第8話 英雄の凱旋(ゴーアラウンド)
連邦の爆撃機編隊を奇跡的に撃退した後、彼らは帰還した。
英雄の凱旋、だが一番の英雄エースパイロットは二度も着陸失敗を繰り返し、三度目の正直でようやく着陸に成功した。
とはいえ、機体から降りた彼の元には共に戦った者からの歓迎が待っていた。
「ふーっ、まさか、全員生き残るとはな。
よう、地球へようこそ、宇宙人シュワルツ。
緑色のエイリアンが降りてきたらどうしようかと思ってたんだ。
俺がジャックだ。
あれは……あれだよ、イーグルの調子が悪かった。
それにお前の奴より少し古いからな、新しいのに乗ればお前なんてちょちょいのちょいだ」
「言い訳をするな、見苦しいぞ。
……私はエリシア。
その、凄かったよ、貴方の操縦は。
私は二人には及ばないが、全力を出しているつもりだ、いずれは……!
とにかく、一緒に飛べて光栄だ、これからもパルクフェルメの為に共に戦おう!」
戦闘機から降りて来たばかりで、雪山で反射する日光に目が慣れていないのかサングラスをかけたまま、それでもハンサムだと分かるジャックと、その彼が言う通り、小柄ながらも整った容姿、勝気かつどこか健気な性格のエリシア。
それだけでは無い、彼の飛行に勇気づけられた他のパイロットからも称賛の声が相次ぐ。
だが、シュワルツはそれに酔うことはなかった。
(……着陸がトラウマになっているのか、クソ。
迷いがあるのか……? 駄目だ、機体も、俺自身も……これでは駄目だ)
適当に頷き返しつつも、苦虫を潰したような顔をする彼の元へ一直線に歩いて来るものの姿があった。
「シュワルツ、貴方一体何をやって――!
……自分のやったことが分かっているの?」
「フィオナか、無断出撃は謝る。
だが、戦果は上げた、それに機体も無事の筈だ」
「そうじゃなくて、そうじゃなくて――!」
フィオナは手を上げた。
まぁ、無断出撃の罰が頬をぶたれるぐらいなら軽すぎるというものだろうと、目を閉じたシュワルツ。
だが、頬に衝撃を感じることはなかった。
「……膝のところ血が滲んでいる、直ぐに手当てしないと。
ジャック大尉、彼を背負って医務室までお願いします」
「ああ!
……はっ? なんで俺が野郎を背負わないと!?
おい、ちょっと、嬢ちゃん、嬢ちゃん!」
ジャックが不平を叫び、ソフィアは踵を返してすたすたと歩き去る。
残されたシュワルツの耳元で、エルシアが囁いた。
「あまり、彼女とは親しくないんだが……彼女は親も、兄も、友人も亡くしているようなんだ。
彼女の使命とは矛盾しているが、わかってやってくれ、彼女は人が傷つくのが怖いんだ」
亡くした、戦争でだろうか?
だとすれば、いや、そうでなくても――絶対にアルタイル出身と名乗るなという彼女の忠告を思い出した。
俺は彼女自身に、此処にいるすべての人間にとって忌み嫌われる血ではないのか、シュワルツは今更ながら他人事のようにそう考えた。
◇
<journalist report>
ある寒い冬の、たった一つの作戦。
アルタイル連邦の作戦は不発に終わった。
しかし、連邦はこの失敗を大事とは捉えなかった。
たかが一度の攻略失敗、連邦はたかが一度と言えてしまう程に、圧倒的軍事力を以って殆どの作戦を成功裏に収めて来たのだ。
急いでもいない、また適当なタイミングで仕掛ければいいと楽観視していた。
それが彼らの綻びだった。
だが、パルクフェルメ共和国が彼らの綻びに飛び込むことができたとしても、勝てる可能性は皆無だった。
まず、彼らがいるガルム空軍基地には指揮官に当たる高級士官が居ない。
連邦の巧みな攻撃によって、最高司令部からの通信が途絶えて1か月は過ぎようとしていた、最期の命令文は"状況に応じ、臨機応変に交戦せよ"。
増援どころか味方が他にいるかすらわからない、これでは要撃が精々だ。
更に加えて、彼らの兵力は多種多様な戦闘機達……と聞くと、変幻自在な戦術が執れ、強力な部隊のように聞こえるが、実際は整備性もよくないし、連邦戦闘機に対抗できる一部の新型機、旧式のロートル機。
パイロットの腕もジャックを除けば、平均が精々……大して連邦空軍のパイロットたちは軒並み平均以上だった。
勝てる可能性はゼロ、完全に地に堕ちている。
だからこそ、人々は……当時も記者であった私も困惑した。
解放を謳った戦いに勝利し、その名誉の元に大陸を支配するはずだったアルタイル連邦。
その勝利の約束されたはずの戦争、解放戦争の結末が何故ああなったのか。
解放戦争に対抗する戦争、通称"反逆戦争"。
もしも、その不可能を可能に変えてしまう、反逆の翼が居たとするなら、それはきっと。
◇
一方その頃、アルタイル連邦本国では小さな問題が起こっていた。
一つは、例のシミュレーターだ。
以前まで、シュワルツが虚無を味わいながらも飛んでいたモニターの空。
しかし、それは決して無駄に遊ばせているだけでは無かった、次期世代の耐Gスーツ開発の為のデータを採取していたのだ。
彼が居なくなり、代理には向上心がない怠け者のパイロットが選ばれたが……そのデータでは、技術チームは満足できず、テストパイロットを元に戻せという抗議文章が何度も送られたようだ。
もう一人は彼の友人、アルフレッドだ。
シュワルツを陥れて奪った栄えある首都防空飛行隊隊長の地位。
だが、上手くいっていないようだ。
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