vsジャーニーとヒョウガのヒョウガの方 2
銃。
筒状に作られた銃身の後方より詰められた炸薬に着火し、その気体化による爆発的な体積の増量を推進力とすることで、前方に詰められた弾を押し出し射出する武器の総称である。
魔法文化中心だったパレイドリアの出身世界だったが、銃は存在した。
ただしそれらの多くは改革派が暗殺やテロに用いて初めて認知されたようなもので、今のところ火縄を用いた単発式が最先端であった。
……それを、パレイドリアは言い訳に使わなかった。
確かに、この銃撃はそれよりもはるかに進んだもの、威力はもちろん、連発もできるなど夢にも思っていなかった。
だが、見えていた。
見えていたはずだ。
邪眼は全てを見ることができる。
見えないのは、見ようとしないだけ、即ち持ち主であるパレイドリアの能力不足でしかありえないのだ。
だから、遥か向こうの壁にひびが走り、崩れ抜かれると同時に飛来した金属の礫に、反応できなかったのは全てが落ち度、その結果その身に当たらなかったのはただの幸運、そしてその代わりに、この靴を舐める愛らしい存在が引きちぎられたのは、紛れもないパレイドリアの罪だった。
そう、冷静に自分を観察しながらも、体が強張り動けない彼女の代わりに、邪眼は適切に働いた。
バガンバガンバガンバガンバガンバガンバガン!!!
一定間隔、絶え間ない連射、容赦のない攻撃、防戦一方、それでもパレイドリアは、膝を折って千切れた体をかき集めた。
冷たいのが大半、一部熱いのは礫が当たった部分、漏れ出るのが血なのかわからないが、半身が亡くなってなお動こうとするその姿はただただ痛々しい。
邪眼は、見たくないものは見えなくなる。
己の罪から目を反らそうと思えば自然な形で、問題なく反らすことができる。
そうせずに、見つめ続けられたのは、パレイドリアの強さの表れだった。
「巻き込んでしまって、どうかお許ください」
銃声の中、掻き消えそうな声で、それでも確かにそう呟いて、パレイドリアは立ち上がると、その邪眼にて、戦うべく相手を見据えていた。
不格好で飾り気のない灰色の鎧姿、背丈はパレイドリアより頭一つか二つは大きい。その両手が抱えるは長大な銃、銃身の下に円盤状の何かが採りつけられ、連射する度に熱々の金属を吐き出している。その他、肩には何か見慣れないものが見える。当然武器の類だろう。
中身は、男、黒髪白めの肌、その表情はこの連射に酔っている風に見える。
倒すべき敵、ならばと思い、ガクリと崩れる。
邪眼の使い過ぎだった。
壁を作る
ならばと観察を諦め、
簡易の松明、完成させると一呼吸、覚悟を決めて壁より飛び出し、視線を向ける。
バンジョグンバリザ《感情の涙》、邪眼からのビーム、狙いを本体ではなくすぐ上の天井にしたのは確実な時間稼ぎを狙ったから、そして狙い通り天井が崩れ、瓦礫が降りかかって連射が止まる。
それを合図に飛び出す令嬢、遅れて消える
だが、その身が建物から飛び出る方が、連射に巻き込まれるよりも速かった。
ザクリザクリ、雪を踏み蹴るパレイドリア、汗云々の慎重さは無くなり、代わりに低重力の恩恵を目いっぱい蹴って、加速する。加速しながら、考える。
あの連射、正面から打ち合えばこちらが不利、加えてあの奇襲から、この邪眼ほどではないが相手側もこちらがある程度見えている様子、ならば逃げ隠れにあまり意味はないでしょう。
ただし、手がないわけではないわ。
漠然とした考えをまとめながら、松明の炎を唯一の暖としつつ、走り駆ける。
…………はっきりとした目的地があったわけではないけれど、出てまっすぐ、公園ではない方向へと抜けて、また別の建物、円柱を倒したような建物二列、その内の外側へと入る。
長ぼそい造り、真っすぐな廊下の左右に一定間隔で扉があって、その中は似たような、椅子とベットと奥への扉と、あと何かわからない色々が入っていた。
一目で個室とわかった。
扉が薄いから独房ではなく、労働者を詰め込むための安宿だろうと、見て取れた。
そんな部屋部屋を抜けながらも、体力強化を緩めて邪眼を観察に向ける。
……相手は、まっすぐこちらを追ってきているようだった。
残された足跡をたどり、罠や待ち伏せを警戒することなく進み、この建物の前に立つや、その手の銃を向けた。
不味いですわ!
