第36話 on the Round Table

<聞こえたか、アルフレッド大尉、敵機を撃墜せよ!>


「……了解した」


<最初は時間を稼ぐんだ。


 下の避難が完了するのを待て、そうしたら対空ミサイルで援護も出来るし、7分後には迎撃機も到着する見込みだ!>


「避難……?

 ふっ、必要ない。

 何もないところで堕とせばいいだけだろう? 下の方々もわざわざ避難したくない筈だ。

 身の程知らず共は全て俺が堕とす!」


<何を言っている!? 人命が掛かっているんだぞ……何?

 ……わかった、そのプランで行こう、撃墜だ>


 地上指揮官は反論しようとしたが、何かを伝えられたようで引き下がった。

 起業家の両親を持つアルフレッドには分かった。此処でおめおめと逃げ出したら、平和協定を大々的に結ぼうとした連邦政府は大恥をかくことになる。

 彼の考えを肯定するように、地上では広報官がこう叫んでいた。


<皆様、ご安心ください!

 この平和を望まぬ者が来るというのは想定内です!

 ですが、ご安心ください。

 ただいま上空にいる、我が国が誇るアルタイルナイツは空中戦のスペシャリストでもあります!


 落ち着いて、慌てず、そのままでいてください!>


(円卓のお偉い様方も、民衆共も……そうだ、下で見ておくがいい。

 俺の雄姿を、そして奴らの死にざまを!)


「た、隊長! 指示を!」


「ふ、ふふふ……終わりだ、赤翼!」


 アルフレッドはコレクションするように集めた若い女性パイロットの悲鳴に似た叫びを無視し、大勢の観衆の元宿敵へと一人先走るように突撃した。


 ◇


「まさか、連中自らのお出迎えとはな!

 歓迎されてるな、俺達!

 どうする、シュワルツ? 俺はお前に着いて行く!」


 ジャックが少し興奮したようにシュワルツに問いかける。

 少し前のシュワルツなら、今のアルフレッドのようにひとりで突撃したのだろう。

 だが、今の彼は孤独ではなかった。


「ジャックは一番機以外を全機を相手に、堕とす必要は無い。

 ある程度のダメージか、プレッシャーを与えて撤退させればいい。

 エリシアはその援護を、後ろをカバーしてやれ。


 ……俺はリーダー機をやる」


「了解!」「ラジャー!」




 ジャックのイーグルが鋭い90°横転バンクを行いシュワルツの元を離れ、エリシアのミラージュもそれに習う。


 エースであるジャックはもちろん、エリシアの機動には以前のような気持ちばかりが先走るような危なっかしさはない。

 彼女の個人的な技量は確かに成長した。

 だが、それを過信することなく、部隊の一人として自分に課せられた援護という任務を冷静に完遂できる程、エース部隊の一員として成長したのだ。


 この二人ならば背中を預けられる。

 だからこそ、シュワルツは迷いなく戦うことが出来る。

 彼はかつての親友が駆る深紅のフランカーを鋭いまなざしで睨みつける。


 アルフレッドに対する強い復讐心も間違いなくある。

 だが、今はそれ以上に、誰にも邪魔はさせない。

 敵機にも、誰かの悪意にも、下の円卓にも。


 もう、誰にも自身のゆめをもぎ取られなどさせない。




 ◇



 フランカーのHUD正面ディスプレイに映し出されたカーソルが、ラファールを捉えかける。


「どうした、そんなものか……?

 そんなものかッ! 紛い物の英雄!」


 確かに眼前のラファールは、ロールと減速を組み合したどこかひらひらとした機動でアルフレッドの攻撃をかわしている。

 だが、防戦一方なのはラファールの方だ。


 それに対し、これでもかというほど機銃を連射する。

 アルフレッドは高揚感に満たされていた。

 勝てる、時間の問題だ。

 勝てる、勝てる……自身が負けたのはやはり何かの間違いだったのだ。


「敵機が! ど、どうすればいいの!?

 た、隊長! 援護を、援護をぉ!」


 部下の悲鳴を無視、そして悲鳴を上げる自身の身体さえも無視し、アルフレッドは宿敵を着々と追い詰める。

 そして遂に、ラファールにミサイルのロックオンカーソルが完全に載った。


(そうだ、俺は精鋭揃いの連邦空軍の模擬戦で負けたことなど殆どない!

 小国のカスが俺を愚弄出来るなどと思うな!)


 殆ど……一瞬、その唯一の例外を思い出し、狂ったように高揚していた頭が冷水を掛けられたように冷却される。

 違う、心の中でそう叫び、アルフレッドは敵機に対しミサイルを放つ、そして、敵が回避するであろうルート上に機銃の照準を向ける。

 オーソドックスであるが、これに持ち込めばほぼ確実に仕留められる。アルフレッドの必殺技だ。


(――決まった、赤翼、終わりだ!


 奴はいない! もう死んだ!

 これを避けられるあの男は、もう、いない!)



 だが、次の瞬間、アルフレッドは現実を目の当たりにする。


 いや、何も目の当たりにすることは無かった。



 今頃、敵機が爆散しているであろう空には何も居なかった。

 ラファールは彼の視界から影も形も無く、消え去っていた。



 アルフレッドの絶対の確信を持ったこれを回避できた人間は二人いる。

 一人は教官、グランニッヒ。


 そしてもう一人は……。


 「まさか――!?」


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