第21話 邂逅

<スノウ隊、離陸せよ! ……ま、待て、敵機接近!

 離陸、ち、中断! い、いや!>


<どっちだ、どうすればいいんだ!? 離陸すればいいのか!?>




 シュワルツは滑走路までたどり着いた敵機を、機銃掃射でなぎ倒した。

 続く二人も一機ずつ破壊する事に成功したようだ。

 その瓦礫と化した戦闘機達が滑走路を塞いだ。

 上手く行った、滑走路を無力化できた。


「よし、これで勝ったも同然だ! 増援が無ければな。

 これは対空スコアにいれていいのか、対地スコアなのか、なぁ?」


「知らん。

 ちっ、何機かが離陸に成功したようだ、速度が上がる前にけりをつける」


 と、対地攻撃を終え、対空戦闘に向けて離脱を開始したシュワルツの視界の隅にあるものが映った。

 それは空港内の残骸を避けながら、器用に駆け回る茶色いジープだった。


(……なんだ、この違和感は?)


 何か胸騒ぎを感じながらも、シュワルツは空港の格納庫にドリフトしながら突っ込んでいくジープを見送るほかなかった。


 ◇


 途中で、完全に怖気づいてしまった案内の兵に代わりジープを駆っていたグランニッヒは格納庫へとたどり着いた。

 しかし、突然の侵入者に誰も気にも留めることは無かった。

 連邦訛りの大声が犇めき合い、格納庫の中は大混乱だった。

 だが、それは反撃の算段を建てているのでは無く、増してや兵士達に撤退を指示する声でもなかった。


 指揮官らしき男は、縄で束縛された男女たちに銃を向けていた。

 と、司令官の前に若い青年将兵が立ちはだかった。


「副基地司令殿、おやめください!」


「何が悪い、勝つための戦略だ!

 連邦の勝利を妨害する気か、貴様!」


「私は連邦の軍人です!

 だからこそ、この作戦には断固として反論させて頂きます!


 捕虜……ましてや敵国とはいえ民間人を滑走路に並べて盾にするなど!」



「何が悪い、これは優れた戦術だ。

 死を恐れるパルクフェルメの臆病な豚共が! 自国民すら殺せないのが悪い!

 我ら連邦人ならば、喜んでお国の為に命を投げ出すだろう!


 少尉! 連邦の名誉を傷つけた罪は大きいぞ!

 憲兵小隊、前へ!」


 惑いながらも、上官の指示に従い前へと歩み出る憲兵隊。

 捕虜たちの絶望の声、新米少尉の決死の表情……それを背後から見ながら、グランニッヒは静かに口を開いた。


「その通りだ。

 連邦の名誉を汚すとは何事だ、極刑に値する」


「ん……? 誰の声だが知らんが、良いことを言う。

 そうだ、極刑に――」


 パンと乾いた銃声が一発。副基地司令は前のめりに倒れ込んだ。


「捕虜等の人道的な待遇の確保、捕虜等の生命、身体健康及び名誉に対する侵害又は危難から常に保護すること。


 副基地司令、貴様如きの独断で人を処刑していいと何処に書かれている?

 ましてや、敵襲時に味方に銃を向けるなどとは――利敵行為に他ならん」


 突然の事態に、警備兵は背後のグランニッヒに銃を向けるが、彼は怯えることなく煙草に火をつけた。


「き、貴様! 止まれ、撃つぞ! ……待て、あの腕章は?」


「私は本土西部方面隊のグランニッヒ・ハルトマン少将だ。

 此処には視察に訪れた。憲兵諸君、私を軍法会議にかけるのは後にしてもらいたい」


「グランニッヒ……連邦のトップエースが何故!?」


 例の新米将兵が声を上げた。

 どうやらパイロットのようだ。


「君でいい、状況を教えてくれないか。

 迎撃機は? 損害は? 残存兵力は?」


「げ、迎撃機は多くが地上で破壊されました、滑走路も大部分が使えない状況。

 損害多数、原因不明ですが、奇襲をまんまと浴びてしまったようです。

 残存部隊は陸空ともにこの基地周辺へと集めています。

 とても増援が無ければ持ちこたえられません。ですが、増援は来ません……!」


「何……?

 増援要請は出したのか、そもそも他の指揮部の要員は?」


「ふ、副司令殿が要らぬ、自分で対処できると。

 基地司令殿と将校たちは、奇襲を受けるとすぐにヘリに乗って……」


「軟弱者どもが……。


 兵達に応戦しながら、この基地まで後退するように指示。

 捕虜は放っておけ、構ってられる場合ではない。

 白旗は……流石に不味いか。

 使える輸送機を集めろ、あれなら不整地でも平らなら離陸できる。


 直ちに撤退するぞ」


「中央指揮本部に連絡は!?」


「私が後でする。反省文なら何枚でも書いてやる。

 急げ、時間がない。動け、動かんか」


 てきぱきと指示を出す謎の少将に対し、憲兵達は銃を降ろす。

 逃げた司令部よりも、死んでしまった傲慢な無能副指令よりも、目の前の男の方が、この爆音乱れる地獄の中では頼りになりそうだったからだ。


「ですが、護衛機が居ません。

 外は酷い有様で、とても生存機を確認しに行けません。

 この格納庫にはあるものは、私を含めて、殆どのパイロットが使いこなせないような旧式機のみで……!」


「ほう……ロートルにはロートル機か。

 輸送機とそのパイロットの手配を、


 護衛機のパイロットは……私だ」


 ◇


「ポイントAを進攻中! 敵はすでに撤退済み!」


「ルーカス銅像前、敵影無し! 空港への接近を続ける!」


「勝てる、勝てるぞ!

 あの赤翼がいれば、俺達はもう二度と負けない!」


 無線機からは歓喜の声が上がる。

 両国軍の侵攻作戦は素晴らしく順調だった。

 偏にとはいかないが、即座にミサイルレーダーを無効化し、滑走路を無効化したスワロー隊の働きは素晴らしい。


 とはいえ、やはり精鋭揃いの連邦の戦闘機は良く避ける。

 それらを追いかけまわし、あらかた墜としていると、AWACSから無線が入った。


「待て、滑走路からの離陸を確認!

 これは輸送機か……?」


「ちっ、不整地離陸が出来る奴がいたか」


「いや、これは……一機上がってくる!

 機種は……フィッシュベッド!」


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