命令、さながら寝耳に水の展開に慌てふためいていた。
幾らかの兵は嫌な予感を感じ、恥を忍ぶ余裕すらなく基地の事務窓口に休暇を申請していた。
そんな兵達を鼻で笑い、一人堂々と基地のテレビに目を向ける男が居た。
そのテレビには、スワロー隊一番機、シュワルツのラファールが映し出されていた。
「……」
グランニッヒだった。
彼は敵国の英雄が自国の空を自分勝手に飛び回るさまを、心底面白そうに眺めていた。
その男に若い士官がおずおずと話しかけた。
「少将閣下……あの、例の渡り鳥部隊、どう思われますか?」
「どうとは?」
「ええ、ですから……全盛期の、連邦の英雄と呼ばれたあなたなら……あの頃のあなたならば、彼に勝てると思いますか?」
「……失礼な物言いだな。
私は自分が衰え切ったとは思っていない……少なくとも、奴の飛行に私は今心を躍らせている。
本国の連邦空軍のちっぽけな研究所に、アレを此処に届けるように言え。
こう言えば、わかる筈だ。
老いぼれを再び空に上げてくれる翼をさっさと持って来いとな」
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