x2_指先で送るキミへのあれとそれ 【まなつ視点】
「え〜、電車でいくのかよ〜」
四人のバドミントン部たちは、黒澤高校の最寄駅、氷室駅にいた。
休日という事もあり、雑多に人が移動して目が回りそうだ。駐輪場に自転車を置いて、乱立する駅前の店を抜け、構内へ入っていく。
「嫌なら自転車で来いやw」
「だって〜、モモセモールって二駅くらいやろ? 往復のお金がMOTTAINAI」
「なら、そんなのうちがちょちょっと貸してやるぞ。今ならお得なリボ払いもあります!」
「あれはダメだ! 後々余計に払わされる事になるんだ! 自分を追い込むだけだ〜!!」
嘆きながらも、渋々了解をしてくれた友人とともに四人は地元のショップモール、モモセモールに電車で向かう。自転車でも行けない事はないが、いかんせん車の通りが多い道路を通るために、自転車だと危ないし、何せ練習終わりの体にはキツイ。電車なら片道224円で十分程度だ。さっそく電子マネーで改札を通り、1番線のホームへと入っていく。人が多い。
「ま〜な〜つ。痴漢されないように守ってあげよう〜」
オンちゃん(本名恩田かずこ)が、自身の高身長を活かしてなのか、彼氏っぽくまなつの肩を抱いた。まなつは少しビックリしながらも、身体を軽く預けた。
「サッチはアタイとラブラブしようぜw」
「おおーいいぞ……って、だっちゃんなんで今わざわざバッグの紐斜め掛けにしたの? これ見よがしになんで隣に並ぶの? あ、うちを使って自分のおっぱい強調する作戦か!? 巨乳だから出来る所業なのか!? くそ! 痩せ型低身長の弊害を使ってこいつめ……! こうなったらうちも……」
なんだか盛り上がってる二人を尻目に、まなつはホームの人々の様子が、チラッと目に入った。多い。子連れ、友達、そしてカップル。今日は休日、しかも昼前。そりゃ、男女がデートするには格好の時間帯だ。食事に映画に買い物、選択肢は色々。しかも、今自分たちが行こうとしているところは、それが全部叶う場所。ショッピングモールなんて、大抵なんとかしてくれる場所なのだ。そう考えると、今からデートを楽しむ男女たちのメッカへ出向き、知り合いの彼氏を女友達と見て、帰ってくる訳で……なんとまあ、変に虚しい。三十路手前のOLだったら、レディコミ買い占めてるかもしれない。
「はあ。カップル多いよー」
思わずオンちゃんに声を漏らしてしまう。まなつにとって、なんでここまでカップルを見るとモヤモヤするのか、分からなかったし、分かりたくもなかった。
「なんだよ〜まなつ、男に振られたの?」
「振られてないけどさぁ。なんかねー、こう、あれだよね」
「あ〜あれだよな〜。あるある〜。女だもんな〜」
頭を撫でてもらいながら、やって来た電車に乗り込む。座席を既に埋まっていて、四人で固まって端っこに寄った。偶然にも向かいには、外国人のカップルがイチャイチャしてた。
しかも、割としっかりと。
「あれは……w」
「こんなとこでやるなぁ。うちには刺激が強すぎるぞ」
こそこそするこちらを気にもせず、ブロンド髪のカップルたちの熱は増していく。走りゆく電車の中で構いもせず、彼氏の手が彼女のあらぬところに。彼女の手も彼氏のあらぬところに。見ないフリするのにも限界がある光景だった。
「でも〜、彼女めっちゃ幸せそうじゃない? 超ニコニコしてるよ〜」
「確かにw」
「人目気にせず幸せになれるとか、ある意味才能だぞ」
「金言ktkr 大百科載せとくわwww」
そのまま二駅分まで四人はなんとか凌ぎ、到着した電車を降りた。息苦しいあの空間では、他の乗客も同様の感情だったらしく、降りてからチラ見する人や「やばくなかった?」等と溢している。軽い拷問だ。
「まなつ〜、凄かったなあれ〜」
オンちゃんが携帯を弄りながらまなつに言う。まなつは疲れたように、ホームのベンチに座って水を口に含んだ。
「なんかこっちの方がダメージ受けたよー……」
「彼女さん、パンツ見えてたしね〜」
「ピンクだったなw」
「やめてー! 思い出すでしょ!」
「まなつ、思い出して興奮しちゃだめだぞっ」
「しないよ! アタシをなんだと思ってるのさ!」
しばらく騒がしくやり合って、いつもの調子を取り戻していくまなつ。知り合いの彼氏なんてどうでもいいから、さっさとご飯食べて、カラオケして家に帰りたい。あんなモノを公共の場で見せられて尚更変な気分がバカになっているのだ。着いてきた手前、皆の空気に水を差す真似はするつもりないが、さっさと今日が終わってくれ、と切に願ってしまうまなつであった。
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