vs謎の美少女ゾンビ鮫遣いZ 2
「わはははは!!! ばっかめー!」
頭齧られてる邪眼令嬢へ、Zは腐った性根全開で指さし笑う。
「ほんとに挨拶するとか! 頭元気! 食べ応えないんじゃない!」
ばちゃばちゃと海水蹴り叩き、水しぶきを上げてご満悦だった。
「鮫ってね! 凄いんだよ! それにこう見えて魚だし! 映画にもなったし! テーマ曲あるし! あの有名なじゃじゃじゃんじゃじゃじゃんってゆーやつ!」
Z、可能な限りの鮫トリビアを披露しようとするも、程度が知れて、しかも微妙に音痴で間違えてたりしてた。
「それなのに齧られてヤーンの! やーいバーカバーカ! えっとバーカバーカ! アーホバーカ!」
胸と同じく、さして豊かでないボキャブラリーが潰えて、雑な悪口しか言えなくなったころ、ようやっとその異常さに気が付けた。
噛みついた鮫が、動いてないのだ。
いや、動いてはいる。尾ひれ背びれむなびれ、後何処かにあるであろうフカヒレ、それらを中空に漂いながらも震わせ、身悶え、何かしていた。
何をしてるのか?
Zの脳が考えるふりをしてる間に、パレイドリアは、頭を齧られた体勢から、ブラウスの袖をつまみ広げてた両手を放して、そして
「ぶはぁああああああですわああああああ!」
汚い音のお嬢様言葉を放ちながら、並ぶ鋭い歯の中より生還した顔は、ぐったりしているものの綺麗なままだった。
対してベンゾー、その口、いっぱいに黒い何かを頬張っていた。
「アイサツの前のアンブッシュは一度までは許される、でしたわね?」
パレイドリア、いきなり齧られたことを隠すようにさらりと言う。
「それニンジャ!」
これにZ、知ってる知識を披露できるタイミングを見つけて元気に指をさす。
そうして誉にまみれた茶番が終わり、改め向かい合う二人、この段階になってようやっと、Zは邪眼令嬢の邪眼たる邪眼を、ちゃんと見た。
あ、やっべー。
……Zはこう見えても
故に他の神に属するものを幾柱も見知ってきた。
その中で、この邪眼は、そのどれでもなく、そのどれよりもわけがわかんなかった。
それがすごいのか、悪いのか、ただやばいのは理解できた。
……で、どうするか。
これまでにも似たような経験は幾度もしてきたと言ってはばからないZだったが、その大半は嘘であり、数少ない真実は忘却の彼方へ、水に流してきた。
はいここでいったんCMでーす!
昨日の夢に出てきたサングラスのおっさんの言葉を借りるならそんな感じなんだろうけど、CMってなぁに? と自問自答するにとどまった。
と、ビダン、と落ちた。
鮫、ベンゾー、口に黒をは下がったまま、そいつが鰓に詰まったのか、力なく砂浜に寝転がり、わずかに跳ねながら『3』の字にしか見えないつぶらな瞳が助けを求めてる。
そのシーンに突如として閃く友情パワー!
いくら性根が腐っていても、お気に入りの鮫が干からびたら骨も残らず腐り落ち、そしてひたすら臭くなるのは知っていた。
その前に水に戻す。
やることを見つけるやガバリとZは立ち上がり、ポーズを決める。
「熱いプールでパスタが泳ぎ、タマネギ・ピーマン・ハムが鉄板で踊る。塩と胡椒に止めでケチャップ。後は盛り付けぺろりーな!」
意味不明な呪文と摩訶不思議なダンス、閃き打って変って動きまくるZに、パレイドリアは怯み、後ずさる。
そうさせたのは、他でもない、その邪眼に映ったZ、その背後で盛り上がった海水にであった。
吸い寄せるのでも押し上げるのでもなく、ただあるがままに、まるでそうであるのが正しいかのように自然に、流れ上がった潮の混ざった水、形作ったのは、少年の上半身だった。
吊り上がった目、全体的に丸顔、尖がった口、絶対にマザコン、誰がモデルかは見切れないパレイドリアでも、己の身の丈の五倍は超えるであろうその水像が、その質量が、途方もないことだと、そしてそれを動かせる力がとんでもないことだとは見破っていた。
屍神のもう一つの側面、水をつかさどる力、精霊を介することにより水を原子分子ルで操ることができる。
その力、正に神に相応しく、圧倒的、如何に邪眼とはいえ、見破るだけで攻略できるほど安い存在ではなかった。
その事実を、一切の誇張なく見破ってしまう邪眼、見せられた光景に動揺する令嬢、そこに現れる凡眼でもわかる動揺に、知ってか知らずかZが叫ぶ。
「これで完成ぺぺろんちーの!」
ズビシと両手と右足上げて元気いっぱいのポーズ、Zがとると同時に水像が起動した。
『まんまぁ!』
起動音なのか鳴き声なのか、奇抜な音を上げ、巨象の拳がパレイドリアに放たれた。
迫る拳に、皮肉にも、それは天変地異よりも人工的な事故に似て見えた。
体をすっぽりと納まる範囲の拳、それが真横に、突っ込んでくる様は暴走馬車に例えられた。
回避は無理、早々に見切りをつけたパレイドリアが全力ガードに出る。
出来上がったのは黒の球体、完全防御の構え、しかしただ砂の上に乗るだけの玉など、拳の水流の前には押し流されるだけだった。
上下流転、転がり揉まれる令嬢、それでも邪眼は正しく見定め、周囲を、上下を、そして敵を見逃さなかった。
「この拳、『強い』ッッボボボボボボボボッ!ボゥホゥ!ブオオオオバオウッバ!
