第11話 ツバメ
<journalist report>
――とある兵士の記憶
「なんだ?
この上を戦闘機部隊の連中が通ることってあったか?」
「さぁな、奴らはエリートで、俺達は土木建設屋みたいなもんだ。
知らせられてなくて、当然……こっちに降下してきてないか?」
俺はミサイル発射器の陣地を作る為に、スコップで土を掘っていた。
戦争をしているなんて発想、そんな考えはなかった。
ミサイルが飛んでいく先はいつだってパルクフェルメ人の方だからな、一方的な暴力、ワンサイドゲームだ。
あの時までは。
「んー? ふざけてるんじゃないのか?
手を振ってみようぜ、おーい!」
馬鹿だった。
一機の飛行機がもっとこっちに近づいて来た。
そしてに翼の上のパルクフェルメの国籍マークも見えた。
「……あれは味方じゃない、敵機だっ!」
運が良かった。あの時のダッシュは世界記録を狙えたかもしれない。
隣にいた奴がどうなったかって?
ああ……知らない方がいい。
◇
新しい攻撃機についての最初の感想はシュワルツにとって正直満足できるものでは無かった。
生粋の戦闘機乗りだった彼にとって、この機体は遅すぎる。というのが初飛行での感想だった。
ただ、対地攻撃能力に関しては今までのどれよりかも高い。戦闘をしてみなければ分からない。馴染まなかろうが、馴染もうが、全てのポテンシャルを発揮しなければならない。
全ては復讐の為に。
「なぁ、シュワルツ、この前は観光なんて気分じゃなかっただろうが。
今日はわき見運転をする程度の余裕がある。どうだ、いい景色だろう?」
「……いい景色だな」
シュワルツは大して下の景色を見ることも無く、兵装パネルをいじりながら答えた。
「ああ、そうだろう……いや、それだけかよ。
もっと、こう、コミュニケーション取っていこうぜ。
そういえば、前の部隊ではなんて
「スラッシュだ、特に意味は無い」
「なら、今回はぴったりだな。
スワロー隊、ツバメは渡り鳥でもあるからな。
カッコいいじゃないか、戦場を駆ける渡り鳥。お前のことだ。
なぁ、エリシアちゃんもそう思うだろう?」
「どうだっていいから、少し黙っててくれ! 集中したいんだ!」
尚もしつこく絡み続けるジャック。
だが、シュワルツにはそれが恐らくルーキーであろうエリシアの緊張を取り払う為の行為ということが分かった。
(隊長としての器か、俺にはそれが足りなかったのか……。
いや、信用するな。
この男だって、アルフレッドと同じタチかもしれない。
そうであっても、なくても、信用できるのは、結局は自分の実力だけだ)
頭の中で断言する。
丁度その頃、雪の向こうに基地らしきものが見えて来た。
自分以外不要とばかりに、この前と同じようにスロットルを一気に押し込んだ。
味方編隊を突き放す……が、鈍い。
すぐにジャックのイーグルに横に並ばれてしまう。
「はは、流石にどんなに腕が良くてもサンダーボルトとイーグルの加速度性能差まではひっくり返せねぇよ。
残念ながら、俺のイーグルには対地攻撃兵器は殆ど積めない。
そこでだ、今回に限り、お前の隊長の権限を譲渡したいと思う、光栄に思いたまえ!
……なんか言えよ、この俺を顎でこき使えるチャンスだぞ?」
「この男の意見に賛同するのも気が引けるが……私からも頼む。
もう一度あなたの飛行を見せて欲しい、何か掴めそうな気がするんだ」
敵を目前として、二人から迫られたシュワルツはややあって、了解と答えた。
「よし、決まりだな。
ヘリ部隊もスタンバイしたな。
敵パトロール部隊はいない。だが、呼ばれたら文字通り飛んでくるはずだ。
ヒット&アウェイだ、行くぞ!」
面倒だから引き受けたのか、それとも飛行隊長に未練を持っていたからか。
それは彼本人にしかわからない。
ともかく、彼は一回目の対地攻撃侵入で完璧なアプローチをこなすと、地面から呆然と見上げている兵士達に向かって、容赦なく30mm機関砲の引き金を引いた。
鈍い音と共に、機体がやや減速する。
着弾した後に音が聞こえる……というのは、陸から見た時の話のようだ。
しかし、シュワルツはこの機体のそれを地上で体験したいとは一切思わなかった。
なだらかな雪の大地が抉れ、月の月面のようになっているのがバックミラー越しに見えたからだ。
当然、そこに居た人物たちは……。
とりあえずそのことは考えずに、シュワルツはこの機体に対する評価を改めた。
(遅いのは、低空での安定性の為か。よく考えて作られてる。
……成程、フランカーだろうが、ラプターだろうが、この機体に近接航空支援に勝る航空機はいないということか。
いい機体じゃないか)
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