第6話 地獄の炎の色

 <journalist report>




 インタビューログ


 ―作戦に参加したアルタイル連邦の戦闘機パイロット。


 コールサイン オメガ1。


 出撃前、俺達はホットミルクを飲みながら、祖国のサッカーの試合結果を予想して賭けをしてた。


 緊張感がない? ああ、そうだろうな。

 だって、あれだけの戦力差だぞ、負けるはずないだろう。

 トラブルだけに気を付けて、操縦も自動操縦に任せて、ただ、面倒だから早く終わんないかなって。


 迎撃部隊が上がってきても、大してビビらなかった。

 どうせ、この数を見たら尻尾撒いて逃げちまうって確信してたんだ。


 だが、たった一機だけ敵に大馬鹿野郎が居た。

 俺達に真正面から突っ込んできたんだ。

 セオリー無視の大馬鹿野郎、だから、俺はその間抜けをキルスコアに入れてやろうとしたんだ。


 ◇


 パルクフェルメ空軍の最後の砦であるガルム基地から飛び立った迎撃機達は、突如現れたたった一機の増援シュワルツを奇妙に思った。


 一機のイーグルと呼ばれる大型の戦闘機が、シュワルツのラファールに接近してきた。


「そいつはラファール……もう飛べるのか?

 まぁ、でも一機飛んできたところでな。

 多分、今日が俺とお前、若しくはどちらかの命日だが、一応自己紹介を。

 俺はジャック、コールサインはスワロー1、最強のイーグルドライバーだぜ、へへっ」



 お気楽な口調で語り、翼を振って挨拶代わりとするジャック。

 と、更に向こうからミラージュという小型機がやって来た。

 恐怖に震えた、しかし必死で強がっているような女の声の無線が入る。


「だ、誰だ、お前は!?


 シュワルツなんてパイロット、聞いたことが無いぞ!

 怪しい奴め!」


「あー、この嬢ちゃんはエリシアって言うんだ。

 美人で、聞いての通り声もいいし、威勢も十分、ただし腕は三流、しかもスゲービビリ。

 でも、嬢ちゃんの言う通りだ。

 怪しい奴、自己紹介をしろ」


 さっきと同じくふざけた口調で、だが何処か警戒していることを感じさせるジャックの声に、シュワルツは思わず舌打ちをする。

 邪魔だ、俺はただただ落としたいだけなのに……そうは思いつつも、後ろから撃たれてはたまらないので、短く自己紹介を行った。


「俺はシュワルツ、先日来たばかりの……傭兵だ。

 俺に構う必要は無い、手助けは無用だ。

 ……今の俺なら空を飛べる」


 そして、シュワルツはコックピットのモニターに目をやる。

 祖国は……敵は近づいてきていた。

 彼はゆっくりと息を吸い、スロットルを押し込んだ。


「おうおう、シュワルツとやら、お前も威勢がよさそうだ。

 だが、他の連中を見ろ、皆へっぴり腰だ。

 傭兵だかなんだか知らんが、命が惜しければ少しでも後ろに――お、おい!」


「あの数の編隊に猪突猛進――何を考えているんだ!?」


 二人の制止の声を無視し、彼のラファールは、敵編隊の中へと突っ込んだ。


<――敵機、飛来! 

 ……なんだたった一機か、たった一機で何が出来る>


 敵兵の嘲るような無線、シュワルツはその声の主のところへ、一気に機体を駆ろうする。

 だが、そう上手くはいかない。

 操縦桿を捻った途端、ラファールは大きく体勢を崩し、敵機を通り過ぎ、そのまま下の山脈へ。


「クソ、馬鹿素人が。

 スワロー1より管制塔、味方機が一機落ち、落ち……いや、何でもなかった。

 ……あいつ、下手なのか、上手いのか?」


 シュワルツの眼前に山脈が大きく映し出され、それが彼の見た最期の光景に……はならなかった。

 なんとか、機体を立て直すことに成功した彼の元に無線が入った。


「シュワルツ、あなた何を考えているの!?

 あなたなら電子制御が入ってない現代戦闘機で空戦するのが、不可能と言うくらいわかる筈!

 今すぐ戻って……そんな機体じゃ堕ちてしまうわ!」


「大丈夫だ、問題ない……ちっ」




<オメガ1、敵機を確認した、二機で仕留める>


 返答しようとした矢先、彼のバックミラーに二機の敵戦闘機フルクラムが映し出された。

 連邦で培った通りの回避行動で、敵を振り切ろうとするが……すこし過激な機動をすると直ぐに機体が暴れ出す。


「お願い、戻って!

 聞いて、あなたにはちゃんとした戦闘機で空に飛んでほしかったの。

 そんなところで死んじゃう人生なんて嫌でしょ……?」


「俺の人生なんて、もう木っ端みじんだ。

 だが、廃人みたいに空を見上げながら、惨めに死にたくない」


 慟哭を吐き、敵の追撃を辛うじて回避していると、突然、ある記憶が蘇った。

 皮肉なことに、それは憂鬱なシミュレーター室での記憶だった。


 彼はゲームコントローラーでの操作を余儀なくされていた、仮想戦闘機とはいえ、コントローラでは無理があり、彼は戦闘機動ごとに感度を微調整していた。


 その経験を生かす時が来た。


(デッドゾーン -1.2、リニアリティ +3.5 サチュレーション+4.0……これなら……!)


<ふらふらと下手くそが。

 2、雲を抜けたら仕掛けるぞ……オメガ1、FOX2ミサイル発射>


<missile alert! missile missile!>


「シュワルツ!」


 雪の降る険しい山脈地帯の上、真っ赤な花火が上がった。

 その爆風の隙間から、一機の戦闘機が空を駆け抜けた。


「こちら、シュワルツ……2機撃墜」



 ◇


 ―作戦に参加したアルタイル連邦の戦闘機パイロット。


 コールサイン オメガ1の証言。


 何が起きたのかって?


 わからん。


 雲を抜けたら、アイツがこっちを向いていて……俺は堕とされていた、呆気なく。


 脱出できたのは奇跡だった。




 確か……あの機体は、翼端を地獄の炎の色で染めた――ラファールだったな。




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