第12話 渡り鳥隊

 右に、左へ・・・・・。サンダーボルトは最初の懸念を振り払うように、自由自在で軽快な小鳥を思わせるような機動を見せる。

 ただし、間違ってでも小鳥ではない。小鳥は30mm機関砲を咥えて飛んでなどいない。

 シュワルツがトリガーに手を掛けるたびに、眼下の標的は消し飛んでいくか、スクラップになる。もうこうなってしまえば、サンダーボルトはシュワルツの手足だ。

 殆どの対空砲が乗員が配置に着く前に黒焦げにされてしまった。

 その戦果に勇気づけられたパルクフェルメの友軍機達が爆弾を落としていく。


「命中! 命中! 爆撃が命中した!」

「連邦相手に有利に戦える日が来るなんて!」

「いやほぉぉ! やっちまえ!」


「凄い飛び方だ……信じられない。

 傭兵、いや、隊長は一体どんな空を飛んできたんだ……?」


 声を震わせながらも、どこか歓喜しているエリシアの問いに、まさか正直に答えるわけにもいかないので黙秘を貫いた。

 彼は戦闘機乗りはやるが、誰かの師匠だとか、指揮官だとかになる気は一切ないのだ。

 幸い、この隊は結構バランスが取れているようだ。


「空は何処まで行っても一つの空だろ、エリシアちゃん。

 大好評じゃないか、次は爆撃機にでも乗るか?


 ヘリボーン部隊、状況はどうだ?」


 物資はある程度ヘリに乗せ込んだようだったが、一部の部隊から違った反応が返ってきた。


「……待ってくれ! 人を確認した!」


「人……? そりゃあ敵陣地だから兵隊がいるに決まってんだろ」


「違う! 民間人だ! 連邦に捕虜にされた民間人が居るんだ!

 彼らを救出したい、航空支援を要請する!」


「何、民間人がいるのか? 

 だが……悪い、航空支援はできない。当初の予定は果たした。撤退の準備をしてくれ」


「何故だ!? 助けを待っている人が100m先に居るんだ!」


  ジャックの無慈悲な返答に、陸の兵が声を荒げる。

 しかし、シュワルツには彼が断わった理由が分かった。


 まず、一つは連邦の兵が空爆を警戒し、頑丈な岩陰の隙間に隠れていること。

 基本的に、斜めからのアプローチで攻撃する戦闘機に対する有効的な防衛術だ。

 陣地破壊用に持ってきた1000ポンド爆弾を使えば殲滅できるだろう。民間人諸共の話だが。


 そして、もう一つはレーダーに映し出されている機影。

 味方のものではない。敵のものだ。

 迎撃機が上がってきたのだ。


 だから、ジャックの言う通りにするのが最善手だ。


 しかし、シュワルツは動いた。


 ロケットのように急上昇……とはいかないが、最も効率的で無駄のない上昇で潜伏する連邦兵の真上に機体を上げると、そのまま速度を落とした。

 上を向きながら失速したサンダーボルトは、重力に導かれコックピットの方からストンと地面を向く。

 そうなれば、敵兵の真上という寸法だ。


 上を指さし、何かを叫んでいる兵に30mmのシャワーをお見舞いした。


 そして、地面に背面を擦りそうになりながらも、危なげ無く再上昇をやってのけた。



「……聞いてなかったのか、命令違反だぞ。

 ああ、そうか。今日はお前が隊長だったな。


 もういい、結果オーライ。お前の勝利だ。

 地上部隊、やるならさっさとやってくれ」


「了解した! ……あんなパイロットいるのか!

 勝てるかもしれないぞ、俺達!」


「さぁ、もう大丈夫だ! 安心して、あの戦闘機がどんな敵も倒してくれるぞ!」



 盛り上がる下の人々とは対照的に、シュワルツの眼は冷血を極めていた。

 連邦から逃げるなんて癪だ。このサンダーボルトで迫ってくる連邦の迎撃機を撃墜できないか、そんなことを考えていた。

 と、落ち着きなく周囲に目線を飛ばすシュワルツは、ジャックが下を指さしていることに気が付いた。


 その先には陸軍の兵に担ぎ出されている人達が居た。

 彼らはシュワルツの機体を見上げ、手を振っていた。



「彼らは連邦に捕まって、捕虜にされた普通に生活をしていた人たちだ。


 今日俺達は、二つの任務を達成できた。

 敵への攻撃と、護るべきものを護ったわけだ。


 傭兵だとかそういうことは置いておいて、誇れ。

 お前は彼らの英雄だ、そして、俺達パルクフェルメ空軍の英雄でもある。


 決めたよ、お前ならとんでもないことをやってくれるかもしれない。

 俺はお前に着いて行くぜ、隊長」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る