6_おじさんの桃色作戦
作戦1。
『勉学に勤しみ、良い成績を収める。』
→逢瀬まなつに勉強を教えられる関係になる!
クラス委員の活動時などに勉強の話になったら、俺が分からないところを教える流れに持って行ける。大人の頭脳を見せてやるのだ!
作戦2。
『部活に一生懸命取り組み、学生らしく!』
→逢瀬まなつに何事にも頑張れる人間である事をアピールするとともに、好きな音楽の話題で更に仲良くなれるよう、彼女の好みを訊いておく。(ゆくゆくはフェスに二人で行きたい)
作戦3。
大人の余裕。大人の余裕。大人の余裕。猿になるな、人間であれ。
「さっきから何書いてるのよ」
報告である。かのバタフライエフェクトにより、2-3の男子のクラス委員は抽選(くじ引き)となったが、俺は見事勝利した。
年甲斐もなくガッツポーズを決めたのをあざみに冷たい目で睨まれながらも、俺はついにギャルゲーさながらフラグを回収し、本来冷めていた青春に光を灯したのだ。さあ、勝負はこれからだ。
で、それから一週間くらい経ったある日の授業前、早速これからの逢瀬まなつと恋人関係になるための更なる桃色作戦を立ててる最中であったが。
「なんでもねえさ、ご主人サマ」
「うっざ……なんでそう何度も掘り返すのかしら。この前の事は謝ったでしょ。それより、なにその紙。見せなさいよ」
隣でこそこそ書いてたのが目についたのか、あざみに見つかりそうになっていた。こういう隠し事みたいなのは、あざみはとことん嫌うタイプだ。気になって仕方なくなるらしい。
けどこの紙は見られてはならない。逢瀬への好意が丸見えなのはよしんば良くても、あざみの事だ、また変に騒ぐ可能性がある。最悪、逢瀬本人にバレるかもしれん。それは避けたい。
「これは、ほら……そう、クラス委員の仕事だ。だからお前には関係のない物さ」
「今"逢瀬"って文字が見えたわね」
「( ゚д゚ )」
慌てて紙をあざみから遠ざける俺。くそ、見えないように書いていたつもりなのに、どうやって見たんだコイツ……と、不意にあざみがニヤリと悪い笑みをした。
「かまかけたのよ。ったく、なあにクラス委員一緒にやれるからって浮かれちゃってさ。気持ち悪い」
「う、浮かれてねえし。それと気持ち悪いって言うな」
「ま、私はアンタが誰を好きになろうが関係ないけど……でも、その紙は気になるわ」
すい、と体ごとこちらに寄せて、紙を奪おうとするあざみ。ちっ、昔もそうだったが、強引な女だ。くっつかれても俺は動じないぞ。動かざるごと山のなんたら。
「やめろ、あざみ。おい、こんなとこで抱きつくな」
「抱きついてないわよ。ほら、よこしなさい」
「あーもう! 離れないと、どさくさに紛れて胸触るぞこの」
変態発言してみたがお構いなし。あざみは俺に体をくっつけて紙を取ろうとしてくる。こいつわざとやってるだろ。あざみの朝シャンの匂いにちょっと良い気持ちになりながらも、俺は紙を死守。って、あ、勢いで紙が手から離れて向こうに――
「おっはよー宮田くん! あのね、さっき先生がクラス委員の……あれ、なにこの紙?」
そこにタイミングよく、逢瀬がこっちへ来てしまう。そして拾われる、社会人らしい戦略プロット。動かない体。おいあざみ、てめえ逢瀬がこっちに来るの見計らってやったな……!
「逢瀬、それはその、ほら、なんていうか」
「ラブレターでしょ」
「ばかこのやめろや!」
やり合う俺らをよそに、A4のルーズリーフに書かれた文字は確実に逢瀬に読まれ、逢瀬にキョトンとされてしまう。ああ、引かれたな、こりゃ。せっかく転生タイムスリップしてきたのに、あざみのせいで俺の青春は幕を閉じた。バッドエンド。
……そう簡単に上手く行くハズないのだ。
「これ、宮田くんの?」
逢瀬がこっちを見た。あざみはいつの間にか体を元の位置に戻して、何事も無かったかのようにしている。
「お、逢瀬、それは」
「あはは。そうなんだね」
「……う、うん」
逢瀬がゆっくりと近づいて、いつもの元気な笑顔で俺に紙を返す。受け取った俺は、何を言っていいのか、黙って逢瀬の言葉を待った。
「あのね、さっき先生が、クラス委員で進路調査の結果を集計して提出して欲しいって言ってたの。だから男女手分けしてやろうと思って」
「え? あ、うん」
「じゃ、放課後ね!」
だが、すんなりとスルーされ、彼女は授業開始のチャイムとともに踵を返して自席に戻っていった。え。なんか一番悲しい感じなんだけど。俺は頬杖をついてる隣のあざみに文句を言ってやろうとしたが、あざみは素知らぬ顔で手だけこちらに寄越した。なんて書いたあったか見せてみろってか。自分で逢瀬が来るタイミング見計らったくせにコイツは。
「マジでラブレターだったの?」
「ちげえよ。戦略資料だ」
「ふうん。どれどれ」
もう抵抗するのも面倒になり、あざみに紙をやった。あざみは特に表情を変える事なく流し読みし終えると、いきなり紙をくしゃくしゃし出して、丸めたそれ空いてた窓から投げ捨てた。
なんだコイツ。
「お前……誰かに拾われたらどうすんだよ」
「ふん。あんなキッモいの、誰も拾わないわよ」
「あのなぁ……はぁ俺の作戦がよお」
すると、何故かあざみは少し嬉しそうな顔をして、俺の耳元でこっそり言った。
「ま、せいぜい頑張りなさい」
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