第10話

「で、どうしたんだよ?

 俺達を集めて何するつもりだよ、ジャック」


 あの闘いから数日後。

 スワロー隊の暫定一番機、ジャックは基地内のパイロットをミーティングルームに集めた。

 この部屋は指揮官が居なくなって、長い間使われず、整備士たちの仮眠室となっていた。

 シュワルツもそこに居た。


「ああ、この前の迎撃は上手くやれたと思う。

 しかしだな、あれは勝利か?」


「なんだ、自分が活躍できないからっていちゃもんつけてんのか」


「違う、違う……。

 そろそろ、勝ち星が欲しくないか、パイロット諸君?」


 野次を抑え、ジャックはプロジェクターを操作した。

 そこにはこの基地を取り囲む、山脈と敵一の情報が載せられていた。

 山のお陰で陸から攻められてはいないとはいえ、見事に孤立無援だ。


 そこの一つの地点にマーキングを入れた。


「お前らのうちの誰かも知っているだろう。

 ここら辺をよくヘリが飛んでる。

 戦闘機基地みたいな固い地盤が必要なでっかいものは作れない筈、精々休憩所兼補給施設的な場所のはずだ。

 そこを叩いて、この補給無き哀れな基地に奴さんの物資の恵みを持ってくるという訳だ」


 正直なところ、この作戦が成功したからと言って反撃に一歩になり得るとは思えない。

 だが、この飄々とした男、ジャックは迎撃に成功した今だからこそ、流れに乗るチャンスだと考えていた。


「ただのパイロットが指揮官ぶりやがって……だが、行けなくはなさそうだ」

「国土の盗人から盗みを働く……面白そうじゃないか」

「しかし、対空砲とかあるかもしれん。

 陸軍の対空戦車部隊とかも……」


 その疑問に答えたのは、壁に背を預けていたシュワルツだった。


「いや、それはない。

 こんな辺境な地までくるとなれば、空軍の長距離ヘリコプター部隊だ。

 連邦空軍と陸軍の対立は最早伝統だ、プライドの高い連中だ、空軍は空軍だけで完結させようとする。 

 だから、たいした移動対空砲はない筈だ」


「詳しいな。

 何故そんなことが分かるんだ? まるで連邦内を見て来たみたいだ」


 その言葉に、同じく集められていたフィオナがびくりと肩を震わす、だが、当の本人は冷静に指摘をかわす。


「傭兵だからな、連邦の出身の人間とも関わりがあるだけだ」


「ほう、そいつは頼もしいね。

 よし、皆、異議は無いな?

 ヘリと戦闘機の半分を出す、残りは番犬だ。

 志願者はこっちに来てくれ」


 誰よりも早く動き出そうとしたシュワルツだったが、フィオナにその裾を引っ張られてしまった。


「ラファールは出せない。

 オーバーGが検出されたから、今全点検中なの。

 残っている機体は、大したものはないわ」




「いい、なんだって良いさ。

 俺は奴らを叩きのめせれば、なんだって良い」


「……空を飛びたいからじゃなかったの?」


「ああ、そんなことも言ってたな。

 だが、それは……今はただの手段に過ぎない」


 シュワルツがそう言うと、フィオナは渋々と言った感じでようやく指を離した。


「私は最初の約束は果たすつもり。

 ラファールは貴方の専用機にする、他の誰も乗れないくらいの貴方専用のセッティングに。

 だから、私の努力を無駄にしないで。

 帰還を最優先で」




「わかった」




 ◇




 出撃メンバーが揃い、シュワルツは基地に余っている機体を見て回っていた。


(成程……確かにこれは骨董品だ。

 一番マシなのは……)


 と、そこへ齢を喰った整備士がやって来た。


「なんだ、お前、もう怪我は大丈夫なのか?

 畜生、困ったもんだぜ。

 俺たちを騙して、無調整の機体を飛ばすなんてよ!」




「すまなかった」


「全く悪びれてないな……まぁ、勝利して帰還した……パイロットとして完璧な仕事をしたからOKにしてやる。


 機体を探しているのか?

 しかし、残っているのは……あっ! アレを忘れてた!

 こっちだ、こっちに来るんだ」


 いきなり興奮し始めたその男に着いて行った先には、独特な形状の戦闘機……いや、攻撃機が居た。


「いっつも迎撃任務だったから、忘れてたけどよ。

 こいつは完璧なチョイスだ、そうは思わんか?」


「この機体は……成程、確かに迎撃任務には無用だな」


「乗りやすいし、膝から血を流しまくってた奴でも負荷が掛かりづらいどっしりとした安定感、そしてなにより……あの30mm機関砲だ!

 サンダーボルトⅡ、またはウォーホッグ、空飛ぶ戦車だ!

 連邦共に鉛弾をばらまくには最適だと思うぜ!」

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