第14話 アンノウン

「間違いない、これは味方からの通信だ!」


 ガルム基地に更なる幸運が舞い降りた。

 連邦軍の活動範囲が一気に狭まったこの好機の中、今まで一切入ることのなかった味方からの通信が入った。


「座標は、エルスタイン山脈の近く……確かその辺に観光のグライダー空港があったな。

 そうか、そんなところに居たのか!」


「早速、合流しよう! 

 味方が増えるとなれば、これ以上のことはない!」


 圧倒的窮地からの奇跡の迎撃成功、お次は敵基地強襲を見事に成功させ、更に味方と合流することができそうなのだ。

 有頂天若しくは、調子に乗りすぎていた。

 全員一致で合流作戦に同意すると、送られてきた時間に合わせ飛ぶ為、早速準備に取り掛かるのであった。


 そんな中、あくまで自分を部外者だと思っているシュワルツはこの幸運にどこか違和感を持った。


 こんなにラッキーが続いていいものだろうか、と。


 ◇


 日暮れの雪山の上空、彼らは編隊を組みその上空を飛んでいた。

 シュワルツはラファールの挙動を確かめるように、左右に機体を振る、満足できる仕上がりのようだ。

 そのほかのアップデートもなされ、ラファールは名実通りパルクフェルメ空軍の新型機としての能力を手に入れた。

 新しく機能が付与されたディスプレイに映し出された、戦力図を見て、シュワルツは首を傾げた。

 自勢力が青、敵勢力が赤、だとすればこの黄色はなんだ。


「ああ、言うのを忘れていた。

 黄色は第三勢力、ここら辺は国境が近いからな。

 ハイルランド王国、味方じゃないから無闇に近づくなよ」


「ハイルランド……確か連邦の進攻を受けている国だと記憶している。

 同じ敵アルタイルと戦っているのに、何故味方じゃないんだ?」


「昔からの領土問題だよ、敵の敵だが味方ではない。

 連邦に攻め込まれた際、共同戦線を張ろうって話になったらしいが……。

 何故だか、ハイルランドの連中は俺達を攻撃してきた。


 こっちが問いただしても、お前達が先にやっただの、言いがかりをつけてきやがるんだ」


 連邦の進攻を、領土問題解決のためのチャンスと思い、血迷ったのだろうかとシュワルツは考えた。

 絶対的な信頼関係なんてないということは彼は痛いほど知っていた。


「まぁ、いいさ。連中も俺達に構っている余裕はない。


 座標地点でいうと……もう少し行った先か。

 久しぶりのお仲間だ、エリシアちゃん、おめかしはしてきたか?」


「あ、ああ……」


「ただの冗談さ――ああ?

 マジでおめかししてきたのかよ?

 ……おい、マジでどうしたエリシア?」


「いや、何でもない。 

 妙に嫌な予感が……寒気がするだけだ、空調トラブルだろうか?

 大丈夫だ、何も問題ない」


「虫のしらせって奴か……やめてくれよ」


 一瞬、編隊間に居心地の悪い空気が流れ――すぐにそれは現実となる。

 レーダー上に映し出された識別信号は、第三軍のものだと記していた。


 そして、見えて来た戦闘機の主翼には見慣れぬシンボルが描かれていた。


「畜生、嵌められた!

 ハイルランドのドラケンだ!」




 ◇




 3個飛行分隊同士の戦闘機群が擦れ違う。


 ドラケン……特徴的な外見を持つ戦闘機、熱狂的なファンも多いそれはパルクフェルメ軍機を目視すると、一気に迫ってくる


 味方との合流を果たすはずだったのに、果たしたのは会敵だった。


「何故だ、確かにパルクフェルメの秘匿通信だった!」


「俺達の通信をパクったんだ、通信基地を襲撃してな!

 ハイルランド人共、何故俺達をつけ狙うんだ!?」


 口々に、罵声を口に出す友軍機達。味方に会えると思ったら敵……しかもこんな時に戦っている場合ではない相手だ。普段は冷静なジャックでさえも、無言になって敵機を追いかけている。


 鳴りやまぬミサイルアラート。


 が、シュワルツのラファールはそれを寄せ付けない。

 連邦のパイロット達と比べれば、彼らの練度が一段と低いということもある。


 彼の右足のことを考慮し、その上で彼の飛び方をフルに発揮できる調整がなされた為だ。

 と、その時、シュワルツの視界にエリシアの青い戦闘機ミラージュが目に入った、敵機に追われているようだ。

 あと少しで射程に入るような、そんな間一髪なところを割って入り、なんとか彼女の危機を救う。


「っ……ふぅ……た、助かった、ありが――」


「幾らGが掛かろうと口は動かせる筈だ、腕のことは目をつむるが、状況報告は義務だ」


「……ご、ごめんなさい」


 普段の怯えた声から、更に子猫のようなか細い声で返事をする彼女、シュワルツは若干の居心地の悪さを覚えつつも、敵機を追撃しようとする。


 その時、彼は違和感を覚えた。

 ミサイルアラートは先程から鳴っている、ミサイルが引く白い尾も確かに空に引かれている。

 だが、ドラケンがミサイルを発射した様子はない。




 目を凝らし、やや暗い空の中に、その正体を見つけた瞬間、シュワルツは叫んだ。




「全機、交戦を止めろ!」


「……は!? 何言ってやがる!?」


「誰かがこの空にいる。

 俺たち以外の誰かが……」




 ◇




<ユダ1より2、状況を>




<二勢力共に交戦を中止したようです、我々の存在が気付かれたのかと>




<了解した。


 ……全機、あのラファールに注意しろ。


 あの鋭い機動……連邦空軍出身の人間かもしれん。


 裏切り者か、犬になり下がった畜生が>




 そう、噂だ。


 連邦軍には強力な電波妨害能力とレーダーに映りづらいステルス性能を保有した戦闘機――ライトニングⅡで構成される特殊部隊がいると。





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