第19話 反攻作戦

 作戦は1日後。

 無線傍受云々を抜きにしても、つい最近までいがみ合っていた国同士だ。合同練習などしたことが無い。

 迅速かつ綿密な作戦等出来やしないのだ。


 しかし、やらなければいけない。

 作戦目標は、パルクフェルメの外れの小さな都市"ハース市"の奪還。

 地方都市という奴だ。中規模な街、小規模な民間空港、陸軍の駐屯地。首都奪還だとか、主要港奪還という訳ではないが、取り戻す価値のある場所だ。


 前線が伸び切り、右往左往している連邦が、捕虜収容施設を作るだけの手間を掛けるとは思えない。恐らくパルクフェルメの兵士達は屈辱的にも自身の基地の中で捕虜として捕えられているのだろう。


 それに加えて、シュワルツが最初の出撃の原因となった、爆撃部隊もこの基地から発進した。

 戦略的に見れば、これが取れればかなり大きい。


 先日の作戦成功により基地周辺の制空権は確保されている。友軍には会えなかったが、協力してくれる勢力が出来た。

 そして、指揮系統が未だ回復しない連邦。

 今しかないのだ。


 基地の外では、僅かな陸軍の兵士が基地守備隊に敵地占領のノウハウをレクチャーしている。

 戦闘機も数機の基地防空部隊を残して、全て出撃する予定だ。

 文字通り総力戦。


 そんな中、シュワルツは多大な戦果を上げた為に一時的な休暇を取らされていた……とは言っても、此処は雪山にぽつんと立った空軍基地、本当に何も無いのだ。


 だから、彼は今日もラファールの元へと。

 と、格納庫の隅に置いてある作業台に目が行った。

 そこには書きかけの図面が置いてあった。


 (……なんだこれは?

 燃料タンク、ガンポッドか、それとも偵察用のカメラポッド?)


 円形の、書きかけの何かが描かれていた。

 シュワルツは設計士でも、メカニックでもないので何の部品かは分からなかった。

 フィオナとは完全に役割が違う為、どうしてもすれ違いがちになっているので、最近はノートを交換日記のようにして、やり取りする事が多くなっている。


 が、シュワルツはそのうち分かるだろうと、特に気にも留めなかった。



 ◇


 翌日、時が来た。

 パイロットたちが威勢のいい言葉を無線で残しながら、戦闘機達が次々と離陸していく、スワロー隊の面々もそれに続こうと、滑走路に進入する。


「スワロー隊、離陸準備を」


「その声はフィオナか。

 丁度良かった、格納庫の図面を見た。あれはなんだ?」


「えっ、あれ見ちゃったの……?

 まだ隠しておくつもりだったのに、えっと……」


「隠しておくつもりだった? そこまで機密性の高いものなのか、あれが?

 ドックファイトで使う兵装なのか。ミサイルか、ガンか?

 その程度の事は教えておいてくれないか、今回の出撃でイメージトレーニングをしておきたい」


「いや、あれはただの……いずれ、貴方が、もう一度――」


「へっ、おいおい、知らねぇのか、若造。 

 出撃前にそんな甘々なことやってると堕とされるんだぜ」


「……ああ、出撃前だったか。

 スワロー1、離陸する」


「えっ、あっ……」


 あれのことを言っておきたかったフィオナ、ちょっとからかってやろうと思ったジャック、そして空の事しか考えていないシュワルツ……三人の思惑が変にもつれ合い、シュワルツはABアフターバーナー全開で飛んで行ってしまった。


「……次、ジャック大尉、離陸してください。次がつっかえていますので、早く」


「なぁ……エリシア。俺、余計なことをしたと思うか?」


「ああ、余計なことしかしてなかったな」


 ◇


 レーダー網をかいくぐる為、山岳地帯を縫うようにしてパルクフェルメ空軍は移動する。

 レーダーは遮蔽物の向こうの敵機は捉えられない、だから、連邦軍は哨戒機を飛ばし地表データを集め、効率の良いレーダー配置を模索していたのだ。

 空気の乱れが酷い、とはいえ、今飛んでいる面々は生き残って来た人間だ。シュワルツ、ジャックはもちろんの事、訓練の成果があったのかエリシアも堂々と飛んでいる。



「やっと、飛行隊らしくなってきたな。

 ランデブーポイントに接近……友人たちが来る手筈だ、下手な真似はするなよ」


 山々の隙間から、青白いカラーを基調とした戦闘機群がやって来た。茶色の三角マーク、ハイルランド王国軍だ。

 バラバラで寄せ集めなパルクフェルメと違い、彼らはドラケンとビゲン等旧式ながらもある程度は空軍の体を為しているようだ。その中の一機にジャックは声を上げる。


「おお……ありゃ、空中管制機AWACSホークアイか」


「その通りだ。

 我々がハイルランド空軍、第2飛行隊だ。

 私は、王国空軍作戦本部のマッケンジー少佐。コールサインはウィンドメイカー。


 両陣営とも、私の指示下に入るように」


 有無を言わせぬ口調で、淡々と語るのは20代後半の女性オぺレーターだった 作戦本部の人員が前線まで来ている。

 それから推測されるのは、王国軍も人がいないということだ。


「なんだ、なんだ、いきなり現れたと思えば、偉そうに……いや、実際偉いのか。

 声は結構好みなんだが。3年前に付き合ってた女と似た声だ。聞きたいか、あれはだな……」


「私語は慎め、貴隊らの名は?」


「うわ、流石はAWACS、丸聞こえかよ。


 スワロー隊であります、少佐殿。

 勝手に喋ってますが、自分は隊長ではありません。

 

 あ、もしかして、マッケンジー少佐殿も俺の話に興味あります?

 いいでしょう、あれは今から……」


「私語は慎め。


 二番機の馬鹿男はともかく……成程、諸君らが、か。

 噂は聞いている、本当かどうかは分からんが、一飛行隊回す、好きに使え」


 ラファールの横にドラケンが。翼を振っているのがシュワルツの目に入った。


(こちらを先鋭部隊だと認識して、先に援護を出したか。いい判断だ)




「編隊を編成を確認した。


 ……成程、渡り鳥か。

 これより、ハース市奪還作戦を開始する」




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