判断、同時に飛んで床に伏せた。
バガンバガンバガンバガンバガン!!!
再びの銃声、打ち抜かれる壁、色々なものを無茶苦茶に貫通させながら乱射する。
幸い定かではない狙い、だけども伏せて床に触れた顔が張り付き凍り付いて剥がすのに痛みを伴う。
それでも、令嬢にあるまじき匍匐前進にて、建物を抜けてまた雪の上へと転がり出た。
逆立つ髪が戻らないのは汗が凍り付いたから、手足の間隔は鈍く、冷たさではなく痛さを感じる中で、目的の場所までこれた。
安堵に吐き出す息まで凍る。松明は建物の中、礫に撃ち抜かれてほぼ消えていた。
低体温、時間がないですわ。
乱射の合間を縫って撃ち抜かれた穴を見れば向こうは白い霧の中、ばら撒かれた金属が周囲の雪を溶かして水蒸気に、それが空中で冷やされて霧となっていた。
その中で見えてないだろうに男は乱射を続けていた。
「ちょこまかと逃げんなさっさと殺されろこの野郎が!」
そこへと突然、怒声が響く。
「こっちはいきなりわけわかんない状況になっててむかついてんだ! てかジャーニーどこやりやがったさっさと白状しやがれこの野郎が!」
言葉は通じるものの知性を感じさせない物言いは、見るまでもなく銃を乱射してる男からだった。
言葉が通じる、ならば誉が通じる。
思っちゃったんだからしょうがない。
刻一刻と体温が下がり続ける中で、肺を痛めながら息を吸い、言葉を吐き出す。
「アタクシ! 名をパレイドリア! あなた様の対戦相手でしてよ! 戦う前に! 名乗り合うが礼儀ではないかしら!」
震えで悴みとぎれとぎれながらちゃんと言えた言葉が響き渡り、銃声が止んだ。
そして返事はない。
代わりに邪眼が見たものは、相手が女だと知ってにやける男の顔だった。
こんな下賤な男、でしたら、いいですわ。
見切りをつけてパレイドリア、邪眼で上を、空を、天井を見上げると、力を貯める。
急激に下がる体温、危険粋、震えが止まらない
そうまでして溜めた力を、一点、邪眼ビームに収縮して、放った。
天へと昇る黒色の線、打ち抜いたのは天井、それも、男の真上だった。
崩落、その規模は先ほどの天井の比ではなく、その上に積もっていたであろう氷も巻き込みすさまじい重量が男を襲う。
「うぉ!」
声を上げ駆けだそうとする男、だけどもその足がつんのめる。
見れば両足ともがっしりと、氷に固められ動きを封じられていた。
これは、狙ったわけではない。
ただ銃を乱射している間にばら撒かれた金属、薬莢が雪を溶かし、そして怒鳴り合ってる間に氷に戻って固まった、偶然に近い結果だった。
勝利を瞼に浮かべるパレイドリア、しかし男は、敗北を見ず、代わりに右肩を上へと向け、展開させた。
その形状もまた、大きいながら紛れもない銃だった。
ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン!
立て続けの爆音、響かせ射撃、狙いは全部頭上、そして爆発した。
……その銃の威力が高いからか、あるいは重力が弱いからか、天井の瓦礫は爆発霧散し、真下にいた男にはそれほど当たらず、代わりに周囲の建物に多大な被害をもたらした。
作戦の失敗、だけどもパレイドリアはもっと酷いものを見ていた。
空より降りてくる無色透明なガス、建物の外に充満している二酸化炭素、それが滝のように流れ落ちてくるのを、邪眼は無慈悲にパレイドリアに見せつけていた。
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