第20話 見上げる者
アルタイル連邦陸軍、防空監視部隊。
「班長、今レーダーに機影が……あっ、消えた。
でも、今確かに30機程! ハースの凄く近い位置に!」
「待てよデイブ。よく考えろ、パルクフェルメの連中にそこまで残ってない。
鳥とか、雲とかの残像を拾ったんだ。良くあることだ。
それに……いいか、絶対に上に上げるんじゃねぇぞ」
「は?
何故です、もしもこの機影が本当だったら……ハースの方の連中が大変です!」
「そのもしもが大変なんだよ。
先に発見して、報告してみろ。お前らの報告が遅かったって難癖付けられるかもしれん。
俺は昇進したいんだ、司令部みたいに島流しにされてたくは無い。
どうせ、空軍のレーダーが見つけてくれるだろう」
「しかし……」
「しかしもくそもなぁい!
いいからコーラ取って来い!」
◇
「作戦概要を説明する。
これよりハース市奪還を開始、尚ハース市の事は今後市街地と呼称する。
情報部の調査によると、以前までは此処には強固な敵防空部隊が配備されていた。
しかし、例の指揮部配置換えにより、飛行隊の異動も開始された。
要するに飛行隊の数も少なくなっているし、共に飛ぶ相手が初対面ということもありうる。
その隙を突く。
我々の戦力は、航空、陸上共に明らかに不足している。
だが、パルクフェルメ軍は故郷の奪還作戦だ、一騎当千で行ける筈だ。
無論、我々王国空軍も連邦如きに劣っていないと確信している。
……状況を開始」
山岳地帯を這うように飛んでいると、例の市街地が見えて来た。
パルクフェルメだけではなく、ハイルランドからも感嘆の声が上がる。
此処は昔は鉱山の街として栄えていたらしく、山沿いに建てられている。しかし、その周りは森林のみ。
先進国連邦、延々と建物が続く首都の空を飛んでいたシュワルツにとって、これは奇妙に思えた。
シュワルツは此処の人間ではないのであまり感傷にはとらわれず、黙々と武装を確認する。マルチロールファイターらしく、
一度無意味なロールをし、スロットルに力を入れようとした時―― 一瞬、ある考えが浮かんだ。
(この前は教導、今日は市街地奪還……。
間違ってない筈だ。順調に行けば、連邦本土攻撃まで行く筈。
間違ったアプローチじゃない筈だ)
首を振りかぶる、そして、空を見上げれば、彼は悩める青年から戦闘機パイロットにフォーカスできる。
「さてと、行くか。
……おい、ハイルランドの戦友共、適当でいい。自己紹介をしろ」
「はっ、アルバス隊、グリコであります、サー!
可能な限り援護します!」
「おいおい、大丈夫なのか……何ともへんてこな名前だな。
我が隊へようこそ、いいかひよっこ共。
いいか、ヤバくなっても、うちの隊長に着いて行くなよ」
「な、何故です?」
「逆に聞くけど、あれに着いて行けるか?」
「あっ……」
編隊の中、一機のみ突出している彼のラファールは、機体を鋭く左右に振っていた。赤翼の戦闘機はそれだけの動作で見るものを圧倒するだけの威圧感を持っていた。
「まぁいい。行くぞ、奪還ペイバックタイムだ!」
後続を振り払うかのように、加速するシュワルツの後を追い、次々と戦闘機達が山岳地帯を抜けていった。
もう既にシュワルツには、先程の迷いは無かった。
レーダーが回っていない高射砲部隊を見つけると、一気に急降下する。
正面のHUDに攻撃マーカーが点滅、そして
コックピットの中ではボンと間抜けな音にしか聞こえないが、確かにミサイルが発射された。
<……ん?
不味い、不味い、不味い! 逃げろ!
指揮所に連絡、敵襲だ!>
<今の音はなんだ、事故か?
誰か見てきてくれ>
<敵襲だよ、分からないのか!?>
<は……?
今日は演習は無いぞ、何を言っているんだ?>
<訓練の話では……! まずい引火する! 逃げろ!>
<陸軍のレーダー中隊がエアカバーしてるんじゃないのか!?>
機体をゆっくりと立て直し、空へと向かう。
ミサイルサイトはレーダー車両が無いと真価を発揮できない。
「こちらウィンドメイカー、スワロー隊の一番機が敵レーダーを先制破壊。
……あの噂は本物か。
単機ですさまじい制圧能力だ。
ハイルランド軍機は通常爆弾を積んでいる、残りの処理なら任せてくれ。
全機、市街地、及び建物への攻撃は避けろ。連邦人共の戦車を狙え」
「スワロー1、了解、アルガス隊は残りのミサイル発射器を爆撃。
スワロー隊全機へ。
空港をやる。
離陸前に仕留めるぞ」
「りょ、了解! やってみせる!」
稼働し始めた近接対空砲を避ける為、スワロー隊は雲の上まで登り、空港の方角へと向かう。
奇襲で敵はよろめいている、上手く行けば、多くの戦闘機を地上で無力化できるかもしれない。
そうなれば、かなり勝利が近いものとなる。
想定される戦果を……滑走路の真ん中で黒焦げになる敵機をイメージしたシュワルツは苦いものを感じた。
「念の為言っておくが、二人とも。
これは戦争だ。
飛ぶ前に堕とされても文句は言えねぇよ」
「……わかってる」
(そうだ、俺は飛ぶ前に翼を切り落とされた。
二度と誰にも……。死ぬなら空で、だ)
◇
ラファールの轟音が雲を突き抜け、下まで届いた。
丁度その真下だった。一台のジープが居た。
それには怯え切っている大柄な男と、静かに空を見上げ、タバコに火をつける一人の初老の男がいた。
「グ、グランニッヒ少将殿! これでは視察どころではありません!
これは訓練ではありません! 実戦です! ミサイルが降ってくる、もうおしまいだ! 」
「見ればわかる、騒ぎ過ぎだ。 ミサイルのシャワー如きで慌てふためくな、情けない。
視察には丁度いい、こういう時に人間の本性が出る。
連邦空軍が拠点にしている空港に向かえ、前線を見てみるとしよう」
「ク、クソ! なんて現場主義な少将なんだ!」
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