第28話 二度とは奪わせない
「巡航ミサイルだと……?
まさか、ガルム基地に撃ったのか?」
「……違う、おかしい。ただの巡航ミサイルではない。
進路を変えた、間違いない。誘導している、此方を狙って居る!」
「ただの対空ミサイルではないのか?」
「いや、逆算すると、射程300kmは超える。
それに空対空ミサイルなら小さすぎて、レーダーには映らない筈。
……これはなんだ、飛翔体から異様な数の電波が出ている!
誘導信号か?」
巡航ミサイルが追ってきているという報告にどよめきが上がる。
当然だ。
ALCM……巡航ミサイルは普通は地上、若しくは大型船舶を狙うもの。
主翼と補助翼、水平尾翼までついたそのミサイルは、GPSなどを使い目標座標を入力したうえで、レーダー網を避けるなどの通常のミサイルとは違う戦術をとることが出来る。
しかし、通常、目標を追尾する機能は付いていない。
長射程過ぎて移動目標に狙いをつける方法が無いからだ。
「……とはいっても、所詮巡航ミサイルです。
2000ポンドが関の山でしょう」
若手パイロットが周囲をなだめるようにそう解説する。
実際、彼が言う通りだ。
通常の弾頭ならばそうだ、映画ではいとも簡単に全てを塵と変えてしまうが……あれは只の演出だ。
例え、それがこの広い大空で爆発しても、当然直撃した機体とそれに密集している機体に対して、致命的なダメージを与えられるだろうが、全て一切合切地に堕とすということは出来ないのである。
だが……。
「いや、不味い。
全機、高度を落とせ、山肌の中に隠れろ」
「そこまでしなくてもいいだろう。
燃料だってそうあるわけでは無い、奴らと交戦せずともこのままの高度で……」
「核だ。核弾頭だ」
ジャックの言葉を短く、けれども強く遮る形で、シュワルツはそう断言した。
断言したが、確証は無い。
ただ、連邦空軍時代の部下たちの雑談であったのだ。
連邦は対空核ミサイルを開発していて、秘密裏に実戦試験をしていると。
当時はSFじみた話だ。祖国がそんなことをするわけが無いと、鼻で笑った。
が、皮肉なことに今ならその噂を信じられる。
「まさか、そんな兵器あり得ない――!」
「うちの隊長にそんな口が利ける奴は何処にもいないと思うぞ?
……言う通りにしようじゃないか、一度高度を下げたぐらいならまだ余裕を持って帰れるさ」
ジャックは過ぎに掌を返した。とはいえ、空は議論の場ではない。
最善ではなくとも、最悪の事態を避ける為に迅速な判断が求められるのだ。
殆ど真っ逆さまに山肌まで降下する。
上は雪空だ。
「念の為、ヘルメットのバイザーを下げろ。
あと、爆発を直視するな」
「巡航ミサイル、更に近づく!
……来るぞ、弾着、今――!」
AWACSの無線が途中でプツリと切られたようにも聞こえた。
一拍おいて、直視しなかったにもかかわらず、視界が白く覆われた。
そして、機体が大きく揺さぶられた。
「ちっ……間違いない、核だ!
スワロー2、3、状況を……状況を……クソ!」
無線が通じない。
が、視界の違和感が消えると、確かに横で二人は飛んでいた。
彼らは飛んでいる、身体を傷つけたわけでもなさそうだ。
だとしたら、何故、無線が通じないのか。
珍しくシュワルツは少し錯乱している。他の人間はもっとだ。
それを嘲笑うかのように、空にはきのこ雲が咲いていた。
そして、 機内の一部のパネルの電源が勝手に切れているということにシュワルツは気が付いた。
(まさか、電磁パルスか……!)
核兵器はただ単純に威力の大きな爆弾という訳ではない。
起爆時に発生する電磁波は、電子機器を強制停止させてしまうのだ。
連邦は単に敵を撃破するのではなく、いやそれ以上にその錯乱効果の対空制圧効果に目を付けた。
運の悪いことにシュワルツの兵装パネルは、もろに影響を喰らい、全てのミサイルが発射不可能となった。
これでは戦闘機とは言えない。
ただし、完全に運がなかったわけでは無かった。
「……聞こえるものはいるか!?
こちらウインドメイカ―、今のは間違いなく空対空核攻撃だ!
被害状況を確認――ちっ、二射目だ!」
「スワロー2より1、聞こえるか!生きてるな?
……俺はレーダーが死んじまったが、多分向こうはこっちが低空に逃げたことを察知している筈だ。
どうやって誘導しているんだ、畜生共!」
「……私の機体に誘導装置を埋め込んだんだ。
今朝、連邦の士官たちが私の戦闘機周りを囲んで、何か細工をしていた。
恐らく、こうすれば……私が囮となれば……!」
クレイン隊の隊長は自分が犠牲となることを選ぼうとした。だが、それは速攻でシュワルツによって却下された。
「
「このままでは全滅だぞ!?」
「……わかってる!」
誰かが死ねば、大勢が助かる。ましてや、犠牲となることを志願する人間がいるのなら、そうすべきだ。
しかし、シュワルツは連邦の思い通りには二度となりたくはなかった。
だが、現実問題、ミサイルが使えないというのなら、迎撃も出来ない。
と、画面を切り替えていると、あるページに辿り着いた。
そこには周囲の気候、機体の状況、それに電波状況など様々なことが事細かに映し出されていた。
様々な数列……とくに電波状況などはすさまじい数列で、シュワルツには最早理解不能だ。
通常のラファールには無い機能、フィオナがプログラミングをする為に作成したリアルタイムデータ管理ページだった。
恐らく、彼女なら理解できるはず。
そこにシュワルツは一つの可能性を見つけた。
更に表示切替のボタンを連打する。
ようやく残された攻撃の手段を見つけた――
あとはこれを繋ぐ必要がある。
「スワロー1より、ウインドメーカー。
今からデータを転送する。
それを、ガルム基地のフィオナという研究員の所へ送ってくれ、急げ」
「これは……?
一体これをどうするつもりだ?」
「解説の暇はない、彼女の元へと繋ぐんだ。
俺が説明する」
◇
「俺以外のスワロー隊は東方向へ、アルガス隊は基地方面へ、クレインは山脈を縫うように散開しろ。
連邦にチリジリになって敗走したと見せかけるんだ」
「敗走したと見せかけるって……逃げるんじゃないのか?」
「反撃する。
あんな兵器を空に持ち込まれて堪るか、此処で狩らせてもらう。
時間がない、俺が奴を……いや、全員の力が必要だ。
上手くやってくれ」
「わかった、行くぞ、エリシア!」
「……ああ、行こう!」
ガルム基地との無線が繋がるのを待ちながらも、シュワルツは矢継ぎ早に指示を出す。
早く繋がってくれと、やや焦りを感じながら。
一人ではどうしようもないのだ、誰かの、皆の力が必要なのだ。
「……聞こえる?
こちら、フィオナ。
データは受け取ったけど、これは一体、それに、今何が起きてるの――?」
「詳しくは説明できない。
その電波ノイズの中から連邦の新型核兵器の誘導信号と、起爆信号を読み取ってくれ。
そして、それを俺に転送してくれ」
「核……?
ちょっと待って、何をする気……?」
「あいつらに……連邦に二度と空を奪わせやしない。
今度は俺が奪う番だ。
……奴らのミサイルのコントロールを奪う」
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