18_不可抗力リプレイス

 昔だったら分からないで諦めてた英語の読解が楽になったのは、大人になると少なからず英語に触れるからだろう。プログラミングをやらなくても、コマンドとかログなんかを仕事上目で追っていると、どうしても英語からは逃れられないため身につくのだ。まして、簡単にだが英語でメールを作ってた時期もあったし、そりゃ高校の小テストくらいのレベルは朝メシ前とは行かずともそれなりに理解できた。

 毎回苦労してた授業の記憶だったっけど、やはり二回目となると、まあちょっとズルしてる気はするが、だいぶ楽だ。その他の授業も満遍なく、勉強の仕方が分かるものに関してはかなり頭に入っていた。いやぁ、年取ったら勉強したくなるって言うけど、なんとなく分かった気がする。この感覚は快だな。もっと勉強しとけば良かったよマジで。


 さて、時は夕刻。夕陽は差さず傘を差す天気で、ちょうど帰りのホームルームが終わった、4/28のゴールデンウィーク前日。

 連休前に騒つく奴らを横目に、俺は資料と家から持ってきたSFパソコン(ネットは繋がってない)を出して、すっくと立ち上がった。これからクラス委員含めた会議――もとい委員会がある。議題は担任から伝えられていた通り事務的なものだが、本当の目的としては新メンバーの顔合わせみたいな感じらしい。各学年のクラス委員が集まり何かを決めると言うよりは、説明が主となるとの事で、そこで色々と紹介し合うんだろう。あるある。キックオフ会みたいなの。社会人でもあるよ。大概皆酒飲みたいだけだけど、大事よねそういうの。

 と、いう事で、なんか久々の会議の感覚にげんなりアンド期待しつつ、俺は逢瀬に声をかけた。


「やっぱポニテいいな」


 なんか間違えた。


「え? あ、うん。どういたしまして?」

「……すまん、間違えた。委員会、行こうぜ」

「そう? ならいいけど……って、パソコンまで持ってきたの? すごいね」

「いやー、紙に書くよりキーボード入力の方が後から見易いかなと。それにパソコン無いと落ち着かん(社畜ゆえの弊害)」


 ちょっとギクシャクやりながらも、逢瀬と連れ立って廊下に出、いざ指定された大きめの教室へ。既に半分くらいの席が埋まっており、俺らも適当な場所に座って回りを眺めた。見るからに委員長なやつ、髪色からしてご察しのやつ、立候補で誰も手を挙げず、無理矢理に決められてしまったであろう大人しそうなボーイズアンドガールズ。多種多様な生徒たちが委員会の始まるのを待っていて、つい人間観察してしまった。学生ならではの雰囲気というか、がちゃがちゃしてる感じが妙に新鮮だ。


「あ、逢瀬先輩……お疲れ様です!」


 遅れてきた一年生らしき女生徒が逢瀬に声を掛けた。切り揃えたショートヘアとカチューシャ、それと色白の肌が印象的な、幼げな顔立ちの少女。ぶっちゃけ可愛いと思った。おそらくバド部の後輩だろう彼女は、礼儀正しく一礼して、空いていた俺の隣に席に座った。おお、両手に花感。逢瀬もそれにそれとなく答えて……うん? なんかお互いちょっと気まずそうな空気で目を逸らしていた。

 もしや


『1-A 神咲』


 なるほど。

 俺の予想は当たった。チラッと目に入った荷物に『神咲』の文字。この生徒、おそらく例の大会の選抜メンバーだろう。あざみに携帯でnnixiを見せてもらった時や俺のパソコンで見た時にこの名字は確かにあった。つまりこの気まずそうな空気は、入部してきたばかりの後輩が部長である逢瀬を退けて選抜メンバーに入った故の、なんとも言えぬ空気って事か。表は気にしてなさそうに取り繕っても、やっぱ周りからは分かってしまうもんだよな。


 そのまま生徒会の人間らしき奴が入ってきて、開始の時刻となり音頭を取る。学生らしく服装正しく坊主頭なそいつがなんやかんや喋って、スケジュールの説明が始まった。とりあえず、俺はパソコンで、丸投げ課長の下鍛えられた宮田用議事録を作っていき、To doリストにし易いようメモを取っていった。このくらいはお手のものだ。


「おー、なんか本格的。前から思ってたけど宮田くん仕事の時は本物の会社員みたい。すごいね」


 逢瀬が俺のパソコンを覗き込んで感心している。ブラインドタッチだってお手のものだぜ(さりげないドヤ顔)。あ、バックスペース押そうとしたら¥になっちった。はは(さり気ないドヤ顔)。


「おいキミ、カタカタ音がうるさいぞ」


 すんません。


「会長さんに怒られちゃったね」

「ああ。あいつ三浪して結局変な私大入るくせに。生意気だよな」

「え、それどこ情報なの?」

「俺情報だな」

「適当かよー」


 坊主会長にバレないように、こそこそやり取りする俺たち。なんとなく悪い事してる気分なのが、逢瀬となら妙に心地いい。ニヤつきそう。


「………〜〜〜っ!」


 すると今度は逢瀬とは逆方向の隣が、抑え気味に声にならない声を出して、横目で俺を見ていた。えーと神咲だったけか。どうしたんだ急に。


「……しい」

「は?」


 微かな声に咄嗟に聞き返してしまう俺。しかし神咲は特に俺を気にせずスカートの裾を掴んでなんかぶつぶつ言った。


「しい……うらやましい……うらやま」


 …………。

 えーと

 あの

 それ、まさかこちらに言ってますか?


「あー……なんでこんな……せっかく先輩目当てで部活入ったのに……いいないいないいないいな……学年一緒だったら良かったのに……いいなぁ〜……」


 あー、と。

 俺、聞かない方がいいかもしれないな。神咲さんはきっと独り言多いタイプなだけでそれは一切俺に関係……


「あっ」

「う」


 と、ふと目が合ってしまった。神咲と。流れる沈黙。


「……なんでこんな男と」

「おいてめえ表に出やがれ」


 爆発的に失礼な物言いに血圧が上がった。この女ちょっと可愛いからって調子に乗るなよ。可愛いは正義だが何言っても良いって訳じゃないだからな。


「わ、わ、すいません! わざとじゃなくて偶々こう口に出てしまったというか……」

「それ充分失礼だからな? 初対面でいきなり何言ってんのお前? 人を怒らせる能力者なの?」

「す、すいません……! ふ、不可抗力的な事象として、今のは許してくださいお願い……ちょっ! やめて! 私のノートに落書きしないでください! わー!」


 俺が神咲が開いてたノートにボールペンでガリガリ真っ黒を作ってると坊主会長から雷を食らった。

 退室処分……

 くそ、あの三浪野郎め。



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幼馴染みが全力でおじさん(17)の青春を邪魔してくる! 西園寺絹餅 @taneyuuki

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