第4話 最強の攻城兵器 それは涙

リビングで寛いでいるとシャワーの音が聞こえる。そしてたまに途切れる水の音。髪でも洗っているんだろう。時間は夜の12時を回っていた。


「どうしてこうなった、、、なんてな。」


自嘲気味につぶやく。馬鹿なことでも言わないとやってられない。なぜこんなことをぼやいているのか。結論から言って、西原は我が家に泊まることになった。なぜか?


のだ。それも盛大にではなく、思わずという感じで。


盛大に泣かれたのであれば全然マシだった。基本的に大げさに泣くときは人はまだ余裕がある。特に多少以上頭が切れ、女の武器を使うことにためらいが無い女性は泣き方も泣くタイミングもうまい。


一方でなにか想定外の事態が発生しその事実が受け止められないとき、人は思わずという感じで驚いた顔のままホロリと涙を流す。この泣き方はまずい。


という前置きはどうでも良いにしても、いずれにせよ西原は俺の提案を聞いた瞬間泣いた。そして数瞬の間、自分が涙を流していることにも気づいていなかった。自分が泣いていることに気づいてからのリアクションは早かった。


「あれ、すいません、これはなし!もう今日は帰ります!!!!」


お前、家出してるのにどこに帰るんだよといういう俺のツッコミもまたずに慌てて目元の涙を拭い店の外に出ようとした西原の肩を、俺は反射的に掴んでいた。


「あっ、、、」


驚いた西原が振り返り俺の顔を凝視する。涙のせいか少し潤んで上記した表情で俺を見上げてくる。


「泊めてやる。ついてこい。」


そんな西原に若干呆れつつも、俺はさっさと会計を済まして車に乗り込む。西原は慌ててついてきた。


「あの、せんぱい、、、」


「どうした。」


「いえ、あの、、、」


普段は威勢がいいくせにこの辺りはまだ子供だなと思いつつ、自分に対してもなにやってんだかと呆れていた。


「言いたいことがないならいくぞ。途中でコンビニに寄ろう。我が家は女性をもてなす準備がまったくできていない。」


肩をすくめながら冗談めかして言う。まぁ実際問題、女性が泊まりに来ることは想定していなかったし家出してきたのであれば足りないものもあるだろう。ファミレスを出てコンビニへ向かう途中、やっと西原が口を開いた。


「せんぱい。」


「おう。」


「あの、すいません、本当に、」


普段生意気なやつはこういう時に得するよなと若干ひねくれた感想を持ちつつも、学生に面と向かってそこまで言うほど俺も酷いやつではない。多分。


「細かいことは気にすんな。あとさ、こういうときはすいません、じゃなくて、ありがとうございます、だろ。」


なんて人生の先輩風を吹かせながら車はコンビニへ向かっていた。

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