第29話 アンダーコントロール

「一機で迎撃する気か? レーダーで確認できるだけでも敵は6機はいる。

 ……正気じゃない。どうかしている」


「核ミサイルを撃ち込んでくる奴らも正気じゃない。

 AWACSなら最善の選択だということが分かる筈だ。

 これ以降は無線傍受を避ける為、ガルム基地との無線のみにする、通信終了アウト」


 AWACSからの制止、若しくは苦言を一蹴すると、彼は状況を整理する。

 尻目に見えるのはちりじりになって逃げる味方、彼らも作戦の為のキーパーソンだが、結局敵に向かっていくのは彼一人だけだ。しかも武器はまだ持っていない。


 とにかく時間がない。


「フィオナ、奴らの核ミサイルのコントロールを奪う。

 出来るか?」


「航空無線、FCSにECM……この電波の中から、その信号を?

 ……やってみる、15分、いや10分時間を頂戴」


 彼女の所要時間を聞いて、シュワルツは舌打ちを何とか堪える。

 今から言うことは、かなりの無茶を言っていると彼自身理解できているからだ。


「悪い、本当に悪いと思っている。

 ……3分で信号を探しきってくれ。

 すぐに仕留めなきゃ他の奴らが死ぬ、やるんだ」


 返事は中々返ってこない。

 ただ、根気よく懇願している時間は無い。


「フィオナ、聞け。聞くんだ。

 俺とお前の間には契約がある。

 契約通り、俺は命を懸けて戦う、だから、お前には俺の戦いを全力でサポートする義務がある。

 やれ、やるんだ。


 これは命令――」


 シュワルツは口を噤んだ。

 違う、こんな脅し文句が言いたくて空を飛んでいるわけでは無い。


 もっと、単純に。


「飛ばせてくれないか。

 頼む、まだ飛んでたいんだ」


 返事は帰ってこなかった。

 ただ、耳を澄ますと、無線機の向こうからキーボードを高速で打つ音が聞こえて来た。

 恐らく、シュワルツがやれと言った時にはやっていたのだろう。


 やがて、その音も消えた。

 シュワルツが意図的に消したのだ、彼女を集中させるためでもあったし、傍受を防ぐための無線封鎖だ。


 シュワルツはその間も、敵に最短かつ、発見されぬよう、雪の降る山肌をサーキット走行のようにギリギリで駆け抜ける。

 それでも、何時かは敵機に捕捉されてしまう。

 だが、急がなければ手遅れだ。

 彼にできることは接敵前に、彼女の送ってくるデータが間に合うのを祈るだけだ。


 接敵まで、一分。

 60秒。

 50秒。

 40秒。

 30秒。

 20秒。 


 Data Updating


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 多目的ディスプレイに、理解不能な緑の数列が流れ出る。

 とてつもないスピードで、下へ、下へとスクロールされていく。


 そして、ラファールが敵に察知されたと警報を鳴らしたその時、全てが完了した。


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 SEE YOU AGAIN.


 シュワルツにとって、理解不能な数列ばかりだったが、最後の文字列だけは理解できた。

 一つ息を吐き、彼はECMを発動した。


 ◇


「初弾を躱したか。

 ククク……まさしく迷える子羊じゃないか」


 アルフレッドはレーダー上で逃げ惑う点を見て、笑みを浮かべていた。

 ただどんなに逃げようとも、最早逃げられない。

 グリペンの位置情報を連邦がモニタリングし続け、新兵器を使って先手を取ったのだ。

 敗北はあり得ない。


 だから、初弾を回避されたのにアルフレッドは余裕綽々なのだ。

 いや、新兵器が当たらなかったというアクシデントに対し、冷静沈着に対応した自分。

 これには上層部も新兵器の性能ではなく、それを完璧にコントロールした自身を認めざる負えない筈だ。と考えてすらいる。


「なぶり殺しにするだけだ。あの男のようにな。

 精々足掻くがいい、蠅どもめ――ん?」


 <WARN NUKE STBY

  WARNING MISSILE UNDER CONTROL >


 とても奇妙なことが起きた、何もしてないのに、核攻撃警告音が流れている。

 更に奇妙なことが起きた、なんと勝手にミサイルが発射されたのだ。


(なんだ?何が起きている?

 AWACS空中管制機からのデータリンク射撃でもできるのか?


  いや、聞いてないぞ)


 首をひねりながらも、マニュアルを開こうとするアルフレッド。

 と、ほぼ同時にレーダー警報が鳴った。


「ええい、クソ。

 来たのか、うっとうしい蠅共が……」


 ミサイルのことを懸念するか、敵機の対処が先か。

 とにかく、事態の把握の為にマニュアルから顔を上げたアルフレッド。

 突然、彼の眼前の空は強烈な閃光を放った。



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