やっばい! 流されっ、ちゃボボボボボ!」
己が作った拳の流れに巻き込まれもみくちゃにされるZ、それを見ながら転がるパレイドリア、そうしてどんぶらこっこすっとこどっこい、流されたのは砂浜中央、遠くに見えてたはずのヤシの木の近くだった。
水の像が消え、海水が引き、いつの間にかベンゾーも消えて二人きりとなった。
不味いですわ。
目の前のZがただのおちゃらけた鮫遣いではないとやっと見破ったパレイドリア、邪眼で睨むその表情は険しかった。
あーもうあきちゃった。
一方のZ、打ち上げられた格好のままうなだれ、今の一撃でサングラスも笛もどっかいっちゃって、心底どうでもよくなって腐り始めてた。
両者思うことは違えども、見据える未来はほぼ同じ、即ち早期決着を望んでいた。
パチリと邪眼含めて瞬きする令嬢に、よっこらしょっと立ち上がる屍神、そうして改めて二人、対峙する。
……先に動いたのはZ、正確には動かしたのがZだった。
ここは砂浜、即ち小さな砂が重なった大地で水はけがよい。つまりは水を吸い上げるのにうってつけの環境だった。
「すいみーん! すいみん!」
叫ぶのが後、それより先に地中より突き出る水の手、幾重にも伸び、パレイドリアを追いかける。
これを邪眼で見切り、砂を蹴って走り逃れる令嬢、しかしその方向は、Zの近くへと誘導されていた。
邪眼で見せた攻撃はビームのみ、つまりは遠距離線が得意と、見えてることでしょう。
そう冷静に見定めて、あえてあえて見え見えの罠へと入る。
そして合図のように、一斉に吹き上がる水柱、逃れるために向かった先に待ち構えてたZが笑う。
「初めてのチューゲットでチュー!」
飛び掛かる青白い顔に、今度はパレイドリアが先に動いた。
踏み込んだばかりの足、しかも不安定な砂の上、スカートもズボンも履いてはないとはいえ圧倒的に不利な場面にて、それでも繰り出したハイキックは美しかった。
まるで吸い込まれるように、ピタリとはまった上段への蹴りは、美しくZの頬へとめり込んだ。
……ここまでは、パレイドリアが目指したもの、しかしその首がいとも簡単に捥げたのは目を見開いて驚かされた。
そして、首を失くしてなお襲い掛かる体には、見るまで信じられなかった。
……屍神のもう一つの力、そして名の由来となった本当の力、不死。
Zは死なないのである。
それをみこして、なわけではないが捨て身の特攻、ハイキックの迎撃を狙っていたパレイドリアの裏をかいた形となる。
しまった。後悔する令嬢、だけども見えてはいても体は動かず、避けられない。
「ゲットなーりーよー!」
まだ生きてるのか飛んでった首が元気に叫ぶ。
そして、首のないZの体が、パレイドリアの胸を鷲掴みにした。
「……あれ?」
決してこのセクハラを狙ったわけではない。
本人はまじめに心臓を狙っていた。
ただその大きすぎる胸が厚すぎて届かなかっただけだった。
それを差し引いても、違和感があった。
「これって、ひょっとして、ニセチチ?」
一言、呟くことに後悔する日が来るとは思わなかった。
ギュイ、と感触は似ているが明らかに偽物な乳がまっ平らになったかと思えば、令嬢の体が急激に変化した。
邪眼など持たない凡眼で、それどころか節穴なZの目ではその全てを見納めるk十はできなかったが、それがただ一つの目的、即ち破壊を目的とした変化だとは理解できた。
……あぁ、これじゃあどこかのB級妖怪にぶっ飛ばされた兄者みたいだ。
千切れ千切れになりながらZは漠然と思いながら、はるか遠く、場外の海へと落ちて行った。
◇
最初の願いは、『各員から偽乳の記憶を消すこと』となった。
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