8_指先で送るキミへのあれとそれ


 土曜日。俺は地元のショッピングモール内にある携帯ショップにいた。

 なんでかといえば、高校時代はスマホでなくガラケーの世代。ゆえに、指紋認証のような生体認証がなく、端末を起動するには当時のパスワードが思い出す必要があった。

 で、まあ、察しの通りパスワードなんて覚えてない訳でして。

 仕方なく、携帯がぶっ壊れたと親に頼み新しく買いに来た次第。

 ここまでは良かった。しかし。


「なんであざみおるん」


 あざみもいた。

 オフショルダーのチュニックをゴーイングマイウェイって具合に着こなして、いつものおでこ出しスタイルの髪型を綺麗目にキメて俺の隣に。

 ちゃっかり化粧までして、なんとなく外国のティーン女優みたいな風格を漂わせる。カッコいいと可愛いを足した感じ。背が高ければモデルと間違えられそうだ。


「アンタに合うケータイを選んであげるためよ」

「ふん。本当は最新の機種触りたいだけやろ」

「そういう事言うのね」


 澄まし顔で早速店頭に並ぶガラケーを物色し出すあざみ。くそ、昨日何気なく言ってしまったが運の尽きだった。まさかわざわざ家に迎えに来るなんて思わなかった……お前はひと昔前の幼馴染みヒロインか。いや、そうなんだけど。ともかく、強制デートイベント発動中な訳だ。


「やっぱ時代はスライド式よね」


 あざみが『女性に人気』とのポップが飾られた機種を手に取る。なっつ。スライド式携帯なっつ。会社で内線用の共有ガラケーあるけど、だいたいパカパカするやつだからひっさびさに見たわスライド式。


「でも画面が丸出しなのが考えもんよね。落としたら終わりだもん」

「どうせ携帯なんて丸出し画面が主流になるんだから、今から気にしてもな」

「どこ情報よ、それ」


 真実というか俺の知る未来には、スマホなるどんと来い丸出し画面の輩がいっぱいおるから安心しな、と、ぶつぶつ言いながら俺も良さげな携帯を探していく。ぶっちゃけ使えりゃなんでもいいんだけど、すぐ壊れるのは勘弁。価格帯を気にしながらも、使い易そうなのを見つけていく。


「あら、この機種、今ならキャンペーンで着うた10曲無料だって。良くない?」

「おま、着うたって言葉を聞いて鳥肌ぶわーなったわ。あったよなそんなの」


 今の子らは知らんやろな。着うた。メールが来た時に自分の好きな曲鳴るのようにするのやってたわ。

 ちなみに俺は『もっていけ最後に笑っちゃうのはあたしのはず〜』って歌にしてた。←結論。てててて。あの頃から深夜アニメ見るようになったっけ。親を起こさないようにこっそりテレビ点けてな……うわ、脳汁出て来たわ。


「なに言ってんのアンタ。自分だって使ってたのに忘れてたみたいな顔して」

「気にするな気にするな。ま、とりあえずこのメタリックイエローのやつにするわ。軽いし、安いし、カッコイイし、お前に大事な相棒を決められたくないし」


 そそくさと目の前にあったゴツい端末を手に取り、俺は受付のところにいる母親に持っていく。パケホーダイだのiモードだのすっかりご無沙汰になった単語にざわつきながら、契約を済まして大学生風のお姉さんから端末が手渡されて、ちょっとワクワクして受け取る27歳。年々巨大化していくスマホと比べ収まりのいいこの画面サイズ感、うん安心する。さっそく起動して色々設定しようと近くの椅子に座った。


「おお。このボタンの配置、染みるわぁ〜。メールボタンに着歴ボタン。大して画質の良くないカメラ。それと謎の5を長押しでボイスメモ起動。ああ、今世紀最大のノスタル!」


 と、一人で盛り上がってると、隣にあざみが座ってきた。なんだよいきなり。様子を伺う。


「ん」


 自分の携帯を取り出し、こちらの携帯の背中にくっつけてくるあざみ。だからなんだよお前。反射的に携帯を遠ざけようとした時、俺の頭の中でこの感覚に強烈なデジャヴを覚えた。

 赤外線だ!


「なに、さっきから一々楽しそうにして。そんなに新機種が嬉しかった?」

「うへへ、いやぁ、もうこれは殺しにきてるね」

「は? 病気なの?」


辛辣な言葉を浴びるがテンションの方がまさって、全く気にならない。ああ素晴らしきかな文明のリキ。いつの時代もお前は俺らに感動を与えてくれる。グラシアス! とってもグラシアス!

 あざみを置き去りに盛り上がってるのもそこそこ、メールアドレスを交換し合ってアドレス帳にあざみを登録。前の携帯の情報は移せなかったため1からのスタートだが、まあ今の俺にはあんまり気にしなくていいだろう。始まる。これで逢瀬ともアドレス交換してメールとか、電話とかしてドキドキの青春物語始まる!

 待ってろよ!







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