x1_指先で送るキミへのあれとそれ 【まなつ視点】
――部長の調子が最近おかしい。
部員兼友人らの指摘は、本人にとって驚きであった。何せ、特段自身の態度や言動に変化を加えたつもりはない。いつも通り、そう、変わらぬ平穏無事な今までの自分でいたつもりであった。だからいきなり「部長、最近なんかボーッとしてません?」なんて複数の人間から言われるだなんて、戸惑うばかりだった。
「まなつ〜。このあと例の見に行くっしょ?」
「え、え? なんだっけ」
「だ〜か〜ら、
「いった! ま、また人の事エロ部長って! 変な言い方やめろー!」
それでそれは、この日もそうであって、お昼前に終わった部活の帰り道、流れで昼食ついでに遊びに行く感じになったのも、今し方思い出した様子を部員らに見せていた。いつもだったら自分から「あそこ行ってみよう」「あれをしてみよう」と前に出る立場なのに、最近はこの調子。本当、どうしてしまったのか。彼女自身も分かってなかった。
「みんなぁ〜、まなつがまたエロい事を妄想して話を聞いていませんでした〜」
「まなつー、またなのかー!」
「そういえば、今日もシャトルの筒さ、座りながら股間に押し付けたな。はぁん、何をしてたんだかw」
乙女たちのニヤニヤとした眼差しが、こちらへ向いて、反応に困り頭を掻いた。エロ部長めまたエッチな妄想してたのかよ、と小学生的ないじりを始めたのは、全くの予想外でまあまあ心外であるが、彼女らのノリは友達であるゆえで、悪意はないのは知っていた。試しに一度拗ねてみた際には、ちゃんと大好きだぞとチューして謝ってくれた。あれはあれで、恥ずかしかったが。
「やーめーてー! 変な妄想もしてないし、押し付けてないよ! シャトル片す時に偶々そういう体勢になっただけ!」
「あ、あれうちも偶にやるぞ! 立てた方が入れやすいの」
「たまだけに入れやすいってかw」
「ひyなんだけど〜」
下らない会話をしながら、部活(代理)のまなつを含めた黒澤高校女子バドミントン部の二年生四人組は、校門を出ていつものルートを自転車で進んだ。帰り道が途中まで同じゆえ、入部当初からこの面々で帰路を共にしている四人だが、最近はまなつが部活やらクラス委員で一緒に帰れない時が増えた。だから、なるべくまなつが居る時はちょっと遊んで帰るようにしており、今回もその流れであったのだが……
当の本人が、この調子である。
「しっかし、まなつったら本当どうした! うちは心配だぞ」
信号待ち。四人組のうちもっとも背の低いショートヘアがまなつの隣に来た。仲間思いの元気印、サッチだ。
「ま〜、一年入ってきて部長も大変だから色々あんだろうよ。なっ、マイハニ〜」
続いて一番の背の高い、仲間思いの眼鏡印、オンちゃんが、バシッと背中を叩く。
「いっや、こいつは恋やろw まなつ分かりやすいもんなwww」
最後に胸だけはムダにデカいで有名な、仲間思いのwが目印、だっちゃんがよだれ垂らして近づいて来たけど汚いので三人とも距離を取っておいた。
「すまんて。よだれ垂らしそうになってすまんて。でもJKのよだれにお金出す人居るって聞いたからあながちいけんじゃね思ったけど、って待って、置いてかないでごめんてばぁぁ!」
変態くさいのは放っておいて、気遣う皆の姿になんだか申し訳なくなるまなつ。実は、部内での成績も最近は芳しくなく、来月に控える大会ではこのままだと控えに回りそうな具合でもあった。元々強くない学校なのでそこまで好成績を期待されてはいないが、一年生が入ってきた手前、さすがに部長代理としても意地もある。だから、せいぜい規定の六人の選抜には入らないといけないのだが、ランキング戦では首位をキープしていたまなつの不調が続き、現在ギリギリ六位。一時的とはいえ順位を落としており、このままだと控え枠の六番手に回る事になる。落ち込んで暗い空気はないけど、部員らが心配するのも当たり前だ。
「とにかくさ〜、今日は出来立てホヤホヤの桐絵の彼氏様を確認して〜、その足で飯食って〜、カラオケ行こ〜。そしたらまなつも、そうさ100%元気〜」
「おおー! うちもカラオケ行きたかったぞ! まなつ行くよね!」
「う、うん」
「決まりやな( ´ ▽ ` )ナッ!」
そんなまなつに三人は笑いかけ、まなつはそれに、うんと頷いた。皆に心配ばかり掛けちゃ余計にダメだから、いつもの笑顔を心がけて、思いっきり。胸の中に燻る柔らかいモヤモヤは、そうやれば誤魔化せられる。そうだ。ただなんとなく、変な気分になっただけだ。少ししたら、こんなの、治る。
すぐに、治る。
たぶん。
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